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電子ピアノ業界に「革新的な新技術」を立て続けに持ち込んだ立役者
ピアノは習い事としていまも人気のようです。筆者の娘の1人もピアノを習っています。送迎のために教室までついていくと、たいていの場合、その前後の時間帯も別の生徒がレッスンを受けに来ています。多くの子どもたちがピアノを習っている様子がなんとなく伝わってきますよね。
レッスンでは毎回、自宅練習が宿題として課せられます。さすがに、グランドピアノは買えませんでしたが、自宅練習用のピアノとして、わが家でもカワイピアノの電子ピアノを買いました。今回は、この電子ピアノにおける世界一を紹介します。
ピアノのメーカーとして日本勢には有力な企業がいくつもあります。代表格はヤマハであり、先ほどのカワイ、今回の主題であるローランド(Roland)もそうです。
この文章を書くまで、てっきりローランドは海外メーカーかと思っていました。しかし、このローランドこそ、電子ピアノ業界に革新的な新技術を立て続けに持ち込んだ発展の立役者なのだとか。
鍵盤タッチで強弱を表現できるように
残念ながら、電子ピアノそのものの発明は日本ではありません。何をもって電子ピアノと称するかで始まりが変わってくるようですが、弦振動を生かした従来のアコースティックピアノがあり、その弦振動を電気的に増幅して遠くまで響かせる電気ピアノが生まれ、弦を持たず電子音の合成で人工的に音をつくる電子ピアノが生まれました。
例えば、最初期の電子ピアノといわれる、アメリカ生まれの「RMIエレクトラピアノ」は、1960年代にリリースされていますが、日本で初めてローランドが電子ピアノ(純電子発振式ピアノ)「EP-10」を出したのは1973年(昭和48年)で、少し後のことです。
しかし、このころの電子ピアノは国内外問わず、アコースティックの生ピアノのように、鍵盤を軽く押せば音が弱く、強く押せば音が強く出るといった構造になっていませんでした。
その電子ピアノに1974年(昭和49年)、世界初の革新をもたらしたメーカーがローランドなのです。タッチ・センス付き鍵盤が同年に発表され、鍵盤タッチで強弱を表現できるようになったのですね。
<電子ピアノの黎明期には、鍵盤で強弱が付けられるというのは大変画期的な技術でした>(Rolandの公式サイトより引用)
創業者の梯郁太郎さんは「電子楽器の父」に
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とはいえ、それらの電子ピアノも、まだまだ本物のピアノ(生ピアノ)のような音が出せない状況が続きました。
このあたりの歴史について書かれた毎日新聞経済部『増補版 日本の技術は世界一』(新潮文庫)によると、当時の電子ピアノは生ピアノの音を録音し、IC(集積回路)に取り込んで、その音源を楽器として出していたそうです。
しかし、1986年(昭和61年)にローランドが再び、世界初の技術(デジタル合成方式)を電子ピアノに持ち込みます。アコースティックのグランド・ピアノに迫るリアルな音を出せる電子ステージ・ピアノ「RD-1000」を発表し、高根の花だったピアノの普及を強力に後押ししたのだとか。
「EP-10」や「RD-1000」の開発にとどまらず、各メーカーの電子楽器間で演奏データのやり取りを可能にする世界標準規格「MIDI」を整備するなど、同社・創業者の梯(かけはし)郁太郎さんは音楽業界に多大な貢献をしました。
もともと梯さんは、大阪市内で電気店を営んでいた人。教会から1台の外国製オルガンの修理を頼まれ、「自分でもつくれるんじゃないか」と電子楽器の世界に入り込んでいったそうです。後に「電子楽器の父」と呼ばれるようになり、米ハリウッドの音楽界における殿堂「Hollywood’s RockWalk」にも手形を残すほどになりました。
こうして、現在のローランドは、世界トップレベルのメーカーとして知られ、多くのプロミュージシャンにも愛用されています。
少しは外出の自由が戻ってきたとはいえ、新型コロナウイルス感染症の影響で、まだまだ家での過ごし方に工夫が求められる時代は続きそうです。
子どものころにピアノを習っていた人、あるいは大人になってからピアノを始めてみたい人はこの際、ローランドの電子ピアノを買って、生ピアノ同様の音色を楽しみながら、練習を開始してみてはいかがでしょうか?
電子ピアノは騒音も心配ありません。家での過ごし方が劇的に豊かになるかもしれませんね。
[参考]
※ 世界大百科事典 – 平凡社
※ RMI Keyboards [Retrozone] – SOS
※ 電子ピアノ RD-1000 – 国立科学博物館 産業技術史資料情報センター
※ ローランド株式会社 創業者 梯 郁太郎の退任について – Roland
※ 毎日新聞経済部『増補版 日本の技術は世界一』(新潮文庫)