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【インタビュー】旅の余韻から生まれる音楽/オレンジペコー ギター藤本一馬

Posted by: 山口彩
掲載日: Aug 29th, 2014. 更新日: Jan 20th, 2017
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【インタビュー】旅の余韻から音楽が生まれる/オレンジペコ ギター藤本一馬

確固たるオリジナリティで同世代を中心に大きな支持を得ているorange pekoe。そのギタリストで作曲家でもある藤本氏が、ソロとしての3rdアルバム『My Native Land』をリリースした。自身のルーツを旅するように、音をたぐり寄せたという今回のアルバムは、澄んだ水のように心にすっと染み渡り、旅先の朝のように五感が研ぎ澄まされる感覚になる。旅の余韻の中で作曲をするという藤本氏に、旅と音楽への想いを伺った。


旅で感じたことが心に溜まって、熟成して、曲になる

—今回のアルバムは「旅する楽曲の記録」だそうですね。

「そうなんです。いわば、旅する自分の心のスケッチのようなもの。近年、自分のルーツについてよく考えるようになったんです。自分は、小さくみたら関西人、大きくみたらいろいろな国を旅する地球人だという想いがあって。

いろんな国の音楽が当たり前に自分の中に存在しているけれど、同時にやっぱり自分は日本人なんだ、と。その感覚を音楽で表現したのが、冒頭の曲『My Native Land Ⅱ』です。」

—『My Native Land Ⅱ』がこのアルバムの方向性を決めたとお聞きしました。

「東京にいると、いろんな国の文化や音楽が当たり前に混在している。こんなに世界中のものが簡単に手に入るところってないですよね。それがある意味、東京的でもあり、日本的でもあるミクスチャー文化。この曲は日本的な旋律を感じながらも、そんないろいろな国の音楽に影響受けたものが混じっていて、それが僕にとってやはり自然なことなんです。そして客観的に自分で聴いていても面白かったんです。」

—音楽における混血、ミックスの魅力とは?

「ひとつは、人や文化の交流です。いくら自然が好きでも、僕の場合人里離れてたった一人で、というのは違うと思っていて。自然があって、人もたくさんいて、それがつながっていて、ミックスされて。そういうのがいい。

あとは、ミックスされることによって新しい感覚が生まれて、みんなの考えがフラットになっていくこと。違いを尊重しながら掛け合わさって、どんどん前向きなものが生まれていく、そういう感覚がある。

奴隷のように悲しい歴史があってミックスされるのではなく、ネットなどでより広がった異文化交流を通じての前向きなミックス、というのがこれからの時代の感覚なのでは、と僕は勝手に思っているんですよね。」

—今回のアルバムにこめられたメッセージとは?

「自分自身が演奏のときも、聴いた方々も、少しでも瞑想的な体験になればと考えていました。実際の瞑想ってものすごく崇高な体験だし、そうそう簡単にたどりつけるものではないと思うんですが・・・でも音楽でそういった集中する感覚を得れるものであればと目指しています。

大自然の風景に出会ったときって、ものすごくいい演奏を聴いたときと同じような感覚を得るんです。でも、人間が作り出す瞑想感は自然とは違って、人間だからこそのものがある。涙の琴線が違うんですよね。心がふるえる場所が違う。人間の演奏がもたらす瞑想感って、心を鷲掴みにされるような感じがする。そういうものが目指すところです。」

—楽曲に直接影響を与えた国や都市はありますか?

「南米の中でも特にブラジルの音楽が好きです。ブラジルは1ヶ月くらい旅をしたこともあるので、強く影響を受けていると思います。後はここ最近、中東とか、北アフリカとか、いわゆるジプシーの旋律のある音楽も好きです。orange pekoeで去年リリースした『Oriental Jazz Mode』はそれがテーマ。実際に現地に行ったわけではなくても、その国で生まれた音楽、音から喚起されるものには常に影響を受けていますね。」

—ある風景から生まれた曲、というものはあるのでしょうか?

