自分のよさって何だろう・・・自分にできることは?
自分はこのままの毎日を続けていていいのか・・・自分が本当にやりたいことって?
自分の、自分に、自分は、自分が。
自分について考え始めると、たいていは堂々巡り。なかなか明快な答えは出ません。むしろ、どんどん自分がわからなくなってしまう人も。
それって、不思議ですよね。自分について考えれば考えるほど、逆に自分のことが見えなくなるなんて。
草枕の中の心
『智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。』
有名な、夏目漱石の「草枕」冒頭部分。まるで自分について考えるときの堂々巡りを言い当てているようです。
そして漱石は「草枕」の中で、こう言います。
『ちょっと涙をこぼす。この涙を十七字にする。するや否やうれしくなる。涙を十七字に纏めた時には、苦しみの涙は自分から遊離して、おれは泣く事の出来る男だと云う嬉しさだけの自分になる。』
感情に流されているうちは答えは出ない
『涙を十七字にする』とき、人は自分の感情を外から眺めます。そうすると、なぜか自分の中にいたときより、自分のことがよくわかるようになります。感情に溺れていた自分を、一歩ひいた目線で愛おしく感じたり、滑稽に思えたり、どうして自分がそういう状況になったのかに気づいたり。
自分の本当の心の有り様は、自分の中にいても見えない。いったん外に出るしかないのです。
十七字にするのは外に出るひとつの方法。周りの人と話をしたり、本を読んだり、散歩をしたり、旅に出るという方法もあるでしょう。
自然や人々が織りなす物語、五感で感じる実体験、その中に投影された自分に気づいたときが、ふっと腑に落ちるように本当の自分に出会える瞬間です。
巡り巡ってここに戻ってくるために、人はまた旅に出るのかもしれません。
[青空文庫/「草枕」夏目漱石]
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