スカイツリーが建っても未だに健在な東京のランドマーク「東京タワー」。あの特別展望台の上の部分は、戦車の鉄材から作られているって知ってましたか?
朝鮮戦争で壊れた大量のアメリカ軍の戦車が鉄材として使われているんです。ちなみにこの東京タワー、写真を見ると赤っぽいオレンジと白の二色が7等分に塗り分けられています。昔はもっと塗りの感覚が狭くって11等分でした(1986年まで)。筆者の母がもっと昔はシマシマだった気がする、と5年前ぐらいに言い出して痴呆を心配したのですが、調べて見ると本当でした!
私たちにとって身近な場所やモノには、意外と知られていない歴史が潜んでいるかもしれません。
この連載では、歴史学者の三石晃生教授と「知らなくても困らないけれど、知っていると世界が楽しくなるかもしれない」をコンセプトに世界のあちこちを調査していきます。三石教授は、TEDxTokyo yzにも登壇された、世界初の歴史コンサルタント会社(株)goscobe代表取締役でもあります。
新しくなった東京駅、行きました??
今回、三石先生と訪れたのは丸の内駅舎に隣接する駅前広場が完成したばかりの東京駅。日本の玄関口である東京駅は、近代建築の父・辰野金吾(1854〜1919)が設計し、1914年(大正3年)上野と新橋を結ぶ中央駅として誕生。そこには近代建築の父の想い、そして日本を変えた歴史が隠されていたのだった。
筆者(以下、村越):なんかこう、クリスマス! って感じがしますねー。
三石:東京駅が赤レンガに白いストライプを巡らせたクリスマスカラーだからねー。辰野金吾の建築の代表格。まさに辰野式!
村越:東京駅といったらレトロな赤レンガ駅舎ですよね。辰野金吾設計の赤レンガ駅舎は関東大震災後も残ったんですよね。
三石:そうそう。震災は大丈夫だったのだけど戦争の空襲でドーム型屋根がやられちゃって。それでも列車の発着ができる程度には残ってたらしい。
村越:こんな見た目でも意外とタフ! じゃあ、あのドームの屋根は2012年の大改修で1914年の竣工当時に戻したんですね。
三石:うん。改修以前の東京駅って三角屋根だったの覚えてる? ドーム部分は戦後にとりあえずというので、三角屋根にして本当は3階建てだったのを2階建ての建物として使ってたの。写真を比べてみると2階と3階なので大きさが違うでしょ?
村越:これだけで雰囲気が全然違いますねー。一気にカッコよくなった。
旧駅舎
新駅舎 (C)murakoshi
三石:修復工事でわかったことがあって、基礎部分が松の丸太だったらしい。江戸時代の城の建築技法でも松の丸太をタテに入れて基礎にする工法があるのだけれど、大正モダニズム建築の代表格の東京駅でも江戸時代の技法が使われていたんだって。
村越:そういえば新丸ビルのオフィス通用口あたりにも旧丸ビルの基礎の丸太を展示してありますよね。
三石:松の木は耐久性が高いから100年も前なのにほぼそのまま残ってるんだよね。
東京駅100年のミステリー
三石:竣工当時に復原されたポイントとして見てほしいのは、ドーム天井。天井の真ん中は駅だけに車輪をモチーフにして、その周りにあるのはクレマチスの花のレリーフ。クレマチス、花言葉は「旅人の喜び」。
村越:ちゃんとした意味があるんですね! ドームは南と北、両方ありますけど、両方同じなんですか?
三石:両方同じですよー。あ、人に気をつけて見上げてみて。天井は8角形でそれぞれの隅に、干支のレリーフを見ることができます。これも東京駅が空襲される前の意匠です。
村越:天井は8角形なので干支のレリーフは全部で8つ。干支だとすると 4つ足りないですよね。残りの4つ、どこにあるんですか? 隠れミッキー的な?
ドーム (C)murakoshi
今年の干支「イヌ」発見! (C)murakoshi
戌レリーフ (C)murakoshi
三石:東京駅にないのは卯・酉・午・子(東西南北)の四つの干支。なんとそれが東京から約1,200km、佐賀県にあることが最近わかりました。
村越:え、SAGA!?