「視覚的なものは、僕の中であまり大きくないんです。ある風景を思い描いて曲を作るというよりも、旅で感じたことが心に溜まって、熟成して、曲になる、みたいな。

すごく不思議なんですが、どちらかというと心の動きに近いんですよね。言葉にできない気持ちが生まれて、『これって一体どういうことなんだろう』ってひもとくようにメロディとかハーモニーを考えるんです。それを聴いた人が、『こういう風景が見えた』とか言ってくれることはあるんですけど。」

—心の動きを言葉にせずそのまま音にしていくんですね。

「言葉ってある種限定的なので、単純にうれしいとか楽しいとか、そんなことでは表せないっていう気持ちがあるんだと思います。もちろん言葉にするのがうまい人は言葉で表現するし、絵にする人もいる。僕の場合は、旅の中で言葉にできないたくさんのことが心に刻まれて、それがまた言葉にできない感覚で音楽になります。」

—音楽と旅の共通点は感じますか?

「旅って、やっぱりリアリティ、体験だと思うんです。僕にとっての体験って視覚ではなくて、現地に降り立ったときに感じる空気とか、食べたもの、出会った人なんです。感じたことがすべて。その“感じる”っていうところが音楽と似ているように思います。」

—絶景写真を見て行った気分になる、というようなことはない?

「ないですね(笑)。例えば、ある絶景写真を100回見ていろいろなことを感じたとしても、実際行ってみて感じることって、全然違うと思うんです。それは人生の宝物みたいなもので。みんなそれぞれ感じ方は違うし、同じ風景を見て印象に残るものも違う。そして自分の心の中にひだみたいなものができていく。それが旅の醍醐味です。」

あまりに観光地化された土地は剥製を見ているよう

—今まで旅された場所で感動した場所、しなかった場所は?

「あまりに観光地化されたところは、剥製を見ているような気分になるんですよね(笑)。昆虫の標本みたいな。魂がそこにないように思ってしまう。それよりも裏道にある現地の生活風景だとか、手つかずの大自然の風景を目の当たりにすると、感じる感覚が100倍くらい違うんです。

以前旅したセドナもすごく観光地化されていて。もちろんそれはそれで楽しいんです。スピリチュアル系のお店があったり、きちんと区切られて整備されているのでいろいろなスポットへ行ける。でも僕にとってはそこからグランドキャニオンに車で行ったときの道中の方がよかった。思いっきり地割れとかしていて、この風景はおそらくずっと変わっていないんだろうな・・・と。地球の原風景に出会ったみたいで、本当に感動しました。ネイティブアメリカンの居留地も通ったんですが、そこも圧倒的に面白かったですね。ぶっちゃけセドナやグランドキャニオンの風景はだいぶ忘れちゃってるんですよ(笑)。僕にとってはそんな道中の風景がより心に残ったんですね。。」

【インタビュー】旅の余韻から音楽が生まれる/オレンジペコ ギター藤本一馬

—ネイティブアメリカンの居留地はどういうところに惹かれたのでしょうか?

「彼らの生き方や言葉にふれると、考え方が溶けていくような、大切なことが心に染みていくような気持ちになります。北山耕平さんの書かれたネイティブアメリカンについての本も読みました。やっぱり、自然を大切にする生き方が素晴らしい。自然を大切にするっていうのは、別に特別な話じゃないと思うんですよね。でも現代は考え方の初期設定が違ってしまっている。例えば原発問題にしても、何世代も後に生まれてくる子どもたちのことを考えているようには、とても見えない。」

旅は何かを得に行くものじゃない

—旅に本格的にはまったのはいつ頃でしょうか?

「実は僕、フットワークが軽いタイプでは、全くなくて(笑)。orange pekoeの相方であるナガシマが、非常にフットワークの軽い旅好きな女性なんです。20代の始め頃から、彼女に誘われて旅に行くことが多かったんですね。あとは友人に誘われたり。でも実際に現地に行くと、誰よりも一番自分が楽しんでいる、というパターン(笑)。ありがたいですよね。」

—旅の記録は残す方ですか?

「写真、ほとんど撮らないですね。メモもとりません。テープレコーダーは常に持っていて、鼻歌やギターなどで曲のスケッチを録音します。携帯も持たないですね。最近はさすがに現地で携帯をレンタルして必要な連絡などはしますが・・・。」

—旅先で音楽は聴きますか?

