深い渓谷の中に、浮き島のようにぽつんとある小高い丘の上に作られた町。谷から見上げれば、まるで空の上にある天空の町のよう。谷にかけられた1本の長い橋を渡ってようやくたどり着く神秘的な景色の町「チヴィタ・ディ・バーニョレージョ」をご紹介します。
天空の町
チヴィタ・ディ・バーニョレージョはイタリア・ラーツィオ州にある町。起源は古く、紀元前、エトルリア人によって作られたとされています。切り立った丘の上に町を作ったのは、外敵から町を守るためでした。
現在は、まるで孤島のように、深い谷に囲まれている町ですが、実は以前は丘に渡る尾根がありました。しかし、16世紀の大地震で、この尾根が崩壊、町だけが谷の中に取り残されてしまったのです。
そうして、深い谷の中に浮かぶように残った町は、神秘性すら感じる美しい景色となりました。尾根があった所に橋がかけられ、今は谷を渡る長い橋を渡って町へ行くことができます。まるで天に向かって架けたようなその橋が、さらに町の美しさを際立たせます。
さらに谷を霧が埋める日には、本当に雲の上に浮かぶ町のようになり、幻想的な風景が広がります。
死にゆく町
幻想的な景色のこの町は、「死にゆく町」と呼ばれています。
それはこの辺りの土地が凝灰岩でできており、非常に崩れやすく、この町を支える台地が、今も少しずつ崩れていっているから。
実際、町の下の方から見上げると、台地がボロボロと削れてしまった跡がみてとれます。
地盤の弱さから、今ある建物も崩れる危険性があることや、細い1本橋を渡ってしか町に行けない不便さも手伝って、町の人の多くが移住してしまい、いまでは20人程の居住者が残るのみです。
町はひっそりと静かな佇まい。
台地の崩壊は年々進み、そう遠くない将来、いつかは崩れてなくなってしまうだろうと言われています。この町の人々は、町をとても大事にしていますが、今現在のどんな技術でも、崩れゆくこの台地を留めることはできないんだと、寂しそうに話してくれました。
美しい景色は、時として人の心を揺さぶり、何かを思い起こさせてくれることがあります。形あるものはいつか必ず消えてなくなる運命だとしても、それでも、私たちはその運命の中でも今生きているということ、凛として美しくあるこの町の姿に、学ぶことがあるように思いました。
国鉄Orvieto駅から、バスに乗り換えて、Bagnoregioのバス停で下車。チヴィタ・ディ・バーニョレージョまで徒歩約25分。
[All photos by Ryoko Fujihara]