11月1日は本の日!蔦屋書店の名物コンシェルジュ10名が選ぶ「はじめての1冊」とは?

Posted by: 渡邊玲子

掲載日: Nov 1st, 2019

秋の夜長。ひとり静かに読書をするのに最適なこの季節。来る11月1日の「本の日」に向けて、全国の「蔦屋書店」の「名物コンシェルジュ」10人が選んだ文庫本を紹介する、その名も「コンシェルジュ文庫」と名付けたフェアが「蔦屋書店」各店にて開催中。「元祖カリスマ書店員」こと、「代官山 蔦屋書店」の「文学コンシェルジュ」を務める間室道子さんにお話を伺いました。

「コンシェルジュ文庫」は「蔦屋書店」初の一斉企画


全国の「蔦屋書店」には、料理、旅行、文芸など、各ジャンルそれぞれに精通した「コンシェルジュ」と呼ばれるプロの接客係が、書店を訪れる人たちに向けて、本や関連グッズ、イベントを通じ、日々新たな発見や出会いをサポートしてくれるサービスがあるのをご存じですか?

通常の書店には本部があり、そこから各店舗に配本される仕組みが多いそうですが、「蔦屋書店」にはいわゆる本部的な機能がなく、各店のコンシェルジュが自身の裁量で本の仕入れを決めているそうなんです。それゆえ、全国各地に大型店がオープンする前には、必ず「蔦屋書店の総本山」と呼ばれる代官山店に、各店のコンシェルジュたちが修行に来るといいます。

今回ご紹介する「コンシェルジュ文庫」とは、そんな全国各地のコンシェルジュ120人の中から、「代官山 蔦屋書店」を始め、梅田、函館、北海道、広島、湘南、二子玉川にある「蔦屋書店」の10人のコンシェルジュたちが、「○○な、はじめての1冊」をテーマに掲げ、それぞれ5タイトルずつ選書した文庫が、各店舗の店頭に一堂に並ぶというプロジェクト。

「梅田 蔦屋書店」の「人文コンシェルジュ」を務める三砂慶明さんの発案で、11月1日の「本の日」に合わせて企画されたのだそう。実は「蔦屋書店」が全国規模で同時にフェアを行うのは、今回が初めて。まさに「はじめての1冊」との幸運な出会いが「本好きになったきっかけ」という人も多いことから、記念すべき第1回目のテーマに選ばれたのだと言います。

それぞれの「はじめての一冊」

ちなみに、「代官山 蔦屋書店」の間室さんがオススメするテーマは「はじめてのミステリー」。1年に500冊以上読むという生粋の「本の虫」である間室さんが選んだのは、エーリヒ・ケストナーの「点子ちゃんとアントン」、コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズの事件簿」、江戸川乱歩の「人間椅子」、藤沢周平の「秘太刀馬の骨」、村上春樹の「女のいない男たち」の計5冊。

一見すると「これってミステリー?」と意外に感じるラインナップもありますが、「なぜ間室さんはこれをセレクトしたのか」、そして「そもそも代官山 蔦屋書店のコンシェルジュは普段どんな仕事をしているのか」、じっくりと伺ってきました。名言続出の間室さんのインタビュー、ぜひ最後までお楽しみください!

「代官山 蔦屋書店」が「蔦屋書店の総本山」と呼ばれる理由

――間室さんは「代官山 蔦屋書店」でオープン当初から「文学コンシェルジュ」をされているそうですね。普段、具体的にどんなお仕事をされていらっしゃるんですか?

間室:「代官山 蔦屋書店」は、いまから8年前、2011年の12月にオープンしたんですが、当時この店の館長だった田島(直行)から「間室さん、ここには、“理由なくある本”はありません。“理由なくない本”もありません。そういう書店を作ってください」って言われたんです。私はこの田島の言葉を「一生の宿題」にして「文学の棚」を作っています。「この作家は私が嫌いだから置かない」とか「これは好きだから置く」ということではなく、お客さまから「どうしてこの本は扱いがないんですか?」って言われたときに、ちゃんと理由を説明できるようにしなければならないんです。

――「代官山 蔦屋書店」の棚づくりの特長を教えてください。

間室:ここは普通の書店とは本の並べ方が全然違って、洋書も和書も古書も、文庫もハードカバーも一緒に並べてあるんです。なぜかというと「代官山 蔦屋書店」は「本好きの人のお家の書棚」をお店のコンセプトにしているから。読書好きの人の本棚って、出版社別にはなっていないじゃないですか。例えば、村上春樹が好きな人なら、文庫もハードカバーも一緒に並べてあるし、洋書だってあるかもしれない。最初は戸惑う方も多いけれど、「居心地の良いところなんだ」っていうのを一度味わってしまえば、この店の空気や時間の中に身を置きたくなって、半日ぐらい店内を回遊する方も多いんです。

コンシェルジュは「本とお店の門番」

――ソムリエとコンシェルジュにはどんな違いがあるんですか?

