有力な仮説が判明!全国で富山だけ「ばんそうこう」を「キズバン」と呼ぶ理由

Posted by: 坂本正敬

掲載日: May 14th, 2020

全国各地で呼び方が違うばんそうこう。中でも富山県民だけが「キズバン」と呼ぶ理由は、長らく謎でした。その真相を究明するべく、方々に取材をしてみました。

富山でだけ、ばんそうこうを「キズバン」と呼ぶ理由

皆さんの地域ではどのように「ばんそうこう」を呼びますか? 筆者は東京に生まれ、埼玉に育ちました。関東で生まれ育った筆者からすると、「ばんそうこう」と言えば『バンドエイド』。米ジョンソン・エンド・ジョンソンの日本法人が、1959年に日本へ輸入販売を始めた製品の名前です。関東、東海、関西などの大都市圏で浸透しています。

しかし、筆者の母方の祖母は「サビオ」と呼んでいました。『サビオ』とは、かつてニチバンとライオンが商品化していたばんそうこうの製品名です。一時期は販売停止になりましたが、『サビオ』を製造していた阿蘇製薬(熊本県)が、北海道向けに2020年4月から再度、製造を開始するというニュースがありました。

この情報からもわかるように、サビオは北海道を中心に(和歌山と広島でも)親しまれる呼び方です。

では、どうして富山県では「ばんそうこう」を「キズバン」と呼んでいるのでしょうか。筆者は現在、富山県に移住して暮らしています。身の回りに居る人たちに聞いてみても、ほとんどの人が即答で「キズバン」と答えます。

今まで出てきた「サビオ」も、「バンドエイド」も、全て製品名です。九州で通り名になっている「リバテープ」も、『リバテープ』という商品をリバテープ製薬(熊本)が出しています。ならば、「キズバン」も『キズバン』という商品があるのではないでしょうか。

伸縮性と弾力性が魅力の丈夫な厚手ばんそうこう(ライト株式会社による提供) photo by Masayoshi Sakamoto(坂本正敬)

調べてみると、現行で「キズバン」の言葉が入ったばんそうこうを、ライト株式会社(東京)が出しているとわかります。正式な製品名は『ライト キズバン』。同社に問い合わせてみると、この商品は1992年(平成4年)に同社が販売が開始したといいます。担当の方によれば、

「『ライト キズバン』は、1992年から販売しており、その前は『スタイロバン』の販売名でした。『ライト キズバン』はライト株式会社で商標登録しております」

との話です。ただ、この『ライトキズバン』が富山のばんそうこうの呼び名に影響を与えているとは、なかなか考えられません。その理由は販売年と販路。

筆者の聞き込みの範囲内で言えば、1992年以前に生まれた富山県民も「キズバン」とばんそうこうを呼びます。しかもライトの担当者によれば、同商品はゴルフ用品の1つとして全国で販売されているらしく、販路はゴルフ場になります。富山県のゴルフ場に限って、特に売れているという現状もないそうです。

富山で盛んな配置薬の中に別の『キズバン』が存在した


富山市の様子

引き続き真相を探るべく、今度は富山県くすり政策課、富山大学人文学部の中井精一先生、富山市売薬資料館に問い合わせてみました。

残念ながら富山県くすり政策課では、(各部署で調べてもらったものの)県庁内で分かる部署がないとの話。『富山県方言番付表』をつくるなど、方言のスペシャリストである富山大学人文学部の中井先生についても、キズバンの情報は持っていないとの話でした。しかし、

「老年層でも『キズバン』と呼んでいますので、92年以前からの地方名・方言であろうと推測できます」

と、『ライト キズバン』が語源とは考えにくいとコメントを寄せてくれます。

突破口となった取材先は、富山市売薬資料館になります。担当の方によれば、富山では長らく置き薬が盛んだったと言います。置き薬とは配置薬とも言い、

<あらかじめ所定の薬を家庭に置き、巡回する販売員が使った分だけ代金と引き換えに補充するしくみの家庭薬>(岩波書店『広辞苑』より引用)

と辞書にも書かれています。利用者の目線で考えると、自宅まで訪ねてくる薬売りの人から無料で薬を受け取り、その受け取った薬箱の中から使った分だけ、後でまた薬売りの人が来たときに清算する仕組みですね。

この置き薬の制度が特に富山では盛んなので、この置き薬の中に「キズバン」的な製品があったのではないかと教えてくれました。さらに、この方面に詳しい場所として、富山県薬業連合会という配置薬業界の組合の存在も教えてくれます。

元薬売りの証言「キズバンという製品を扱っていた」

富山県薬業連合会に問い合わせてみると、すぐに返信がありました。担当の方によれば、

「元売薬さんや卸屋さんに問い合わせてみました。元売薬さんの話では、昭和35、6年ごろ、商売に就いたときに『キズバン』という製品を取り扱っていたらしく、それで「キズバン」と言うようになったのではないか、ということでした」

