林芙美子は『放浪記』『浮雲』などの代表作を持つ昭和の作家。作品を読んだことはなくても、彼女の住まいに対する確固とした考えに触れると、一度その家を訪れたくなる人は多いのではないでしょうか。
暑い季節でもしっとりとした日本の涼を感じられる、彼女の住まいを公開する「林芙美子記念館」を紹介します。
住宅街にひっそりとたたずむ
新宿区落合の住宅地に溶け込むようにたたずむ「林芙美子記念館」は、訪れる人もさほど多くなく、散策の穴場スポット。数寄屋造りの細やかさと、民家風の大らかさを併せ持つ建物は、日本の家のよさを存分に味わえます。
青々とした竹が美しい玄関。芙美子の生存中は庭にも一面竹が植えられていたそうですが、死後は少しずつ切られてしまいました。
母屋(生活棟)とアトリエ棟(書斎・書庫なども)を分ける中庭は、同時に2つの棟をつなぐ役目も。木々の落とす影が、心地よい涼を生み出してくれます。
客間は簡素に、生活空間に十二分にお金をかける
芙美子は何よりも生活空間を重視しました。玄関脇の客間はたしかに、毎日のように原稿を取りにくる多くの客人がいたわりには、簡素な部屋です。芙美子と親しいごく少数の記者たちだけが、茶の間に通されたのだとか。
暮らしやすさを一番に考えた茶の間。掘りごたつ、収納式の神棚、多くの引き出しや戸棚など機能性も併せ持っています。もちろん庭の眺めも楽しめる、一家団らんの場でした。
次の間。モダンな雰囲気をかもし出す押し入れのインド更紗は、芙美子が大工に命じて貼らせたもの。奥の寝室では、家族揃って朝食をとる姿も見られました。中庭側の濡れ縁に座り、朝の景色を眺めながらときどき芙美子は、冷酒を一杯飲むこともあったそうです。
家事が好きだった芙美子は、台所にもこだわりました。人造石研ぎ出しで仕上げた流しは、耐久性はもちろん、使うほどに味わい深い品を漂わせます。たしかに、ステンレスの流しとは一味違いますよね。
こぢんまりとしていながらもすっきりと清潔な風呂場。総檜の浴槽は入りやすいよう、落とし込み式になっています。薄いベージュの大きめタイルは、時を経た現代でもセンスよく感じるほどです。
現代は展示室として使われているこの建物は、元々は画家であった夫・緑敏のアトリエとして建てられました。
日常でありながら非日常を感じる庭
庭には飛び石やつくばい、灯籠もあり小さな散歩を楽しめます。ベンチに腰をおろすと、近くのお寺の鐘の音や、ほととぎすの声も聴こえ、風が吹けば木々のざわめきが心地よく感じられます。
日常でありながら、ふっと非日常的な立ち止まりもできる庭。その庭でつながれた住居。
現代のマンション暮らしなどでは忘れてしまった我が家の中での自然の癒しを思い出す空間です。芙美子の理想とした「東西南北風の吹き抜ける家」は、今もなお、客人たちを魅了し続けています。
※6月の29日と30日は、普段見ることができない建物内部の特別公開があるそうです。申し込みは往復はがきで6月15日必着。
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林芙美子記念館|公益財団法人新宿未来創造財団住所: 東京都新宿区中井2-20-1
電話: 03-5996-9207
開館: 午前10時から午後4時30分まで(入館は午後4時まで)
休館: 月曜日(月曜日が休日の場合はその翌日)、年末年始(12月29日~1月3日)
入館: 一般150円、小・中学生50円
[All photos by Aya Yamaguchi]
Aya Yamaguchi 統括編集長
インターネットプロバイダ、旅行会社、編集プロダクションなどを経てフリーに。旅と自由をテーマとしたライフスタイルメディア「TABIZINE」編集長を経て、姉妹媒体「
イエモネ」を立ち上げる。現在は「TABIZINE(タビジン)」「イエモネ」「novice(ノーヴィス)」「bizSPA!フレッシュ」統括編集長。可愛いものとおいしいものとへんなものが好き。いつか宇宙に行きたい。
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