日本ではすっかりおなじみになった秋の味覚のひとつ「ボジョレーヌーヴォー」。その年、一番初めにできたワイン。イタリア語ではヴィーノ・ノヴェッロといって、もちろん同じように「初物」として市場にもでるのですが、それよりもイタリア人が待ち望んでいる「初物」があります。それは今年摘みたて、できたてのオリーブオイル「オリーオ・ノーヴォ・デッレ・オリーヴェ」。
なぜ、楽しくおいしく酔わせてくれるワインよりも、調味料のオリーブオイルなのか? その魅力をご紹介します。
そのおいしさはまずはここから。手作業で行われるオリーブ摘み
イタリアワインの一大名産地であるトスカーナ地方は、また、オリーブオイルの名産地でもあります。トスカーナでは、オリーブの収穫は、ワイン用のぶどうの収穫が終わった後、大体11月上旬頃行われます。
地方によって摘み方も違いますが、トスカーナでは基本、手作業で収穫します。このようにオリーブの木の下にネットを敷いておいて、オリーブの実を熊手で掻いて落として、集めるのです。
収穫したオリーブの実はすぐに搾油所に運ばれオリーブオイルを搾ります。収穫してから、できるだけ早くオイルにした方が風味がそこなわれずに良いので、収穫時期の搾油所は大忙しです。
初物オリーブオイルだけが持つ特別なおいしさ
とれたてのオリーブオイルはこんなキレイな緑色をしています。これは新鮮であることもそうですが、トスカーナでの収穫時期が、実がようやく熟れた、ちょうどその時に収穫することにも関係します。そしてこの絶妙な収穫のタイミングは味に大きく影響します。
ようやく熟したばかりの実は、果物でもそうなように、若い青い香りと、フレッシュな果実味を残しています。その香りは、ハーブや森の香りの良い葉を束ねてブーケにしたような、爽やかな緑色の香り。それは遺伝子レベルでさかのぼった記憶の奥深くに染入るような、人々を慈しんでくれた緑の香り。油特有のまったりとした臭さはまだありません。
そして、味。これが私たちの知っているオリーブオイルとまるで違うのです。オイルだけを味見してみると、ピリリとした辛み、それから苦みと渋みを感じます。初めてこれを味見した時にはびっくりするほどの刺激的です。しかし、そのあと、鼻から抜ける爽やかな緑の香り、滑らかな口触りのよさが、刺激的な味とのバランスをなし、刺激的でありながら、えも言われぬおいしさとなるのです。
これを、例えばゆでただけのパスタでも、ジャガイモでもいい、料理の仕上げにちょっと加えるだけで、「料理上手になった?」と思ってしまうほど、味わい深い一品になります。
油は空気にふれるとどんどん酸化していきますので、この味と香りを楽しめるのはとれたて一番を味わえるこの時期だけ。時間が経つと、この爽やかな香りもとび、刺激的なおいしさもまろやかになり、普通のオリーブオイルになっていきます。ですので、原産地のイタリアですら、今この時期しか、しかも生産者から直接届くものでないかぎり味わえない、貴重な、稀少なおいしさなのです。
オリーブオイルだけでなく、「とれたて」とか「旬」とか、「限定品」とかでも、その時しか味わえないものってなんだか心ときめきますよね。今一番おいしい何かに出会えた時の高揚感は、旅に出て新しい何かに出会うそれに似ているような気がします。明日そんな食べ物にであったら試してみるのもいいかも。おいしいものを食べて、小さな旅にでたような楽しさを味わえるかもしれませんよ。
[All photos by Ryoko Fujihara]
Ryoko Fujihara フォトグラファー&ライター
イタリア・フィレンツェ在住フォトグラファー&ライター。東京でカメラマンとして活動後、’09年、イタリアの明るい太陽(と、おいしい食べ物)に魅せられて渡伊。現在、イタリアで撮影・執筆活動をしつつ、更なる美しい景色を求めてカメラ片手に旅を続けている。
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