中央エリア「大峯本宮 天河大辨財天社」
近鉄「下市口駅」からバスで約1時間10分ほどで辿り着く「大峯本宮 天河大辨財天社(天河神社)」。バスを降り立つと目の前には一の鳥居が現れます。“神様に呼ばれた人しかたどり着けない”といわれるこの地に無事到着できたことに、感謝と安心感が自然と込み上げてきます。
役行者(えんのぎょうじゃ)によって開山された大峯山のひとつ「弥山(みせん)」の鎮守として祀られたのが始まり。かつて皇位継承事件で窮地に立たされた大海人皇子が勝利を祈願し琴を奏じると、天女(役行者が弥山山頂に祀ったとされる弥山大神)が戦勝の祝福を示し、皇子は勝利を収め天武天皇に。天女の加護に報いるため「天の安河の宮」の神殿を造ったのが始まりと伝えられ、天川村の名前の由来にもなったそう。
大峯修験の要の行場とされ、弘法大師空海と高僧をはじめ、多くの修験者が大峯参りと高野詣を併せて訪れています。
手水舎で心身を清めたら、金魚が遊泳する太鼓橋を渡り、石段を昇って拝殿へ。鎮守の杜である小高い琵琶山に神殿はあります。
水の神・音楽や芸能の神・商売の神として市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)/辨財天、熊野坐大神(本地仏:阿弥陀如来)、吉野坐大神(蔵王権現)、南朝四代天皇の御霊、神代天之御中主神より百柱の神を御祭神に、神仏習合の形態を今も残しています。
薄明かりの拝殿の奥に本殿があります。殿内には2体の「辨財天像」が祀られており、その内の1体の日輪辨財天像は60年に1度の御開帳とされる秘仏。空間は、全て見透かされているような緊張感に包み込まれます。
神殿に向き合うと、頭上には古来より伝わる神宝「五十鈴(いすず)」。金と銀が重なる五十鈴は「いくむすび・たるむすび・たまずめむすび」という「三魂(みむすび)の精神」の魂の調和をあらわし、円を描くように鳴らすと、鈴の音が水のように静かに空気を揺らします。
天照大御神が天岩屋戸にこもられたとき、天宇受売命(あめのうずめのみこと)が、神代鈴の矛をもって舞い、岩屋戸が開かれ天地が明るくなったという伝承に登場する鈴と同じものと伝わっています。
コロナの前は五十鈴を鳴らして参拝できましたが、現在は感染症対策のため鳴らすことはできないので、心の中で音を響かせ参拝を。
拝殿に対峙する神楽殿では神楽や能楽が奉納され、能楽の創始者・世阿弥も使用した能面や装束、弘法大師の密教法具、円空の傑作とされる「大黒天」など多数所蔵されています。
拝殿奥の階段を降りると「役行者堂」、本殿に向かう石段の途中には、龍神大神・大将軍大神・大日靈貴神・天神大神・大地主大神をお祀りする5つの社、天から降ってきた「天石」、斎灯殿には平和を祈る御神燈「千年の灯」が灯っています。
俳優や歌手の方など、芸能・商売の参拝が多いようですが、実際にはるばるたどり着き神殿の前に立つと、“何かを望む・願う”よりも“今後どう進むか、何を頑張るか”という思いが湧き、己の心にまっすぐ向き合う素直な感覚になってしまいます。
住所:奈良県吉野郡天川村坪内107
問い合わせ:0747-63-0558
参拝時間:7:00〜17:00
近鉄吉野線「下市口駅」から奈良交通「中庵住(なかいおずみ)行」乗車(約1時間)「天河大弁財天社」下車すぐ/「天川川合」バス停から徒歩約45分(バスの本数が少ないため事前に運行表をご確認ください)
HP:https://www.tenkawa-jinja.or.jp/
中央エリア「来迎院」
天河大辨財天社の向かいには、真言宗醍醐派寺院「来迎院」があります。ご本尊に大日如来像、十一面千手観音立像、不動明王、二童子立像をお祀りしています。
天川村の西にある、紫流滝の仏棚と呼ばれる岩穴で、弘法大師が3体の仏像を刻まれた時、3体の仏像に「いずこなりとも好きな所へ行かれたらよい」と言うと、不動明王は歩いて来迎院まで来られたという伝説から「あゆみ不動尊」と呼ばれています。
