南米を旅していると、よく耳にする「トランキーロ(tranquilo)」という言葉。これは「ゆっくりと、焦らずに」という意味を持つスペイン語です。規律の乱れを許さない日本から南米に来ると、まるで時間の流れが少し遅いのではと疑ってしまうほどのんびりとした彼らですが、いつも彼らの心にあるのはその言葉そのもの。「ちゃんとやらなきゃ」「しっかりしなきゃ」と毎日頑張るみなさんに、南米に住む人たちの「幸せの秘訣」をお伝えします。
「大丈夫だよ。いつか来るから」
旅人が口を揃えて言う、「南米は最高だよ」という言葉。そんな言葉がいつしか、脳裏にピタッと張り付き南米という未知の世界に惹かれたものの、実際南米への旅が実現したのは数年経ってからのことでした。
筆者がアメリカを経由し最初に足を踏み入れた地は、コロンビアの首都「ボゴタ」。意気揚々と空港から市街へと繰り出し、チェックインを済ませバックパックを下ろすと、随分とお腹が空いていたことに気付きます。早速「なにか早く食べられるものを」と選んだ先は、ファストフード店。体に良いかどうかは置いておいても、ファストフードと言えば「早い・安い・安全」の三原則を兼ね備えた、時に旅人の「救世主」となり得る存在であるからです。ポテトとハンバーガーを頼んだ筆者でしたが、10分経っても20分経ってもオーダーしたものは出てこない。
(C) Saya Meguro
そしてキッチンの方を除いてみると、鼻歌を歌いながらゆっくりと取り掛かるスタッフの姿が目に入ります。結局食にありつけたのは、オーダーしてから30分経った頃でしたが、その間待っている他のお客が誰一人として意に介さない様子を見て驚いたものです。極め付けは空腹でキッチンの方ばかりチラチラと見ている筆者に、地元のおじさんが笑って一言「大丈夫だよ。いつか来るから」。時間に囚われない人々の生活は、誰もが持つ心のわだかまりをゆっくりと溶かしてくれるような、そんな居心地の良ささえ感じるものでした。
「幸せはお金で計れない」
「Time is Money」、「時は金なり」ーこういった概念は、ここ南米ではあまり浸透しているものではありません。「お金があっても、辛いのであれば意味がない」「お金があっても、家族と一緒にいられなければ意味がない」、これは旅をして出会った南米の人たちと話す機会があったとき、みんなが口を揃えて発した言葉です。
実際、筆者もエクアドルにいる際に地元の商店へ買い物へ出かけると、繁盛期にも関わらず店終いをするスタッフたちの姿が。「買い物をしたいのですが・・・」と告げると、「2時間後に来てちょうだい! 昼ご飯を食べて、昼寝をしないと!」と言われ、そんなのどかな言い訳に少し笑ってしまったことがあります。彼らを見ていると、「豊かな生活」というのは、必ずしも「お金」に結びつくものではないのだと実感します。そして「幸せの尺度は決してお金では測れない」という当たり前のことに気付かされるのです。
砂漠の中心でバスが故障しても
(C) Saya Meguro
南米を旅していると、人々の穏やかさに驚かされることが多々あります。銀行でも、スーパーでも、長い列に並んでいても、「遅い!」と嘆く人はあまりいません。そしてそれは、緊急事態でも同じです。筆者が南米を旅している際、コロンビアの山奥で一度、そしてペルーの砂漠の真ん中で二度のバス故障が起きたことがありました。白煙が上がるなどどちらもかなり「ビッグトラブル」とも言える事例ですが、ここでも南米の「トランキーロ」な状況へと発展。なんと誰一人として怒ることも声を荒げることも、そして焦ることもせずに、ただただ外へ出て行方を見守り始めたのです。
そして一時間ほど経過した後、なおる兆候がないと見込んだ人々は続々とヒッチハイクを開始。バスの運転手は「俺のせいじゃないもの」と謝ることはありませんでしたが、「起きたんだからしょうがない」と潔く諦めるその姿からは、逞しささえ感じました。人間いざというときに本性が出るもの。トランキーロは、彼らの生活とは切っては切り離せない、奥底に深く根付くものだったのです。
人生に「トランキーロ」を
一つミスをすれば「なんて自分はダメなんだろう」と落ち込み、いつの間にか負の連鎖に陥ってしまい抜け出せなくなることは、きっと誰しもが経験すること。ただ深く考えすぎても、良いことはあまりないのが実情です。そんなときに思い出して欲しいのは、「トランキーロ」という合言葉。南米の人たちの生活に根付く「トランキーロ」の姿勢は、「心の余裕」を生み出すものでもあるのです。堂々と人生を楽しみたい人にとっては、「トランキーロ」は必要不可欠なものであり、幸せの鍵となる言葉なのかもしれませんね。
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