「移動中に暇だから聴く、という程度です。ホテルでも聴きません。めいっぱい旅を楽しみたいから、なるべく現地の空気を感じていたいんです。

あと、現地で触れる音楽っていうのは大きいですね。例えば、バリのガムラン。ジェゴクという竹の楽器があって、演奏している30〜40人くらいの中心に立たせてもらえる機会があったんです。楽器と楽器が重なりあったときの倍音が異常に広がっていて。トリップ感が本当にすごかった。ああいうのはいい経験だったなあと思いますね。」

—テープレコーダー以外に、旅のマストアイテムはありますか?

「ギターは必ず持って行きますね。ホテルで弾いたり、練習したり。でもだいたいギターを持って行くと弾けっていわれる。ご飯食べるときとか、宿とかで。でも持って行くのは解体できるトラベルギターなんで、めちゃくちゃ音が小さいんです(笑)。もうちょっと大きいギターを持って行こうかとも思うんですが、弾けって言われるのを期待しているみたいなのもちょっとなあ・・・とか(笑)。

後は機内を快適に過ごすために、携帯スリッパ、首にまくテンピュール枕、耳栓代わりのノイズキャンセリングヘッドホン、スウェットパンツ、冷え防止の靴下などでしょうか。」

—最後に、TABIZINEの読者に一言お願いいたします。

「生きてて経験ができるということって、一番宝物のように思うんです。死ぬときは何も持って行けないけれど、経験だけは持って行ける。旅をした後の自分は、前の自分とは必ず何かが生まれ変わってるんですよ。それはとても素敵なことだし、一生なくならない。ずっと自分の心の中で熟成されて、自分にしかない何かになっていく。

旅で何かを得るとか、得に行くとか、そういうことではない。見つけるものでもない。それよりも、自分は何を選びたいのかな、ということを観察する。生きることってあるところでは常に選択することでもあると思うんですが、繰り返しの日常を生きていると、ともすると選択することを突きつけられない。でも旅に行くと、次にすること、行きたいところ、意外と選択がたくさんあります。どんどん動いていく心を、なんでそうしたいのかな、なんでそこへ行きたいのかな、何に自分は心動かされるのかな、と観察したり、自分が発したものに対して受け取る経験ができたり・・・。

だから旅の行程もすべてガチガチに決めるんじゃなくて、選択の余地を残しておくことが大事だと思います。いい意味での遊びがある旅がいいですね。」

【インタビュー】旅の余韻から音楽が生まれる/オレンジペコ ギター藤本一馬
移動の時は常にトランクケースという藤本氏

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「藤本一馬」プロフィール

ギタリスト、作曲家。1979年7月生まれ、兵庫県出身。 フォーク、ブルースギタリストの父親の影響でギターを弾き始め、叔父の影響でジャズに傾倒。 その後、ブラジルなど南米の音楽をはじめ、様々なワールドミュージックに影響を受ける。 1998年ヴォーカルのナガシマトモコとorange pekoeを結成。 同世代を中心に大きな支持を得、現在まで7枚のオリジナルアルバムをリリース。 またアジア各国や北米での CDリリース、ライブなど海外へも活動の幅を広げている。 2011 年にギタリストとしての1stソロ アルバム『SUN DANCE』を、2012 年には 2nd ソ ロ ア ル バ ム『Dialogues』 を発表。2014年7月には3rdアルバム『My Native Land』をリリース。東京の新たなチェンバー・ サウンド、アンサンブルの進化系を提示する。ライブハウスから野外フェスまで、さまざまな舞台で活躍する音楽性は唯一無二。

藤本一馬 オフィシャルサイト
orange pekoe公式サイト

【インタビュー】旅の余韻から音楽が生まれる/オレンジペコ ギター藤本一馬
旅の途中に聞きたい、旅人におすすめの『My Native Land』

山口彩

Aya Yamaguchi 統括編集長
インターネットプロバイダ、旅行会社、編集プロダクションなどを経てフリーに。旅と自由をテーマとしたライフスタイルメディア「TABIZINE」編集長を経て、姉妹媒体「イエモネ」を立ち上げる。現在は「TABIZINE(タビジン)」「イエモネ」「novice(ノーヴィス)」「bizSPA!フレッシュ」統括編集長。可愛いものとおいしいものとへんなものが好き。いつか宇宙に行きたい。


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