北海道ニ栽培スベキモノハ『ホップ』草ナリ
ホップとは何なのでしょうか。辞書を調べると、
<子房や包葉に生じる黄紛(ホップ腺)に芳香と苦みがあり、ビールに香味をつけるのに用いる>(岩波書店『広辞苑』より引用)
と書かれています。要するに、あのビールの苦みと香りを生む原料です。「ビールの魂」などとも呼ばれています。
このホップ、世界の生産量を見ると、エチオピアやアメリカ、ドイツが突出して多く、ほかにはチェコ、アジアでは中国や北朝鮮などでも栽培が盛んです。
それらの国と比べると、日本の生産量は桁違いに少ないのですが、一方では明治時代からの栽培の歴史が意外にも続いていて、北海道・東北の一部地域では今でも盛んに栽培されています。
北海道や東北の地名を見てもわかるとおり、ホップは北半球の温帯の中でも比較的寒い地域で盛んに育てられています。
日本の場合は、当時の日本政府が雇った外国人化学担当主任トーマス・アンチセルが1871年(明治4年)、北海道の小樽やニセコの近く、積丹半島の根元にある岩内町で自生のホップを発見し、北海道開拓使に対して、
<北海道ニ栽培スベキモノハ『ホップ』草ナリ。蝦夷ノ南方ニハ天然繁生スルモノ往々之アリ其土地ニハ必ズ培養ノ『ホップ』モヨク繁茂仕ベク候>(『機関誌 郷土をさぐる(第6号)』より引用)
と進言したようです。ここから日本のホップ栽培の歴史がスタートするのですね。
収穫前のホップ畑でビールを飲むビアツーリズム
ホップ畑
しかしホップ栽培の始まりの土地・北海道は現在、日本で最もホップの生産が盛んな土地ではありません。
トーマス・アンチセルの進言を受け、札幌市にホップ園が次々と生まれ、その後、上富良野での栽培がスタートすると、その波は東北にも広がりました。今では東北が日本のホップ栽培を支えています。
『機関誌 郷土をさぐる(第6号)』によると、1956年(昭和31年)に秋田県でホップ栽培が始まり、1962年(昭和37年)に岩手県でも栽培が始まったようです。都道府県別で見ると、今ではこの岩手県がホップ栽培で日本一を誇る土地になっているのですね。
北海道で始まったホップ栽培は、ビール需要の拡大もあって順調に伸び、1968年(昭和43年)にピークに達します。しかし海外からの輸入ホップが安く手に入るようになると、一転して生産は減少が始まり、その下降線は今も続いています。
日本一の生産量を誇る岩手県も、その波を回避できていません。それでも、規模を縮小し続けるホップ栽培の業界に新しい動きが生まれ始めている点も事実です。
遠野市
例えば、岩手県の中でも特にホップの栽培が盛んな遠野市では、キリンと自治体、民間企業がタッグを組んで、ホップを軸とした町おこしを仕掛け、新規の就農者やクラフトビール醸造所(マイクロブルワリー)の誕生を次々と後押ししています。
「遠野をビールの里へ」をスローガンに、ホップ栽培を越えた大きな動きを生み出そうとしているのですね。
その遠野市とほぼ同じ緯度にあり、奥羽山脈をまたいで西側にある秋田県の横手市でも、ホップを軸としたまちおこしのプロジェクトがスタートしています。都道府県別で見た時に生産量1位は岩手県ですが、市町村別で見た時の1位はこの横手市です。
収穫前のホップ畑でビールを飲むビアツーリズムなども遠野市や横手市で開かれています。ビール好きの心を大いにくすぐるのではないでしょうか。何よりお酒は旅との相性が抜群だから、想像するだけで心と体が東北を目指したくなりますよね。
遠野市にしても横手市にしても、地元の子どもたちの学習フィールドにホップ畑を使うなど、郷土愛を育む取り組みも始めています。ビールをこよなく愛する人は、遠野市や横手市がある岩手・秋田にビールを旅の目的として、一度遊びに出掛けてみてはいかがでしょうか?
東京などの大都市の生活に疑問を感じている人は、旅をきっかけに移住してしまいたくなるかもしれませんね。
[参考]
※ ホップの由来と栽培歴史 – 機関誌 郷土をさぐる(第6号)
※ 秋田をオンリーワンのホップ産地にしたい! – WonderFLY
※ よこてfun通信
※ ホップ生産日本一の横手でビール飲み比べ – 日本経済新聞
※ ビール好きが今「岩手・遠野」に集う理由 ホップの一大産地、国産の「逆襲」なるか? – 東洋経済
※ 遠野ホップ畑で生きもの観察会を開催しました – キリンホールディングス
※ 日本一のホップ生産地で進む「ビールによるまちおこし」:岩手・遠野 – ひとまち結び
※ ホップ栽培面積日本一!岩手県・遠野で「香る」クラフトビールに挑む! – CAMPFIRE
※ 上富良野町でホップの収穫時期を迎えています。 – 北海道農政事務所
※ ホップの探究
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