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【連載】あなたの知らないリアルなニューヨーカー/第1回「グアテマラから歩いてきた彼」

Posted by: 青山 沙羅
掲載日: Apr 4th, 2016. 更新日: Jul 22nd, 2023
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ニューヨーク在住、TABIZINEライターの青山沙羅です。あらゆる国から人が集まっている、ニューヨーク。この街には集まった人の数だけ、異なる人生があります。世界の大都会を輝かせているのは、この街を目指した人々の希望、絶望、涙、吐息。筆者の心に残る、忘れられないニューヨーカーたちとの出逢いを語ってみましょう。絵空事ではない、あなたが知らないリアルなニューヨーカーとは。

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NYで生きていければ、世界中のどこででも生きていける

【連載】あなたの知らないリアルなニューヨーカー/第1回「グアテマラから歩いてきた彼」
(C) Hideyuki Tatebayashi


グアテマラの人

彼は、初めて話したスペイン語圏の人。そして、初めて出来たラテン系の友人。99%ラテン系生徒の英語のクラスで浮いていた日本人と、昨日ニューヨークに着いたばかりの彼は、どちらも緊張していました。クラスのほとんどが、コロンビア、エクアドル、ホンジュラス、エルサルバドル、メキシコなどラテンアメリカの出身。恥ずかしながら、コーヒー豆の産出国だなあとぼんやり思うほどの知識しかありませんでした。

「会話の練習をやるので、近くにいる生徒と二人一組になれ。やる気のない奴は放っておけ、他の生徒を探せ」との英語の先生の言葉に、慌ててあたりを見回した時、目があったのが彼でした。やや浅黒い肌、小柄でがっしりした彼は、どことなく哀愁を帯びた顔をしていました。先住民(マヤ系)の血を引いているのでしょう。「グアテマラから来たんだ」とポツリと語った横顔に、真面目な人柄が見てとれました。その日から私たちはパートナーを組むようになり、毎日隣の席に座るようになったのです。彼の名前はオスカー、20歳。

【連載】あなたの知らないリアルなニューヨーカー/第1回「グアテマラから歩いてきた彼」

自分の国から、歩いてきたんだ

隣同士に座って一緒にクラスを受けて、3日目くらいだったでしょうか。「僕は、兄さんとグアテマラから歩いてきたんだ」というではありませんか。ニューヨークの隣の州ではありません。地続きとはいえ、故国から歩いてきたというのです。オスカーはお兄さんとグアテマラから17日間かけて徒歩で来て、ニューヨークに着いたばかりでした。

【連載】あなたの知らないリアルなニューヨーカー/第1回「グアテマラから歩いてきた彼」

ニューヨークに着いた次の日には、学校へ行き、仕事に向かった

名前しか知らないラテンアメリカの国、グアテマラ。故国から兄と二人で歩き続ける道のりがどんなものだったのか、想像もつかないことです。道無き道もあったのかもしれません。1996年まで内戦の続いていたグアテマラの治安が良くないと知ったのは、後になってからのことです。17日間歩き続けた旅路の末、マンハッタンの摩天楼を二人で仰ぎ見た時はどんな気持ちだったのでしょう。彼らの気持ちを推し量ると、涙ぐみそうになりました。

ニューヨークに着いた次の朝に英語のクラスに出席し、午後からはデリの裏方の仕事に向かったそうです。グアテマラを出る時に、ニューヨーク生活の青写真の手配は出来ていたのでしょう。デリとは、ニューヨーカーには欠かせない食料品店で、サンドイッチを作ってくれるカウンターとサラダと暖かい惣菜のあるバッフェがあり、お菓子や飲み物も買うことが出来るところです。

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国には送金している

ラテンアメリカのほとんどの人が、故国の家族に送金しています。日本の若い人たちと、なんという差だろうと驚きました。ニューヨークで留学生活を送っている日本人は、すでに成人しているにも関わらず、親から送金してもらっている人が多いからです。

オスカーは、6年付き合った恋人が故国にいたそうです。彼女は自分を置いていってしまった彼を、恋しがっているのでしょうか。

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ニューヨーカーになる洗礼を受ける

オスカーとは数か月クラスを共にし、隣の席に座りました。彼は耳の横に鉛筆をはさんで授業を聞き、芯が丸くなると、鉛筆削りで削っていました。多くのクラスメートが鉛筆を使い、鉛筆削りは貸し借りしていました。シャープペンシルを使っていたのは、筆者ただ一人だった気がします。

始業前に着席している真面目な彼が、珍しく遅れてきたのは、試験の日でした。フラフラしながら席に着くと、答案用紙を眺めたまま、頭がグラグラ揺れています。しばらくすると、立ち上がって出て行ってしまいました。次の日に他の男の子に聞くと、どうやら前日に痛飲して、テストの時は二日酔いだったようです。その時に、「ああ、ニューヨーカーになる洗礼を受けているのだな」と感じました。

それぞれの故国と、誰もが凌ぎを削って生きているニューヨークとでは、生活が大きく異なります。この街は、特別な街なのです。職場で辛いことがあったのか、英語をからかわれたのか、いずれにせよ、誰もが経験するニューヨーカーになるための通過儀礼を受けたのでしょう。クラスメートが昨日の彼の様子を茶化すと、「もうビールは飲まないよ」と苦笑していました。

オスカーはしばらくすると、職場にも慣れ、同じ国の新しいガールフレンドを見つけ、ベースボールキャップを被り、ニューヨークへ溶け込んでいきました。仕事がきついのか、クラスでは居眠りするようになり、学校へ来るのが辛そうでした。4週間休暇を取って戻ると、彼の姿はクラスから消えていました。

ニューヨークにいるラテン系(スペイン語を母国語とする国の人)は2010年当時約30%弱でしたが、2016年現在40%近くにはなっているのではないでしょうか。今でも、デリの前を通ると、オスカーの姿を探さずにはいられないのです。

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(C) Hideyuki Tatebayashi
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[Photos by shutterstock.com]

青山 沙羅

sara-aoyama ライター
はじめて訪れた瞬間から、NYに一目惚れ。恋い焦がれた末、幾年月を経て、ついには上陸。旅の重要ポイントは、その土地の安くて美味しいものを食すこと。特技は、早寝早起き早メシ。人生のモットーは、『やられたら、やり返せ』。プロ・フォトグラファーの夫とNY在住。


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