日本にはいろいろとユニークな設計の美術館がありますよね。香川県にある地中美術館などはその代表例ですし、石川県にある金沢21世紀美術館も独特ですが、同じ北陸の富山県にもちょっと変わった美術館があります。その名も発電所美術館。
規模こそ小さいですが、館内のスタッフによれば最大出力6,330kw(一般家庭2,100戸分の電気量)の発電を行っていた実際の発電所をリノベーションして作った美術館なのだとか。今回は北陸に在住する筆者が、そんなユニークな発電所美術館を紹介したいと思います。
廃墟に足を踏み入れるようなドキドキがある
富山県の東部には入善町という町があります。その田園地帯の一角に、発電所美術館があります。自然の丘の落差23mを使って、大正時代から平地で発電を行っていた赤レンガ造りの建物を再利用した美術館。
本来は取り壊される運命にあったそうですが、町が北陸電力から譲り受け、美術館としてリノベーションを行ったそう。開館の翌年1996年には、後世に残すべき価値ある文化遺産として、国の有形文化財にも登録されています。
リノベーションを行ったといっても、館内にはタービンや操作盤などがそのまま残されています。音の響き方やにおいも外の世界と違うせいか、部外者として立ち入りが禁じられている廃墟に勝手に忍び込むような緊張感が味わえるはず。
館内の壁には、大人の男性をすっぽり飲み込んでしまうくらい大きな導水管も残されています。普段は黒いカーテンで覆われているのですが、中に入ってみると湿度が上がり、さびとかびが混ざったようなにおいがします。子どものころ大人の目を盗んで友達と潜り込んだ、枯れた地下水路を思い出しました。
次は要チェックのポイントを紹介!
常設展示はないので企画内容のチェックはマスト
美術館は1階に天井高10m近くの広いフロアがあり、入り口から正面の奥に1.5階のスペースが用意されています。
常設展示はなく、年3回の企画展で運営されているため、展示内容によって満足度が大きく変わってくるかもしれません。その意味で訪れる際にはどのような展示をやっているのか、しっかりと確かめた方がいいかと思います。
ただ、発電所をリノベーションした大空間に展示される現代アートは、さすがにどの回も来館者に何かを訴えてくる迫力があります。
例えば筆者が訪れたある回では、天井につるされた巨大な水がめが、時間になるとひっくり返って美術館のフロアに膨大な水をたたきつけるというシンプルで豪快な展示がありました。水力発電所として使われていた建物で、水の持つエネルギーを感じさせてくれる興奮のアートでした。
写真を撮りに先日再訪したときは、フロアの中央に巨大なカーテンのような展示物が静かに設置されていました。鏡を張り付けた細長いガラスが、すき間を空けて連続しています。
歩き回りながら眺めていると、ときおり作品を挟んだ向こう側で、誰か別の来館者がこちらを向いて鑑賞している様子が分かります。一瞬向こうの人と目が合った気がして思わず視線を外すのですが、よく見るとその誰かは自分だと気づきます。見る行為と見られる行為がいつの間にか入り混じってしまう、不思議な展示物でした。
美術館の背後には展望台やカフェもある
美術館の背後には小高い丘が控えており、その斜面を太い導水管が何本もはい上がっています。斜面には落差23mの丘を登るための階段もありますので、展示を見終えた後は、丘の上に行ってみてください。
頂上には展望台があり、営業時間は限られていますがカフェもあります。子どもの同伴が禁じられているカフェですので、家族連れにはちょっと向いていませんが、黒部川扇状地の広がりを眺められる落ち着いたカフェになっています。
ちなみに発電所美術館は、宇奈月温泉や立山など富山の主要な観光地のすぐ近くにあります。
北陸新幹線の黒部宇奈月温泉駅も近く、北陸自動車道の入善スマートI.C.からも自動車で5分くらい。
富山観光で何か1つプログラムを増やしたいと思ったら、企画内容をチェックした上で、発電所美術館に立ち寄ってみてくださいね。
[All photos by Masayoshi Sakamoto]
Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(
https://hokuroku.media/ )創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。
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