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連載旅小説「私はニューヨークなんか、興味がなかった」第5話/ココ二、スワリマセンカ?

Aug 31st, 2016



私はニューヨークなんか、興味がなかった。

旅に出ると荷物が増えるものだ。
その土地で入手したお土産など、形あるもの。感動、出会い、思い出など形のないもの。私は反対に、この街で心の重荷を下ろし、人生の荷物を身軽にしようと思ったの。

私の名前は、白雪ひとみ(しらゆきひとみ)。通称「ヒメ」。

違う自分に逢いたい

連載旅小説「私はニューヨークなんか、興味がなかった」第5話

女性が自分に変化を求める時、手っ取り早いのは外見を変えること。

ヘアスタイルを変えてみよう。ロングヘアは私のトレードマークだったけど、今は身軽になりたい気分。鈴子の知人が長年通っているユニセックス(男女両用)ヘアサロンを、紹介してもらった。アスタープレイスにあるAstor Place Hairstylistsは、正直床屋さんという雰囲気。

スージー(Suzy)は、アジア系の髪も得意なベテランのヘアスタイリスト。鈴子に教わった「Make me pretty, please.(綺麗にしてね)」 で、「OK」と手早く切り始めた。時間は30分もかからなかったかしら。

鏡に映ったのは、違う自分。前髪を眉に合わせて下ろしたので、目が強調されて大きく見える。顎の線で切り揃えた長さは、首が長く、顎が細く見える。目を丸くして驚いている私に、スージーがウィンクした。

ファッションも変えてみる


新しいヘアスタイルに合わせて、ブルーミングデールス(Bloomingdale’s)で服を買ってみることにした。このデパートは、日本で言えば伊勢丹みたいな感じね。

思えば、東京ではオフィスの通勤着を意識して、黒やグレイ、ベージュなどの地味色ばかり。いつもと違うファッション。ちょっとだけ冒険。知らなかった自分に会える。

ニューヨークでは、若い世代より、老人の方が派手なの。80歳を超えているであろうバアサマが、オペラピンクやターコイズブルーなどの明るい綺麗な色を着ていることには驚いた。はっきりしたローズピンクの口紅を塗って、きちんとメイクして。生きる限り女性は美しくありたいものだし、歳をとるとくすみがちな顔色も明るい色が映えて、華やかに見える。他人の目を意識し、自分自身も楽しむためにも、何歳であろうと綺麗にしているということは素敵。

■あわせて読みたい
【現地生レポート】眩しいほどに美しい、ニューヨークの「夏服を着た女たち」
http://tabizine.jp/2014/06/19/12656/

ニューヨーカーは褒め上手

連載旅小説「私はニューヨークなんか、興味がなかった」第5話
(C) Hideyuki Tatebayashi

ニューヨークの街を歩くと、「Nice Hair!(素敵な髪ね)」とすれ違った女性から切りたての髪を褒められた。

ニューヨーカーというのは人見知りをしないのか、知らない人によく声をかける。彼らは、褒め上手だ。

地下鉄で、ストリートで、「素敵な靴ね」「その服どこで買ったの?」
花を抱えていれば「綺麗な花だね」
犬を連れていれば「可愛いね。なんていう名前?」というように。

日本ではまずないことなので、初めはビックリしたけれど、相手を褒めるって素敵なことだと思わない? ほんのちょっと褒められることで、自信がつくし、その日1日が楽しくなるもの。


地下鉄のホームから聞こえたアリア

連載旅小説「私はニューヨークなんか、興味がなかった」第5話
(C) Hideyuki Tatebayashi

ニューヨーク滞在も2週間近くともなれば、地下鉄の要領はバッチリマスター出来た。まるで何年も住んでいるような顔をして地下鉄を待ち、降りたい駅で降りることが出来るようになったの。

地下鉄のホームで電車を待っていたある日のこと。突然、誰かが歌う声が聞こえた。ホームを歩いている人は、立ち止まって耳を澄ませた。携帯電話に夢中だった人も、新聞を読んでいた人も、顔を上げて声の持ち主を捜した。だって、その歌声は、力強く、美しく、天に届くようだったから。

地下鉄の轟音に掻き消されないように、誰もが耳を傾けた。魂を揺さぶられるような、涙が出そうな美しいアリア。こんな場所で、こんなパフォーマンスに出会えるなんて。

歌声の持ち主は、反対側のホームにいた。一曲歌い終わると、ホームにいた全員から惜しみない拍手が湧き上がった。もっと聞き惚れたい思いを残して、私は滑り込んできた地下鉄に乗り込んだ。

一生忘れられない歌声。ニューヨークって、素敵なところだ。そう、私は日毎にニューヨークが好きになってきているのだ。


ココ二、スワリマセンカ?

連載旅小説「私はニューヨークなんか、興味がなかった」第5話
(C) Hideyuki Tatebayashi

車両の窓ガラスに映る私は、違う私に見える。今までと違う髪型。いつもよりくだけたファッション。人間って、案外簡単に変われるものかしら。少なくとも外見は。

そんなことを考えていたら、「ココ二、スワリマセンカ?」と声をかけられた。
席を譲られるほど私は年寄りじゃないし、ニューヨークには休暇で来ているから疲れていないのだけど。声の持ち主が、「ドウゾ」と立ち上がった。ちょっと変なアクセントだけど、彼は日本語を話している。

「アナタハ、ニホンジンデスカ? ボクノオカアサンハ、ニホンジン。オトウサンハ、タイワンジン。ボクハ、アメリカジン」
「オカアサン二、ニホンゴヲナラッタケド、ツカワナイトワスレマス」
彼は日系2世のアメリカ人で、日本人らしい人を見かけると日本語を使いたいようだった。彼が私の隣に立ったので、私たちは並んで立ち話をすることになった。

いったい、何を話したのかしら? 緊張していて忘れてしまったけど。多分他愛もないこと。「ア、ジャ、ボク、ココデオリマス」と、彼は私が降りる二つ前の駅で降りて行った。私の住んでいる場所を尋ねるわけでもなく、電話番号を聞くわけでもない。ナンパじゃなかったみたい。私は呆気にとられた。

自分の降車駅で降りて、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
だって、彼は似ていたのだ。交通事故で亡くなった私の彼に。

連載旅小説「私はニューヨークなんか、興味がなかった」第6話は、9月7日水曜日にお届けいたします。お楽しみに!

■あわせて読みたい 連載旅小説「私はニューヨークなんか、興味がなかった」
第1話/人生のレールを外れると、何が始まる?
第2話/恋人紹介業者からスカウトされる!?
第3話/人間も愛しかたも一色じゃない
第4話/幸せにならなきゃ
第6話/恋に落ちたのは・・・

[Photos by Hideyuki Tatebayashi]

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(注)この物語は、フィクションです。

青山 沙羅

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