何かの研究を進めるうちに、全く別の思わぬ成果をを得られることは時々耳にします。2019年1月、イギリスの研究者チームが、「ドラウプナー波」の発生メカニズムを研究しているうちに「世界一有名な波」に酷似した波を再現することに成功したのだそう。どういうことなのか、一緒に見てみましょう。
伝説の大波「ドラウプナー波」
今回注目されたのは、イギリスのオックスフォード大学とエディンバラ大学の「ドラウプナー波」(Draupner wave)研究チーム。ドラウプナー波は、長い間「伝説の大波」として神話あつかいされていましたが、1995年に北海沖の石油掘削プラントで25メートルの高さの波が観測されたことから実在が証明された大波です。研究スタート後も、発生の予測が難しく前触れなしに突然起こるので、海難事故の原因になりうると危惧されていました。
「世界一有名な波」とそっくりな波
※画像はイメージです
そんな中、前述のイギリスの研究者チームがこの大波の発生メカニズムを解明し、実験室でドラウプナー波の再現を実施しました。2つの小波を装置で発生させ、波の「交差角」を変えていくことで、大波の再現に成功できたのだそう!(ちなみに交差角度が120度の時に大波が発生するとされています)
その際に研究者たちを驚かせたのが、現れた大波の姿。なんとそれが、「世界一有名な波」とも言われる、葛飾北斎の浮世絵「神奈川沖浪裏」(かながわおきなみうら)に描かれた波とそっくりだったのです!
研究室で再現された波は、こちらのリンク先の動画で見ることができます。確かに波の立ち方や飛沫の様子までそっくりですね。
研究チームは、「研究室でドラウプナー波を再現することで、この現象の(まだ解明されていない)潜在的なメカニズムを理解するために一歩近づきました。」とコメントしています。このまま研究が進んで、この大波による海難事故を防げるようになって欲しいものです。
葛飾北斎と波
葛飾北斎は若いころから絵の題材として「波」という存在にこだわり、何枚もの作品を残しています。けれど初期の作品の波は「ドラウプナー波」の波には程遠く、迫力もそれほどありませんでした。自分の描く波に納得できなかった北斎は、真摯に波と向き合い観察を重ね、ついに70歳前後になってから「神奈川沖浪裏」を描けるようになったのだそう。理想の波を探しているうちに、北斎は「ドラウプナー波」を目撃したのかも……なんて想像してしまいますね。
ちなみに葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」は、現在開催中の「新北斎展」で展示されています。海外でも広く知られる北斎の芸術に、この機会に接してみてはいかがでしょうか。
https://hokusai2019.jp/
会期:2019年1月17日(木)~2019年3月24日(日)
会場:森アーツセンターギャラリー
※休館日:2月19日(火)、2月20日(水)、3月5日(火)
[All Photos by Shutterstock.com]
[‘Great Wave’ depicted in Hokusai’s masterpiece recreated by scientists]
[Reproduite par hasard en laboratoire, la vague d’Hokusai était bien scélérate]
[新北斎展]