絶景と秘湯に出会う山旅【4】世界遺産 白神山地と不老ふ死温泉

Posted by: 阿部 真人

掲載日: Aug 18th, 2019

山登りの魅力はさまざまですが、時間をかけて登った山頂から見る景色や疲れを癒す秘湯は、登った人のみが知りえる素晴らしい体験です。今回は、世界自然遺産の白神山地と、日本海に沈む夕日が美しい秘湯・不老ふ死温泉の魅力をレポートします。

青池
出典(東北森林管理局Webサイト)

美しい風景はたくさんありますが、山で出会う光景と秘湯は格別なものです。たどり着いた頂きからの絶景はあなたの足で歩いたからこそ得られたもの。そして秘湯はあなただけのご褒美。山ガールはもちろん、誰でも気軽に訪ねることのできる山旅の提案です。今回ご紹介するのは世界自然遺産の白神山地と、日本海に沈む夕日が美しい秘湯・不老ふ死温泉です。

白神山地へのアプローチ 日本海沿いから

1993年に世界自然遺産に登録された白神山地。青森県と秋田県にまたがる約13万haの山地帯の総称です。人の手のほとんど入らない世界最大級のブナ原生林が広がり、多種多様な動植物が生息・自生し貴重な生態系が保たれています。ではどんなところなのでしょう。そしてどのようなルートで訪ねることができるのでしょう。もっともポピュラーな行き方は秋田・青森の日本海沿いを走る五能線沿線からです。

五能線と山並み

人気No1 十二湖めぐり

白神山地で最も人気がある散策コースが十二湖。実際には33の湖沼があり、それぞれの湖を巡る散策コースが設けられ、青々とした美しい湖と緑のブナ林を楽しむことができます。コースの脇には有料駐車場もあり、車で行くのがおすすめですが、五能線十二湖駅からバスも出ています。

十二湖マップ

十二湖は200年前に起きた地震による山の崩壊で川が堰き止められて生まれたといいます。周囲は保水力のあるブナ林が密集していて、常に湖沼群に水を供給しているというのです。

中の池

落口の池は駐車場の脇にあるので人通りが多いのですが、カモ類やアオサギなどの野鳥を見ることができます。また夏の夜にはホタルを見ることもできます。

落口の池

鶏の頭のような形をした鶏頭場の池。鶏頭場は「けとば」と読むそうです。周囲は大きなブナの木が目立ちます。

鶏頭場の池

そして青池。最も透明度が高くて美しく輝き、人気の高い池です。なぜこれほど青くなるのか、その理由はまだ未解明なのだそうですが、湖底が白く光がきれいに反射することやたいへん澄んだわき水のために、刻々と変わる太陽光線の角度によっても色が変わって見えると考えられています。
訪ねるなら、太陽が直接青池に当たっているお昼時が狙い目です。

青池
出典(東北森林管理局Webサイト)

十二湖散策コースは一周1.5キロで、のんびり歩いて1時間半ほど。周囲はブナ林が広がっていてアップダウンもそれほどなく、足元には砂利やウッドチップが敷き詰められて歩きやすいコースになっています。

白神の山 二ッ森に登る

白神山地の核心に迫りたいという人におすすめなのが登山。しかし白神の中心部分は立ち入り禁止となっていて、手前の緩衝地帯までしか入ることができません。しかし緩衝地帯とはいえ通常の登山とは違い、映画「もののけ姫」の世界のような、手付かずのままの自然を感じることができます。そんな山のひとつに二ッ森があります。

二ッ森登山口

国道101号線と並行して走るJR八森駅付近から車で林道に入り山道を30分ほど登っていきます。終点の駐車場に車を止めて、登山口から山頂まで45分ほどで登ることができます。

二ッ森登山

周囲の山々よりも少しだけ高い二ッ森の標高は1087m。登山道の途中からは、白神山地の山並みと、その向こうに青森県を代表する山、岩木山を望むことができます。

白神と岩木山

二ツ森は白神山地の中央を東西に走る稜線の上にあり、この稜線は青森県と秋田県の県境になっています。山頂は樹木に隠れて展望があまりききません。ちなみに2011年の東日本大震災による地殻変動で、これまでの標高からなんと1m高くなって1087mなのだそうです。

二ッ森山頂

白神山地の甘い湧水 お殿水

白神は水が豊かな土地。十二湖でも湧水が湧き出していますが、おいしく頂ける湧水「お殿水」(おとのみず)をご紹介します。青森県との県境に近い秋田県八峰町の「道の駅はちもり」にあります。

お殿水

なぜおススメかといいますと、甘く感じる水なのです。口に含むとさわやかな甘みが広がる水。御殿水とは、津軽藩のお殿様が休憩した際、ここの清水を飲んで「甘露、甘露」とお褒めになったことから「お殿水」と呼ばれるようになったとか。しかも無料なのです。

お殿水アップ

白神山地 秋田県藤里町からのアプローチ

白神山地は中心地域が立ち入り禁止のために入山できません。そのために白神の周囲を巡ることになります。南の内陸から白神に近づくルートのひとつが秋田県藤里町からのアプローチ。まずは白神山地世界遺産センター藤里館を訪ねましょう。