間室:そもそもコンシェルジュって、フランス語で「門番」っていう意味なんです。「この本の1ページ目を開くと、こんな世界が広がっていますよ」って言えるのがコンシェルジュの役目。つまり私たちは「本とお店の門番」なんです。お客様の好みに応えるソムリエとは違うので、合うか合わないかは相性次第。「こんな本ないかな?」って聞かれたときに、「お話しをしながら一緒にピッタリなもの見つけましょう!」っていうのが、コンシェルジュの役割なんです。

先日も「中2の娘の誕生日に本をプレゼントしたいんだけど、実は最近あまり会話がなくて…」という「悩めるお父さん」から「どういう本をあげたらいいのかなぁ?」って相談されて、お父さんに色々リサーチしながら、娘さんが興味を持ちそうな本を一緒に選ばせていただきました。

百戦錬磨の「本屋のお客様のプロ」との腕比べ!?

――間室さんが「代官山 蔦屋書店」ならでは、と感じる目の肥えた常連の方もいたりするのでしょうか?

間室:私が勝手に「本屋のお客様のプロ」って呼んでいるお客様が代官山には沢山いらっしゃるんですが、彼らは読みたい本を探しに来るというよりは、アイディアを探しに来ているんです。そういった意味で代官山は「企画の企画を呼ぶお店」。そういう時は、あえてお客様の思ってもみなかったものをオススメするようにしているんです。

「間室さんに『泣ける本を教えて』ってお願いしたのに、全然悲しい場面も、寂しい場面も出てこなかった。でもラストシーンで、私は確かに涙を流した。なんじゃこりゃ」って言って、ここに足しげく通ってくださるお客様が沢山いるんですよ。それを私は「心地よい裏切り」って言ってるんですけど、それこそ「発見」ですよね。「本屋のお客様のプロ」と呼んでいる百戦錬磨のお客様には、ちょっとひねりの効いた本を提案するようにしています。お客様とコンシェルジュの間で「お主、できるな!」みたいなやりとりがあるのが、代官山が「蔦屋書店の総本山」と呼ばれる所以だと思うからです。

「読書は、人生が1回しかないことへの最大の復讐である」

――本を読むという行為は、日常から離れる「小さな旅」とも言えると思うんです。

間室:本って、究極の個人の作業なんですよ。たとえどんなに仲が良くても、1冊の本を同時に読むのはストレスじゃないですか。人によってページをめくる生理も違うし、読むスピードも全然違うから。でも読書っていうのは「究極の一人の作業」であると同時に「究極のコミュニケーションツール」でもあると私は思っているんです。コンシェルジュが10人もいれば、1人ぐらい自分と好みが合う人が必ずいるはずです。梅田や函館のお客さんにも「代官山では普段こういうことをやってるんだ!」とか「こんな本を選んでるんだ!」って思ってもらったり、ちょっとしたおしゃべりのきっかけになればいいなって思っています。

――間室さんも、読書を「旅」だと感じることはありますか?

間室:ヨーロッパの文豪のセリフに「読書は、人生が1回しかないことへの最大の復讐である」って言う言葉があるんですよ。確かに人生は1回しかないけど、本さえ読めば、過去にも未来にも宇宙にも行けるし、男にも女にも老人にも子どもにもなれるし、それこそ神様にだってなれるんです。本を読むことで、家にいながらにして、パタゴニアにもインドにも南米にも北極にも旅行ができる。そんな風に、一度しかない人生のバリエーションを増やせるのが、読書の醍醐味なんじゃないかと思うんです。

人生を決定づけた1冊「点子ちゃんとアントン」との出会い

――間室さんが「はじめてのミステリー」に「点子ちゃんとアントン」を選んだ理由とは?

