お寺を訪れたときに、ぜひ体験してほしいものがあります。それが、暗闇の中を歩く戒壇巡り(かいだんめぐり)です。お寺によっては、胎内巡りや胎内くぐりとも呼ばれています。
氣を抜けば、暗闇からは戻れない・・・戒壇巡りを体験
今回筆者が戒壇巡りを体験した場所は、石川県にある俱利迦羅不動寺(くりからふどうじ)の西之坊鳳凰殿。俱利迦羅不動寺は、インドの高僧である善無畏三蔵法師によって、およそ1300年前に開かれた古刹寺院です。
俱利迦羅不動寺の戒壇巡りは、本尊の真下となる、お堂の地下回廊を巡ります。 暗闇の地下回廊を、右壁に巡らされたお数珠にそって進み、“如意宝珠(水晶の珠)”に触れ、願いや祈りをささげて、ふたたび暗闇の中を歩いて地上に戻ります。如意宝珠に触れることでお不動様とのご縁が深まり、願い事が叶うと言われています。 また、暗闇なので見ることはできませんが、地下の回廊の左壁一面には、たくさんの仏像が鎮座しており、戒壇巡りをする者の心身を浄め、護ってくれるのだそう。
「戒壇巡りでご注意頂きたいことがあります。御本尊様の胎内(お堂の地下)に入ったら、右側の壁に巡らされているお数珠からは絶対に手を離さないでください。お数珠から一度手を離してしまうと、闇の中で左右・前後ろが分からず、こちらに戻って来られなくなってしまいますので・・・」
と、お寺の方から説明を受けたときには、戒壇巡りの入り口が、異界の入り口に思えてきました・・・。
塗香(塗るお香)で両手を浄め、小さな水晶玉を渡された後、戒壇巡りが始まります。
漆黒の闇の中で感じること
実際に戒壇巡りを体験してみると、日常生活では意識が及ばないような気づきがありました。
漆黒の闇の中、頼りは肌にあたるお数珠の感覚だけ。視覚が機能していないため、一歩一歩がとてもゆっくり。日常では感じることのなかった暗闇への恐怖心もあいまって、如意宝珠までの距離がとても長く思えます。
5分もない戒壇巡りでしたが、地上にたどり着いたときは、ほっとしました。
「光があり、見える」ということが心に与える安心感。己の中に眠る得体の知れない恐怖心。余計なものが視界に入らないため、“今この時”に湧き出る感情や意識だけに集中し、精神の旅をしているかのように感じました。 非日常な漆黒の空間だからこそ自分の内面と向き合えた、新鮮な体験でした。
住職に聞いた、戒壇巡りの意味
俱利迦羅不動寺 五十嵐住職
「戒壇巡りは、本尊の真下にある暗闇の空間を、仏や菩薩の胎内に見立てており、“もう一度生まれ変わるという気持ちになり、新たに道を歩む” “あらためて神仏とご縁を結ぶ” “穢れを払い本当の自分に逢う”など、さまざまな意味がある有難い体験です。」
と、戒壇巡りの意味を教えてくれたのは俱利迦羅不動寺の住職。また、住職は戒壇巡りの必要性についてもこのようにお話ししてくれました。
「私たちは普段、物が見えるのが当たり前の生活を送っています。戒壇巡りを体験すると、光が無い世界はどんなに不自由であるかが分かるでしょう。また、五感のうち視覚に大変に依存していますので、光が無いと不安を感じるのでしょう。
暗闇の中では、視覚以外に頼ることになります。触覚や聴覚に頼るのですが、本当に頼るべきは「心の眼」です。怖いと思うのは、自分の心が不安定だからです。心をコントロールできれば、雑念や邪念にとらわれることない平穏な気持ちで自分自身と対峙できます。
そもそも、お母さんのお腹の中にいる時は、あまり目が見えてなくても怖くなかったはずです。私たちは大人になるにつれ色々な物事を見て知っているように思っていますが、大切なものを忘れていっているのかも知れません。
忙しく生きる現代人こそ、本当の自分と向き合う戒壇巡りのような時間が必要なのではないでしょうか。」
住職のお話しから、暗闇の役目や大切さを考えさせられました。
戒壇巡り(胎内巡りまたは胎内くぐり含む)は、寺院によって呼び名も手順も異なることもあるようですが、日本各地の寺院で体験できます。
チャンスがあれば、ぜひ、一人で暗闇の中を巡ることをおすすめします。ひとりだと、より多くの気づきに出会えると思います。
[Photo by Masashi Yoneda All Rights Reserved.]
LOCO Yoneda ライター・編集者。
自由と自然を愛し、Vanlifeにて日本を旅する。
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