世界遺産センター藤里館

世界遺産センター藤里館では世界遺産条約の説明や白神山地の自然に関する展示などを行っています。広々としていて、木目調の内装がとてもやさしい気持ちにさせてくれます。

藤里館内部

ブナの森 岳岱を歩く

藤里館から白神に向かう滝の沢地区に親水公園があり、その奥にあるのが落差12mの峨瓏大滝。江戸時代からの景勝地なのだそうです。

滝

峨瓏大滝からさらに車で1時間ほど登った山あいに約12haのブナ原生林、岳岱(だけだい)があります。ここは世界自然遺産に登録された白神の森を体験できる場所のひとつです。駐車場もあり、遊歩道やトイレなども整備されていました。

ブナの森

この森にある樹齢400年という古いブナの木。幹周り4m85cm、樹高26m。「白神のシンボル」のひとつです。周囲はロープの柵があり触れることはできませんが、岳岱の名主を感じさせる大木です。

白神のシンボルブナ

岳岱の興味深い点は、雑然とした森林ではなく、なぜか庭園のような整った風景が広がっていることです。苔や地衣類などに覆われた台地の上に、長い年月を経て岩を抱きかかえるように成長したブナの大木を見ることができ、縄文時代から変わらない自然のままの風景を感じさせてくれます。

白神山地 青森県からのアプローチ

じつは白神山地の74%は青森県に属しています。とはいえほとんどが立ち入り禁止地域で条件は秋田県と変わりありません。北側の内陸から白神山地に近づく拠点に西目屋村のアクアグリーンビレッジANMONがあります。

アクアグリーンビレッジ

ここには、白神山地に触れるための観光案内所やレストラン、子どもたちの遊具施設、入浴施設、素泊まりのコテージやキャンプ場が併設されています。

ビレッジ内

この周辺の青森側では、既存の歩道と指定ルートを利用した登山道を通ることで何か所かの中心地域に入山することができるのだそうです。その場合は事前に地域の森林管理署などに入山申請をして許可を得る必要があります。

暗門溪谷へ

ちなみにこのアクアグリーンビレッジから海沿いの深浦町まで続く全長42キロの青森県道28号線、通称白神ラインがあるのですが、実はたいへんなでこぼこの砂利道なのです。急カーブやアップダウンも激しく、道幅も対向車とすれ違えないほど狭い箇所もあるので、安全運転にはくれぐれも気をつけて下さい。

絶景の後は日本海の秘湯 不老ふ死温泉

白神山地で自然を満喫した後は、ぜひ秘湯・不老ふ死温泉を楽しんでください。人里離れた海岸沿いに建つ一軒宿ですが、イメージとは違い広々とした敷地に立つ、宿泊客や日帰り入浴客でにぎわう開放的な宿です。

不老ふ死温泉

ぜひ体験していただきたいのが、海沿いの岩場にある露天風呂。岩場に打ち付ける日本海の荒波、そして夕景を見ながらの露天風呂は最高です。女性専用の露天風呂もあります。泉質は鉄分を含んだ茶色のナトリウムマグネシウム塩化物強塩泉で、口に含むと塩辛く感じます。ちなみに夜間照明がないので入浴時間は日の出から日没まで。

露天風呂
©不老ふ死温泉

食卓は地元の深浦漁港で獲れた新鮮な海産物で溢れます。白神の伏流水が流れ込む深浦の海は自然と漁場に恵まれ、年間を通じて新鮮な水産物が水揚げされています。また朝食ではお刺身のバイキングを頂くこともできますよ。

夕食

毎週土曜日には夕食後、ロビーで津軽三味線が披露されています。本場で聞く津軽三味線は迫力があります。

三味線の演奏

不老ふ死温泉へは近くのJR五能線ウェスパ椿山駅からは送迎バスもあります。JR新青森駅や秋田駅からリゾートしらかみ号を利用する場合はバスの予約は不要。「普通列車」利用の場合は電話での予約が必要です。

夕景

白神山地や不老ふ死温泉は東北地方の日本海側にあるために交通は不便です。しかし不便であるからこそ、縄文の森を感じさせる東北地方の原風景が残されてきました。ぜひ一度はゆっくりと白神を訪ねてみてください。

不老ふ死温泉
住所:青森県西津軽郡深浦町大字舮作字下清滝15
TEL:0173-74-3500 (代)
HP:http://www.furofushi.com/
PROFILE

阿部 真人

Masato Abe 還暦特派員

大学を卒業後、およそ30年間テレビ番組を作ってきました。57歳の時に、主夫となり、かつ自由人として旅に生きることを決意して早期定年退職。登山を始め、東京の街歩きガイドや温泉めぐり、豆大福探訪などなど60歳の還暦を迎えて好奇心が高まっています。

大学を卒業後、およそ30年間テレビ番組を作ってきました。57歳の時に、主夫となり、かつ自由人として旅に生きることを決意して早期定年退職。登山を始め、東京の街歩きガイドや温泉めぐり、豆大福探訪などなど60歳の還暦を迎えて好奇心が高まっています。

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