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連載小説「迷える女子に、幸せ行きの切符を」第1話/一人旅ってありかも?

Posted by: 栢原 陽子
掲載日: Feb 2nd, 2017. 更新日: Feb 14th, 2017
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連載小説「迷える女子に、幸せ行きの切符を」第1話/一人旅ってありかも?

出発17日前。PM9:00

連載小説「迷える女子に一人旅のススメ」第1話/一人旅ってありかも?

「結婚を前提に付き合って欲しい」

フランス料理のカタカナばかりのよくわからないメニューから出て来た「エスカベーシュ」という名の小魚料理を自分のお皿に移しながら千晴はその言葉を頭の中で反芻した。

レインボーブリッジを見下ろすホテルの上層階から見る夜景。目の前には美味しいワインに手をかけた背が高くて爽やかな35歳の男性。特別かっこいいというわけではないけれど、外資系証券会社で働いている聡は、メガネをかけていて真面目そうに見える。仕事が忙しいのか少し疲れているように見えるのが気にかかる。今までに3回食事をしただけでそう多くは知らないけれど、話は面白いし優しいし、「どうしてこんなにステキな人が未だ独身なんだろうか?」と思う同時に「どうしてこのセリフを言ってくれるのが大地じゃないんだろうか?」と不思議になる。

この冬、千晴は34歳になった。「結婚したい」まさか自分がそんなことを願う日がやってくるとは思わなかった。家事は嫌いじゃないけれど仕事が好きで「主婦」というものに憧れたことはない。けれど、35歳を目前にして周りから結婚について聞かれる度に少しずつ不安の波が大きくなっていった。コンビニで立ち読みした雑誌に、産婦人科医の「子供は35歳までに1人」といったインタビューが紹介されており、その記事が千晴の焦りにとどめを刺した。

結婚したいと思う相手がいないわけではない。3年間付き合っている同じ年の大地とはケンカしながらも取り立てて問題なく今日までやってきた。何よりの問題は大地が結婚に興味がないことだ。2年前に友達と立ち上げた会社が忙しいらしくほとんど休みもとれない。

久しぶりに大地に会った日、「私も来年は35歳だし、結婚や子供を考えたい」と切り出すと「今はまだ結婚は考えられない」と先日もケンカになったばかり。大地との将来に疑問を抱いている時に、親戚から「そろそろ」と勧められて断りきれずに初めてのお見合いをしたのが聡だった。

お見合いなんだもん。そりゃ、結婚の話が出たって不思議じゃないよね、と思いながらも即答できず「少し時間をください」と告げてタクシーに乗った。

(次のページに続く)

2話以降はこちらから!

出発14日前。PM9:30

連載小説「迷える女子に一人旅のススメ」第1話/一人旅ってありかも?

「ねぇ、私どっちを選んだら幸せになれる?」何度も繰り返される答えの出ないこの問いに千晴の会社の先輩にあたる真由はもううんざりしていた。
「しつこいー! ちぃはなんでもかんでも人に頼りすぎ! もうちょっと自分のことを自分で考えたほうがいいよ」
そう言われて、確かにそうだなと人生を振り返る。プライベートは仕事のようには割り切れない。仕事だったら結果を出すために何をするべきかが明確なのに、ランチのメニュー選びも恋人選びもどっちを選んでも幸せになれそうで、どっちを選んでも後悔してしまいそうで、どの道が幸せにつながっているのかがわからない。

中学生の頃から比較的目立つグループにいた千晴は中2で彼氏ができてから恋人が途切れたことはなく、デートコースも旅行先も宿泊先もいつも誰かが決めてきてくれた。そのことに対する不満はなく、仕事が好きでプライベートにあまり関心がない千晴にとって案内されて知らない土地を巡る旅行は苦ではなかったし、むしろ自分の時間を割いて予約しなくて良いことを考えるとありがたいほどだった。

「真由ちゃんは結婚もして幸せだからそうやって私を突き放すんだよー。ねぇねぇねぇねぇ私、どうしたらいいのー?」と子供のように繰り返す千晴のお酒を取り上げながら真由は少し考えて言った。
「私もね、千晴みたいに迷ったことはあるよ。もちろん結婚する時だってそれなりにマリッジブルーになったし。自分で決められなかったし、誰かに決められるのも時間の流れに任せるのもイヤで、答えを探したくて旅に出たんだよね。初めての一人旅! それが意外と良くて。それから迷っている時や悩み事がある時は、今でも1人でホテルに泊まったり知らない土地に行ったりしてるけど、結構いいかも? ちぃもちょっと一人旅でもしてくれば?」
我ながらイイアイデア、と言わんばかりに真由は旅行を勧めるが、千晴のテンションは一向に上がらなかった。

(次のページに続く)

2話以降はこちらから!

出発14日前。PM10:30

「大地と聡さん、どっちと行くかさえ決めれないよー」
と嘆く千晴だが真由はそんなことは当然わかっている。
「はっ? 何言ってんの? 1人で行くの!」
お酒を取り上げられて机の上にうつぶせていた千晴は、顔を上げて怪訝そうに真由を見た。
「私、一人旅なんてしたことない。・・・無理、手続きとか面倒すぎる」

千晴は今すぐ自分の悩みを解決してくれる魔法のようなアドバイスが欲しくて目で訴えてみるが、そんな期待に反して真由からは冷たい視線を浴びせられた。
「一人で行ったことないから行くんでしょ?」

「じゃ、一人旅したら私の幸せへの答え出るー?」
と甘える千晴の頭を軽く叩いて真由は帰り支度を始めた。
「それは行ってみないとわかんないけど、今の自分で決められないなら、違う価値観を取り入れるしかないでしょ! すみませーん、お会計ー!」

店員を呼び止める真由を横目に、千晴は「1人で旅して1人でごはん食べて何が面白いんだ?」と思う気持ちを隠せないでいた。

変わらない憂鬱な気持ちを抱えたまま、電車に乗っていると真由からメールが届いた。
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from 真由
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初めての1人旅なら台湾がオススメ。日本語通じるし、治安もいいし、近いから休み取らなくてもいけるよ❤

【連載】47か国制覇の旅マニアが教える海外一人旅「滞在時間24時間の台北弾丸旅」
https://tabizine.jp/2016/12/14/109266/

まるで異世界!神隠しに遭いそうな、情緒ある台湾の町「九份」
https://tabizine.jp/2014/06/21/12947/

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メッセージの下に律儀に台湾の魅力を存分に紹介したリンクを貼っているところが真由らしい。「初めての一人旅なら、行くとしても国内がいい・・・」と思いながらもせっかくなのでと思いリンクを押した。

 

※この物語はフィクションです。過去および現在の実在人物・団体など実在するものとは関係ありません。

連載小説「迷える女子に一人旅のススメ」第1話/一人旅ってありかも?

[A photo by Shutterstock.com ]

栢原 陽子

栢原 陽子 Yohko Kayahara 作家・コラムニスト
「UNI:たった1つの人生をブランドに」をテーマに仕事、ヨガ、恋愛ネタで「きっかけ」を創り出す記事を執筆中。 ヨガ業界の真ん中でライター、プロデューサーとしても活動をしながら"幸せ"や"愛"、"人生の意味"の答えを探し求めて、ふと立ち寄った東京にて日々迷子になりながら人生の旅を続ける。 UNIBRAND:http://unibrand.jp

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