との回答がありました。まさに、富山で盛んな配置薬の配置員が扱う製品(配置用医薬品)の中に、『キズバン』というばんそうこうが存在していたのですね。

「配置用の医薬品は、昭和の時代には多くの品目があり、平成2年の富山県配置家庭薬品目収載台帳(売薬さんが扱える製品の品目リスト)を見ると、「○○キズバン」や「キズバン○」などの製品名の品目が残っています」

富山県薬業連合会の担当の方は、1990年(平成2年)の台帳のコピーも見せてくれました。確かに、

  • 朝日製薬株式会社(東京都目黒区)『アサヒきずバン』
  • 株式会社ケロリン屋本店(東京都台東区)『ピーオキズバン』『肌色マルトキズバン』
  • 晴濤堂薬品株式会社(富山県上市町)『きず絆ベンリー』『きず絆ベンリーS』『きずバンA』『きず絆キプラ』『きず絆ガード』

などの配置用医薬品(配置販売業者が扱える薬)の製品名が見られます。何か特定の商品が1つ存在したのではなく、富山には「○○キズバン」「キズバン○○」という感じで、「キズバン」という言葉を用いる製品名が複数存在し、富山の配置薬のラインアップに組み込まれていたのですね。


写真はイメージです

先ほどの富山市売薬資料館によれば、

「薬は他県の会社の製薬品を利用し、発売元として富山の名で売るという方法が多くとられたのではないかと思います。富山の名を冠しなくても、他県の薬を配置薬として取り寄せ、富山の販売員が売っています」

との説明もありました。製造元はどこであれ、富山の売薬の方が扱うばんそうこうの中に「○○キズバン」「キズバン○○」と書かれた製品が目立ったため、自然と富山県民の呼び名に影響を与えたと考えられそうです。

逆に富山県民が「キズバン」と呼ぶ習慣を意識して、「○○キズバン」という製品が増えていったとも考えられます。いずれにせよ配置薬と富山県民の呼び方には、深い関係がありそうですね。

各家庭の薬箱に本当に「○○キズバン」「キズバン○○」は入っていたのか?


写真はイメージです。

ただ、配置薬の配置員が扱っていたばんそうこうの製品名が、本当に県民に影響を与えたかどうかは、まだわかりません。そもそも一般の家庭に、どれくらい配置薬が置かれていたのか、別の言い方をすれば、どれくらいの普及率があったのかを調べる必要があります。

その点を富山県薬業連合会に聞いてみると、

「富山県の配置販売業については、1961年(昭和36年)に11,685(そのうち、配置員は4,516人 ※カッコ内は筆者が加筆)が従事しており、全国各地で商売をしておりました。全国でも富山県の従事者が一番多かったのですが、現在は、北海道や愛知県に抜かれております。どれだけの家庭に配置してあったかは不明ですが、1人あたり800件から1,000件の得意先を持っていたといわれています」

との話。あくまでも全国の得意先の件数で富山県内だけの話ではありませんが、販売員の数と得意先の件数を掛け合わせた数字を考えると、配置薬(薬箱)は富山県民の家庭にもそれなりに普及していたと考えられます。

「また、配置用医薬品(配置販売業者が扱える薬)を製造していたメーカーも富山には多くあり、生産額は全国の5割以上を生産していました(現在も約5割を生産しています)。販売業者、メーカーの従業員など配置の関係者が多くいたことから、その薬についても浸透していたと思われます」

話を整理すると、配置販売業が最も盛んだった昭和の時代であれば、置き薬(の薬箱)が一般家庭に普通に置いてあった上に、配置薬に関係する仕事に携わる人がそこかしこにいたので、普及率はかなり高かったのではないかとの話。

その普及率の高い置き薬の薬箱の中に、「○○キズバン」「キズバン○○」というばんそうこうが入っていた可能性も高く、その日常的な接触が富山県民の「ばんそうこう」の呼び方に影響を与えたと考えられるのですね。

以上、どうして富山の人がばんそうこうを「キズバン」と呼ぶのか、その理由を調べてみました。

もちろん、まだ調査は不十分。富山県民の自宅に置かれた薬箱の中に、「○○キズバン」「キズバン○○」が、実際に何割程度の確率で入っていたのか、このあたりの調査はやり切れていません。

また、キズバンという言葉が生まれた背景と、どこの会社が最初に『○○キズバン』を製品化したのか。その後、他の配置用医薬品の製造メーカーが、似たような製品名の商品を出し始めた時期や経緯も追いきれていません。

しかし、富山県民の「キズバン」の呼び名には、配置薬が影響を与えていたのではないかというパワフルな仮説は見つかってきました。富山県民にどこかで会ったら、会話のネタにしてみると、盛り上がるかもしれませんよ。

[参考]

絆創膏について – 日本衛生材料工業連合会

絆創膏の呼び名MAP – リバテープ製薬 

[Photos from Shutterstock]

 

PROFILE

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

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