ネパール人はあごで物の位置を示す!?
アメリカ・シカゴ大学の研究者である Kensy Cooperriderが書いた論文『The Preference for Pointing With the Hand Is Not Universal』によると、物の位置情報を示すジェスチャーには、
・手を使う指示
・手を使わない指示
の2種類があるといいます。日本人が好んで行う、人差し指を使って物の位置情報を示す動作は、前者の手を使う指示に入りますね。
「逆に手を使わない指示なんてあるの?」と思う方、確かにその通り。しかし先ほどの論文でも、手を使うジェスチャーが世界的には好まれるものの、世界共通ではないと書かれています。手を使わない指示の仕方も、世の中には存在するのですね。
手元に須藤健一監修『それ日本と逆!? 文化のちがい 習慣のちがい 第2期 第2巻 ペラペラ こどばとものの名前』(学研プラス)という本があります。その本には、世界の国々の仕草が紹介されているページがあります。例えば手を使わないで何かの位置情報を知らせるジェスチャーとして、
・エクアドル・・・くちびるをとがらせて物の位置を示す
といった行動が紹介されています。スーパーマーケットなどでも、唇をとがらせて欲しい物を指し示すとの話。この手の動作は実は意外に世界のあちらこちらで見られ、先ほどの論文『The Preference for Pointing With the Hand Is Not Universal』によると、
・ナイジェリア
・ケニア
・ブラジル
・コロンビア
・パナマ
・アメリカ
・マレーシア
・ラオス
・オーストリア
・パプアニューギニア
の一部の地域でも、同じように唇で示す動作が見られるのだとか。唇で物の位置を示す動作については、マレーシア大学の研究者が書いた論文『Pointing Gestures in Direction Giving Interactions of Malaysian English Speakers』にも紹介されています。特に両腕が何かでふさがっている場合、しかも「どこ?」だとか「どれ?」のような質問への回答として、唇で示す動作が最も見られると写真付きで書かれています。
似たような動作として、あごで物の位置を示す習慣がある人たちもいます。例えば筆者の経験で言えば、ネパール人。
・ネパール人・・・あごで物の位置を示す
日本人が同じ動作をやったら、「あごで人を使う」といった言葉があるように、「失礼な!」といった印象が生まれるかもしれません。ネパール人の動作については、医療従事者の海外インターンシップに関するイギリスの情報サイト『Work the World』にも、紹介されていました。
唇とあごだけでなく、なんと鼻で物の位置情報を示す人たちも存在すると、先ほどのシカゴ大学の研究者Kensy Cooperriderが書いた別の論文 『Nose-pointing: Notes on a facial gesture of Papua New Guinea』 にも示されています。論文のタイトルの通り、
・パプアニューギニア・・・鼻で物の位置を示す
という習慣があるそう。顔にくしゃっとしわを寄せて、鼻で示すみたいです。パプアニューギニアでも一部の地域の人たちが行う仕草だと言いますが、世の中には物の位置情報を示す方法がいろいろと存在しているのですね。
インドネシア人は親指で指差しする?
一方で、日本人と同じく手で物の位置を示す動作にも、少し異なる示し方が存在するようです。『それ日本と逆!? 文化のちがい 習慣のちがい 第2期 第2巻 ペラペラ こどばとものの名前』によれば、
・中国・・・5本の指をそろえて物を示す
・インドネシア・・・親指で示す
といった習慣があるそう。知人の中国人ジャーナリストに確かめてみると、5本で指差ししているという感覚より、手のひら全体で示すといった意識があるみたいです。特に人を差す場合、1本の指では失礼な感覚があるのだとか。
これら手のひらで指し示すジェスチャー、親指で指し示すジェスチャー、どちらも他の国で見られます。その両方が見られる国はマレーシア。
・マレーシア・・・親指でも、手のひらでも物を示す
先ほども紹介したマレーシア大学の研究者が書いた論文『Pointing Gestures in Direction Giving Interactions of Malaysian English Speakers』によれば、マレーシア人に路上で道案内を(英語で)お願いしたところ、(通常の人差し指に加えて)手のひらを使って示す人、親指を使って示す人が見られたと言います。
しかも、同じ人がいくつかのジェスチャーを使い分けている場面も見られました。特に手のひらを使って物の位置を示す場合、道案内のように広い方角を示す場面で用いられていたそう。
確かに日本人も、道案内では手のひらを使います。人を紹介する場面でも、指先ではなく手のひらを使います。点を示す場合は指先、面や方角を示す、さらには点の鋭さを和らげたい場合などに、自然と人は手のひらを使って場所を示す習性があるのかもしれませんね。
親指に関しては、人差し指の代わりに使う人もいれば、自分の背後を指差ししたい場合に使う人がいると確認されています。背後にある何かを示したい場合は、日本人も一緒のはず。 何気ない指差しにも、意識を向けてみると、いろいろなバリエーションがあるのですね。
以上、世界のさまざまな「指差し」を紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
ほかにはガーナのように、左手が不浄と考えられている国では、自分の左に存在する何かを示すときも、あえて体をひねるように右手を使って示すケースもあると、オランダにあるマックス・プランク心理言語学研究所の Kita Sotaroが書いた論文『Pointing left in Ghana: How a taboo on the use of the left hand influences gestural practice』に書かれています。
日本人や中国人が「指先で人を指差すと失礼」という感覚に似た思いが、左手で指差す動作に感じられるのかもしれませんね。
[参考]
※ The Preference for Pointing With the Hand Is Not Universal – Kensy Cooperrider
※ Pointing Gestures in Direction Giving Interactions of Malaysian English Speakers – Amal Mechraoui & Associate Prof. Dr. Faridah Noor Mohd Noor
※ Nose-pointing: Notes on a facial gesture of Papua New Guinea – Kensy Cooperrider
※ Pointing left in Ghana: How a taboo on the use of the left hand influences gestural practice – Kita Sotaro
※『Work the World』
※須藤健一監修『それ日本と逆!? 文化のちがい 習慣のちがい 第2期 第2巻 ペラペラ こどばとものの名前』(学研プラス)
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