なぜSAGA?
三石:佐賀県に武雄温泉っていうのがありまして、その武雄温泉の楼門というところに卯・酉・午・子の4つのレリーフが配置されてたのです。
村越:そういえば東京駅を設計した辰野金吾って、佐賀県出身ですよね。
三石:そうそう。それが謎の答えなんじゃないかと思ってて。1914年の3月に東京駅(中央停車場)完成、翌年の4月に武雄温泉楼門が完成してるのだけど、建築がもう同一人物の同時期なのかと思うほど違うの。
武雄温泉楼門 (C)kan_khampanya / Shutterstock.com
東京駅 (C)murakoshi
村越:まさに対極ってかんじ!
三石:武雄温泉は釘を一本も使ってなくて、東京駅は鉄筋レンガ作り。本当に対極だよねー。なぜ武雄温泉に4つを置いたかというと、「遊び心じゃないか」なんて言われてるけど、私としては辰野金吾は佐賀県出身だし、地元と都会、伝統的な建築と近代的な建築、もっというとローカルとグローバル、伝統と近代とを1つのものとして調和させていくべきだと建築という言語で日本の今後の未来をどうあるべきかを主張したんじゃないかと思うんだ。
村越:ついつい私たちは古ければいい、とか新しければいい、とか優劣つけがちですもんね。「どっちも両方があるのがいい」を100年前に言ってくれてた人がいたのかー・・・。
(余談)東京駅、そこは日本の未来が変わってしまった場所
村越:今日はありがとうございました。ちょっとチャージしてきていいですか?
三石:あ、そうだ。そこの横の新幹線の切符売り場の床みてみて。
(C)murakoshi
(C)murakoshi
村越:なんか印ありますね。
三石:そこで原敬(はらたかし)首相が刺されて殺されちゃった場所なの。
村越:え!
三石:はっきりした理由は未だに不明なのだけれど、犯人が上司と話しているときに「最近の政治家は腹を切るとか言っても実際に腹を切るようなやつがいない!」と、上司が言ったらしい。それで「じゃあ私がハラを斬ってきましよう」と原敬を殺したと。
村越:え、空耳じゃないですか!? 首相がそんなくだらないことで・・・。
……(東京駅八重洲中央口)
村越:三石さん、もしかするとこれも・・・。
(C)murakoshi
(C)murakoshi
三石:うん(笑)。こちらは濱口雄幸(はまぐちおさち)首相。
村越:東京駅というか当時の日本、警備甘すぎじゃないですか!?
三石:いやね、原敬が刺殺されてから首相とかが東京駅を使うときには一般人立ち入り禁止とかにしていたの。でも濱口雄幸が、それは他の人に迷惑がかかる、というので濱口首相は立ち入り制限をしなかったのだ。
村越:ここでまた亡くなったわけですね。
三石:そこでは亡くなってないの。至近距離で撃たれたんだけど手術をして一命を取りとめてね、とある当時野党の立憲政友会から登壇しろと国会にムリヤリ引っ張り出されたりしてるうちに、その傷がもとで襲撃から約9か月後に亡くなってしまうの。濱口雄幸は戦争から平和、軍拡から軍縮への大転換をした人だったのに。
村越:東京駅って、日本の運命が大きく変わった場所でもあるんですね・・・。
協力:三石 晃生(歴史学者/ 株式会社goscobe 代表取締役)
1981年東京生まれ。大学在学中に歴史学研究所の研究員に就任し、現在は同研究所の監事。2017年に世界初の歴史分析の手法を用いた歴史コンサルタント「株式会社goscobe(グスコーブ)」を設立、代表取締役社長に就任。2017年、TEDxTokyo yzに2年連続で登壇。また、日本財団と東京大学先端科学技術研究センターの異才発掘プロジェクト「ROCKET」SIGでも歴史担当の外部講師として異才の子供たちへ白熱講義を展開している。
[Photos by shutterstock.com]
murakoshi ライター
東京都出身。普段はPR会社に勤めるサラリーマン。社会人になってから歴史好きに。最近、居合術と詠春拳を習い始めた。
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