フィレンツェの人々の心の教会ともいわれる、フィレンツェで重要な教会のひとつ、サンタ・クローチェ教会。あのミケランジェロも眠るこの場所で、今とても興味深い美術展が開催されています。「芸術の言葉—ジュゼッペ・カスティリオーネの作品展」。画家であり、宣教師であった彼が、清王朝時代の中国に渡り、描いた作品を集めた展覧会です。
18世紀、まだまだテレビやネットで世界を遠くから見ることが出来なかった時代、西洋人の彼が見た別世界の東洋を、素晴らしい技巧をもって描かれた絵画。さて、初めて見る東洋の景色は西洋人の瞳にどのように映ったのでしょうか? 彼の作品の中に、彼が体験した大いなる冒険の軌跡を探してみましょう。
光が映し出す物を描いた西洋、光がある空間を描いた東洋
画家でもあり、キリスト教イエズス会の宣教師でもあったジュゼッペは、清王朝からの、西洋の才能ある画家を派遣して欲しいという要望を受けて中国へ渡りました。その後、宮廷画家として、清王朝の皇帝、3代に渡り仕えます。中国の画家に西洋の技術を伝える役割の他、バロック様式を取り入れた離宮「円明園」も設計する等、中国芸術に大いなる影響を与えました。
もちろん、影響を受けたのは中国だけではありません。全く知らない、見たこともない景色と文化に触れて、大いなる影響を受けたのはジュゼッペも同じでした。
離れてみれば、私たちにはおなじみの掛け軸に見えるこの作品、近づいてみれば、まるで本物のように柔らかく繊細に描かきこまれた羽、花びら。そこにある光が照らす物をそのままに、本物以上に美しく紙の上に映し出そうとする緻密で繊細な中世期の西洋画。確固たる技術と自身を持ってやってきた彼が見た新たなる世界、価値観、技術。それはどんな衝撃であったでしょう。
自分の技術の良さを意固地に主張してしまいそうな状況にあっただろう彼が描いた絵には、なんとか東洋の美しさや技術を取り入れようと試行錯誤した跡が見受けられます。それは新しい物に刺激されていたずらに模倣したのではない、それを美しいと思って真摯に向き合っていることが、その絵からよくわかります。
異国の美しさをまっすぐに見つめつづけたジュゼッペの絵が教えてくれること
例えば私たちが旅をして、知らない景色、人、文化、習慣に出会ったとき、自分が持っている規定概念を外して、まっすぐに自分の知らない物と向き合うことができているでしょうか。真摯に、それを知ろうと努力しているでしょうか?
知らない物を理解するのはとても難しい。でも、少なくとも美しい物を素直に美しいと感じられる、まっさらな心でありたい。そうすれば、理解しきれなくてもせめて寄り添えるのではないかと思います。西洋と東洋の扉が開いたばかりの渦中で、まっすぐな瞳で見つめつづけたジュゼッペのように。
ジュゼッペ・カスティリオーネの展覧会は2016年1月31日までサンタ・クローチェ教会にて開催されています。詳しくはこちらから。
[All photos by Ryoko Fujihara]
Ryoko Fujihara フォトグラファー&ライター
イタリア・フィレンツェ在住フォトグラファー&ライター。東京でカメラマンとして活動後、’09年、イタリアの明るい太陽(と、おいしい食べ物)に魅せられて渡伊。現在、イタリアで撮影・執筆活動をしつつ、更なる美しい景色を求めてカメラ片手に旅を続けている。
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