近年注目を浴びるベトナム中部で行ってみたい場所のひとつが、世界遺産の古都フエ。グエン朝王宮をはじめ、情緒あふれる歴史的建造物が点在するこの街には、喧噪のホーチミンとも、混沌のハノイとも、明るい陽光が似合うダナンとも異なるベトナムの姿があります。
143年続いたグエン朝のもと、華やかな宮廷文化が花開いたフエの街を訪ねてみました。
「ベトナムの京都」フエ
ベトナム中部に位置するフエは、「ベトナムの京都」ともいわれる古都。ベトナム最後の王朝であるグエン朝の都が置かれた場所で、1933年には王宮をはじめとする歴史的建造物が「フエの建造物群」として、ベトナム初の世界遺産に登録されました。
フエへのアクセスの起点となるのが、ベトナムの最旬リゾートとして注目を浴びるダナン。ダナンからフエまでは鉄道またはバスで2時間半~3時間程度です。筆者は、旅行会社「シンツーリスト」が運行するツーリストバスを利用しました。
王宮
フエの最大の見どころが、中国の紫禁城を模して建てられた、グエン朝時代の王宮。1802年にグエン朝を興したザーロン帝時代の時代に着工され、次のミンマン帝の時代に完成しました。
周囲2.5キロの城壁で囲まれた敷地の周囲には人口の堀が、さらにその外側には4つの川による自然の堀が設けられています。地図からして規模の大きさは予想できましたが、ひとつの街ともいえるほどの想像以上の大きさに圧倒されずにはいられません。
入口となっているのが、2015年に修復を終えた王宮門(午門)。高さ17メートル、幅58メートルの中国風二層式の建物で、「王宮の顔」と呼ぶにふさわしい、堂々たるたたずまいをしています。門口は5つあるものの、中央の門は皇帝の外出時にしか使われなかったとか。
フエの王宮は、おもなものだけでも15以上の建造物からなる複合建築物。一通り見て周ろうと思えば、最低でも2時間ほどかかります。
王宮門をくぐって正面にある太和殿は、皇帝の即位式などの重要な儀式が行われた場所。内部には皇帝の玉座が置かれ、80本もの朱色の柱には皇帝を象徴する龍の装飾が施されています。
全体としては中国様式が目立つものの、フランス様式やベトナムの伝統的な建築様式を採り入れた建物も。ヨーロッパの王侯貴族の宮殿のようなきらびやかさはありませんが、塗装の剥がれた門や瓦屋根と木の建物などに、なんともいえない味わいを感じます。
色とりどりの陶器の破片を利用し、アジアらしい門や壁の装飾にも注目です。
カイディン帝陵
王宮があるのはフォーン川の北ですが、フォーン側の南側、フエの郊外には個性豊かな皇帝の陵(墓所)が点在しています。
そのなかでも特にユニークなのが、カイディン帝陵。グエン朝12代皇帝のカイディン帝は、新しいもの好き、派手好き、おまけに無宗教であったため、西洋様式をベースに、東西のさまざまな建築様式が融合。さらには、仏教、ヒンドゥー教、キリスト教など、複数の異なる宗教の様式も採り入れた実験的な建物が完成したのです。
なかでも見ものなのが、カイディン帝の等身大の像がある部屋。壁には、陶器やガラスの破片で動植物などの模様が表現され、天井には躍動感あふれる巨大な龍が描かれています。
「わびさび」という表現が似合う建造物が多いフエにあって、カイディン帝陵は異色の存在。墓所というと厳かなイメージがありますが、この派手さはもはや宮殿のようです。
ミンマン帝陵
カイディン帝陵と並んで、必見の陵とされているのが、グエン朝2代皇帝ミンマン帝のために建立されたミンマン帝陵。ミンマン帝は儒教的思想を重視していたために、ミンマン帝陵も中国風の造りで、歴史ある寺院のような風格を備えています。
周囲1.7キロの城壁に囲まれた広大な敷地内では、拝庭や碑亭、寝殿、陵墓などが参道上に配置され、優れた皇帝として評価の高いミンマン帝の威厳が伝わってくるかのようです。
ミンマン帝の墳墓は小高い丘の上にありますが、実は皇帝はここには埋葬されておらず、その埋葬場所は不明。グエン朝歴代皇帝のなかで埋葬場所がわかっているのは、カイディン帝だけなのです。
「イータオガーデン」で宮廷料理
世界遺産の街フエは、美食の街としても有名。さまざまな名物料理がありますが、フエにやってきたら一度は味わってみたいのが宮廷料理です。
グエン朝の皇帝や皇族が食べていた料理は「宮廷料理」と呼ばれ、動物の形にカービングされた野菜など、見た目の美しさにもこだわっているところに特徴があります。
フエにある宮廷料理レストランのひとつが、王宮の西に位置する「イータオガーデン」。「庭園屋敷」と呼ばれるゆったりとした庭をもつ古民家レストランで、街の喧噪から離れ、静かでスローなひとときを過ごすことができます。
すべてコース料理ですが、コース料金は1100円程度~と、宮廷料理にしてはお手頃。クジャクをかたどった人参や、カメの形をしたチャーハンなど、見た目もユニークな料理の数々が楽しめます。
王朝の終焉後も、世界遺産の建造物群として、食文化として、存在感を放ち続けるグエン朝の遺産。古都フエは今も、ベトナムを代表する歴史と文化の街なのです。
[All photos by Haruna]
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Haruna ライター
和歌山出身、上智大学外国語学部英語学科卒。2度の会社員経験を経て、現在はフリーランスのライター・コラムニスト・広報として活動中。旅をこよなく愛し、アジア・ヨーロッパを中心に渡航歴は約60ヵ国。特に「旧市街」や「歴史地区」とよばれる古い街並みに目がない。半年間のアジア横断旅行と2年半のドイツ在住経験あり。現在はドイツ人夫とともに瀬戸内の島在住。
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