間室:私は「マイ・ファーストブック」という言い方をしてるんですけど、小学1年生の時に初めて自分の意思で「私はこれを読むんだ!」って選んだ本が、「点子ちゃんとアントン」だったんです。私はこの本をミステリーとして一級品だと思っているんです。大金持ちの点子ちゃんと、貧しいアントンの友情物語なんですけど、点子ちゃんたちと家庭教師の関わり方がすごく面白いんですよ。もしも私の「マイ・ファーストブック」が「点子ちゃんとアントン」じゃなかったら、書店員はやっていたかもしれないけど、全く違う人間になっていたと思うんです。

――「函館 蔦屋書店」の「旅行コンシェルジュ」の坂本幹也さんは「旅へといざなう はじめての一冊」をテーマに5冊選ばれています。坂本さんのセレクトをご覧になって、どんな感想を持たれましたか?

間室:ブルース・チャトウィンの「パタゴニア」をセレクトしているのを見て、「さすが!」って思いましたね。池澤夏樹先生の巻末解説に出てくるんですけど、チャトウィンって、ものすごいイケメンなんですよ。今で言うところのバイセクシャルだったんですが、旅から旅を繰り返す中で、男も女も、みんなチャトウィンが来ると親切にしてあげるんです。美貌と言うのは、旅においてはコミュニケーションツールの一つであり、武器なんだっていうことがわかって、ものすごく面白いんですよ。

――「コンシェルジュ文庫」企画をやってみて、どんな手ごたえを感じていますか?

間室:今回、この企画をやって良かったなと思ったのは、「蔦屋書店のコンシェルジュって、本当にクセが強くて面白いなぁ」と再認識できたことなんです。もちろんコンシェルジュ同士、普段からメールで相談しあったり、情報交換をしたりすることも多いんですが、好きな本を挙げてもらうと、その人の「人となり」がわかるんですよ。みんなの好きな本を一堂に集結させたことで、それぞれのキャラクターがもろに出ましたね(笑)。

――間室さんの「点子ちゃんとアントン」のように、それぞれの方のセレクトの中にも「え⁉ なぜこれが?」という意外な本が混ざっているのがとても興味深いです。

間室:みんなもきっと正統派だけじゃなくて、5冊の中に1冊か2冊は飛び道具を入れていると思いますよ。そこがコンシェルジュの腕の見せ所じゃないでしょうか。そのあたりのバランス感覚も、きっとコンシェルジュならではの面白さだと思います。

――今回は11月1日の「本の日」に合わせた企画だそうですが、ぜひ今後も続けていただきたいです。

間室:実は今回の「コンシェルジュ文庫」とは別に、私個人でも毎月テーマを自分で決めて、50冊セレクトして、1冊1冊のオススメコメントを書いた小冊子を作っているんです。今月のテーマは食欲の秋にちなんで「食べる本」。料理研究家のエッセイをはじめ、文人たちの悪食の記、現代の作家たちの食への偏愛、レストラン小説などなど、読むとお腹がすく本ばかり。ぜひ店頭で手にとってみてください。

――素敵なお話をありがとうございました!

間室さんのお話、いかがでしたか? 「蔦屋書店」の試みに興味を持たれた方は、ぜひ「コンシェルジュ文庫」をチェックしてみてくださいね。

 

代官山 蔦屋書店
住所:東京都渋谷区猿楽町17-5
電話番号: 03-3770-2525
HP:https://store.tsite.jp/daikanyama/

[All Photos by Reico Watanabe]

PROFILE

渡邊玲子

REICO WATANABE ライター

映画配給会社、新聞社、WEB編集部勤務を経て、フリーランスの編集・ライターとして活動中。国内外で活躍するクリエイターや起業家のインタビュー記事を中心に、WEB、雑誌、パンフレットなどで執筆するほか、書家として、映画タイトルや商品ロゴの筆文字デザインを手掛けている。イベントMC、ラジオ出演なども。

映画配給会社、新聞社、WEB編集部勤務を経て、フリーランスの編集・ライターとして活動中。国内外で活躍するクリエイターや起業家のインタビュー記事を中心に、WEB、雑誌、パンフレットなどで執筆するほか、書家として、映画タイトルや商品ロゴの筆文字デザインを手掛けている。イベントMC、ラジオ出演なども。

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