お堂の脇には、弘法大師の宇宙を表す言葉「阿字観」の光明真言が刻まれた石碑、お堂の隣には弘法大師がお手植えしたとされる「大銀杏の木」が悠々と立っています。天然記念物に指定され、幹周り6.9m、樹高35mと雌株では奈良最大。秋には大銀杏の木、春には境内入口のしだれ桜が咲き誇り四季を描いています。
周辺には、ほかにも神社や史跡があるので、時間が許す限り巡ってみるのもいいですね。
住所:奈良県吉野郡天川村坪内
境内自由参拝
交通:「大峯本宮 天河大弁財天社」向かい
洞川エリア「真言宗醍醐派総本山 大峯山 龍泉寺」
大峯山の登山口「洞川(どろがわ)」の、洞川温泉バス停から徒歩約5分にある真言宗醍醐派大本山であり、大峰山寺の護持院「大峯山 龍泉寺」。
約1300年前、大峯山の開祖・役行者が岩場から発見した湧き出る泉のほとりに大峯一山の総鎮守の守護神「八大龍王尊」をお祀りしたのが始まり。
修験道の根本道場として、龍の口より湧き出た水は池となり水行場に。こちらで体から悪いものを抜き、本堂でお勤めをして仏様を入れ大峯山に入山するそうです。
背後の大峯山からはパワーが流れているよう。龍王橋を渡ると右手には「八大龍王堂」。
お堂には細かな彫刻の龍像、堂内には、今にも動き出しそうな龍の天井画が迫力と威厳に満ちています。
本堂には、弥勒菩薩を御本尊に、役行者、弘法大師、理源大師、近畿三十六不動尊の不動明王をお祀りしています。
本堂の前に立つのは、夫婦の鬼「前鬼と後鬼」。昔、人の子を拐い喰っていた前鬼と後鬼の子を役行者が逆に隠し諭し、前鬼と後鬼は行者の弟子となりました。前鬼は吉野郡下北山村に、後鬼は後に洞川で暮らした伝説が残り、洞川は「後鬼の里」と云われる所以に。
ほかにも、なでると軽く、叩くと重く持ち上がるという「なで石」という不思議な石が。生き物に心があるように石にも心があることを教えてくれ、昔は、願いが叶うときは軽く、叶わないときは重くなるという“石占い”に用いられたようです。
また、役行者が身につけて山に入ったと云う伝説にちなんで奉納された鉄下駄と鉄錫杖(写真)、子を思う白蛇の愛情ある「龍の口伝説」、昭和21年(1946年)の大災の後、滋賀県の彦根から移築された「大正天皇御休憩所」など、歴史と伝説がいっぱい。
境内の木々は季節で彩りを変え、写真撮影にも力が入る自然美です。
研ぎ澄まされた修行の場は、神である自然と清水の大いなる力のおかげか、すっと力も抜け、清々しさを感じます。
住所:奈良県吉野郡天川村洞川494
電話:0747-64-0001
参拝時間:拝観自由(本堂開閉8:00~17:00)
交通:「洞川温泉」バス停から徒歩約5分
HP:http://www.oominesan-ryusenji.jp/index.html
行けたことに感謝する天川村巡り
天川村は車以外に公共交通機関でも行けるので、その際はバス・電車の時間を調べてからお向かいください。
「天河大辨財天社」発のバスは1日数本なので、朝到着して参拝したら、次のバスを待つ間は周辺を巡って待ったり、洞川エリア行き「天川川合」バス停までの3.2km(徒歩約45分)を、天ノ川沿いにのんびり散歩して洞川エリアへ行くのも不可能ではありません!
ちなにみ、「天川川合」バス停の近くには、天川村総合案内所、天川村の特産品の直売所の小路の駅「てん」もあり、お買い物も楽しめます。
神社仏閣と自然の神にいつも見守られ、たどり着くことこそが奇跡に感じてしまう天川村。歴史、自然、神仏が一体した空気に触れるとともに、自身を見つめ直す旅をしてみませんか?
天川村公式サイト 観光ページ:http://www.vill.tenkawa.nara.jp/tourism/spot/benzaitensha/
[All photos by kurisencho]