「宮内庁御用達」や「皇室献上品」という響き、日本人であれば聞くだけである種の格式や伝統、品質の高さなどを感じてしまいますよね?
皇室制度に詳しい作家・竹田恒泰さんのブログ によると、宮中に商品を納入する業者を古く江戸時代は禁裏御用(きんりごよう)と呼び、明治時代には宮内“省”御用、昭和の戦後には宮内“庁”御用達と呼んできたそう。
しかし昭和29年の段階で御用達制度が廃止されているため、今では宣伝などで「宮内庁御用達」を名乗れるお店はどこもないのだとか。
日本広告審査機構からも商品に「宮内庁御用達」と表記する場合の問題点が指摘されています。具体的には、
<現在では「宮内庁御用達」という文言は、歴史的事実として表示するような場合を除き使えない>(日本広告審査機構のホームページより引用 )
とのこと。
とはいえ当たり前の話ですが、宣伝に「宮内庁御用達」という文言を使えなくなっただけで、実際に商品を納入しているお店は存在し続けています。
そこで今回はリサーチする中で得た情報やメーカーの公式情報、さらには日本文化再発見研究室の『皇室御用達ものがたり』(祥伝社)などをもとに、いわゆる“宮内庁御用達”のスイーツ(お菓子)をまとめたいと思います。
“宮内庁御用達”のスイーツ:和菓子編
最初は皇室に献上される和菓子をまとめます。
(1)虎屋の花びら餅など
ようかんなどで抜群の知名度を誇る虎屋 は1586年に京都で創業した和菓子屋で、公式ホームページにも400年近く前から御用商人として御所に出入りをしていると書かれています。
明治になってからの東京遷都の際には、
<御所御用の菓子司として、京都の店はそのままに、東京へ進出する>(虎屋のホームページより引用 )
とあります。その関係は今でも変わらず続いているみたいですね。
(2)俵屋吉富(たわらやよしとみ)の和菓子
次は京都の俵屋吉富 の和菓子。あんこを手巻きにした生菓子『雲龍』が代表的な銘菓ですから、恐らく『雲龍』が納入されていると考えられますよね。
創業1755年の老舗和菓子で、公式ホームページには納入先として「宮内庁京都御所」と書かれています。他には金閣寺や銀閣寺、仁和寺などの名刹(めいさつ)にも取引先が多いと分かります。
(3)塩瀬総本家のまんじゅう
奈良での創業から660年以上の歴史を誇るという塩瀬総本家 。中国で食べられていた肉入りの食べ物をヒントに、肉食を禁じられた僧侶に対してまんじゅうを開発したという老舗中の老舗ですね。
その評判はどんどん広がり、後に天皇に献上されるようになった歴史的経緯も公式ホームページに書かれています。さらに、
<明治時代には、宮内省御用を勤め、今日に至ります>(塩瀬総本家のホームページより引用 )
とのこと。まさに“宮内省御用達”のまんじゅうですね。
(4)たぬき煎餅のせんべい
スイーツとは言えないかもしれませんが、せんべい屋として唯一“宮内省御用達”になった歴史を持つ老舗のせんべい屋もあります。たぬき煎餅 の創業は1928年。
公式ホームページにも、
<昭和7(1932)年に宮内省との縁を結ぶことになり、煎餅屋として唯一の「宮内省御用達」になりました>(たぬき煎餅のホームページより引用 )
とあります。第二次世界大戦時の東京大空襲で事業が中断した際には、皇太后陛下と宮内省より、お見舞いを賜ったのだとか。両者の深い関係が伝わってきますよね。
(5)清月堂本店 の和菓子 明治40年に銀座で創業して以来、ずっと同じ場所で商いを続けてきた老舗ですね。
公式ホームページ上には皇室に納入しているという記述がありませんでしたが、『皇室御用達ものがたり』(祥伝社)という本に、清月堂本店の和菓子が紹介されています。
伊藤博文や山形有朋など明治の要人に愛され、昭和7年の大みそかには初めて宮内省に和菓子を納入した記録が残っているそう。あえて“宮内庁御用達”という歴史的事実を、大々的に公表しないようにしているのかもしれませんね。
(6)文明堂のカステラ
次は有名な文明堂 のカステラ。公式ホームページを見ると1925年に、
<宮内省(現宮内庁)御用達を賜る>(文明堂の公式ホームページより引用 )
とあります。
宮内省御用達という制度が昭和29年に終わったとは先ほど書きましたが、
<それ以降、文明堂は天皇陛下をはじめ、皇室の方々に”献上”を行い、今日に至っています>(同ホームページより引用 )
との話。関係は今でも続いているのですね。
次は洋菓子です。
“宮内庁御用達”のスイーツ:洋菓子編
一方で洋菓子はどうなのでしょうか?
(1)コロンバンのビスケットやチョコレート
最初は1924年創業のコロンバン 。日本で初めてショートケーキを考案したと言われる洋菓子屋ですね。
そもそもこのお店、創業者が1924年に同店を開く前に、宮中でお菓子やアイスクリームなどを天皇陛下、皇族に作っていたのだとか。
そうした背景があったからこそ、
<1924年の創業当時から洋菓子業界唯一の宮内省御用達となり今日に至っております>(コロンバンの公式ホームページより引用 )
といった関係にあるのですね。
(2)銀座千疋屋の果物
洋菓子ではありませんが、明治27年創業の銀座千疋屋 もいわゆる“宮内庁御用達”だと分かります。TABIZINEでは過去記事「【帰省土産は事前に通販がおすすめ!】東京のお土産お取り寄せ5選」などで紹介した老舗ですね。
公式ホームページを見ると、その歴史の中に、
<昭和6年には宮内庁御用達を拝命いたしました>(銀座千疋屋のホームページより引用 )
とあります。
以上、皇室に納入をしている、いわゆる“宮内庁御用達”のスイーツを紹介しましたが、いかがでしたか? その他、和と洋の折衷スイーツ(?)として、木村屋總本店 のあんぱんも明治時代に皇室御用達となった歴史があると言います。
公式ホームページにもその経緯として、
<あんぱんは明治天皇のお気に召し、ことのほか皇后陛下(昭憲皇太后)のお口にあった。そして「引き続き納めるように」と両陛下のお言葉を頂いた>(木村屋總本店のホームページより引用 )
とあります。その他、京都・川端道喜の和菓子、同じく京都・松屋常盤の和菓子なども皇室に献上されていた歴史を持つそう。各店にそれぞれの歴史や物語があるんですね。
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Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(
https://hokuroku.media/ )創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。
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