
「海の堺、陸の今井」と呼ばれた江戸時代

奈良県橿原市の中心地・今井町は安土桃山時代、一向宗の門徒が布教を目的とし、寺を中心とした環濠集落を造ったのが始まりです。織田信長から「自治特権」を許され、堺との交流も盛んになり商業都市として栄えました。江戸時代には「海の堺、陸の今井」と言われるほどに発展。なんと、町独自の紙幣「今井札」も流通していたというから驚きです。

最盛期は17世紀後半(将軍・綱吉の頃)。世帯数は1,082軒、人口約4,000人。肥料、木綿、味噌、米、酒などの取引に加え、大名相手の金融業者も活躍。「大和の金は今井に七分」とも言われるほど潤い幕府の天領でもありました。

現在も、町の約500軒の民家が当時の伝統建築を残し、そのうち、典型的な町家(商店を兼ねる住居)の内部を見学することができます。写真は、旧米谷家の台所。
県の指定文化財、今井まちなみ交流センター「華甍(はないらか)」

こちら、今井町の南西角にある今井町の交流センター(明治36年築)。今井町では珍しい洒落た明治建築が見ものです。当時の高市郡教育博物館として建てられ、現在は今井町の歴史を詳しく紹介する資料館となっていますので、最初に立ち寄ってみましょう。

中には、今井町の典型的な町家、木材商の豊田家、庄屋の音村家2つのミニチュア模型の展示があり、当時の建築様式や暮らしぶりを伺い知ることができます。

こちらは粘土100%の和瓦で作られた鬼瓦。見た目はサル(笑)ですが、邪気を払う役目もあったそう。現在の多くの建物はセメント混洋瓦が主流ですが、今井町の保存地区内は今でも和瓦が使われています。

こちらは2階の講堂。天井は神社の御神木などに使われる栂材(トガザイ)を使用。

館内には明治36年建設当時のまま残されているものもあります。

ディテール一つひとつがレトロ感たっぷりで、いちいち見入ってしまいます。
●今井まちなみ交流センター「華甍」
住所:奈良県橿原市今井町2-3−5
電話:0744-24-8719
開館:9:00~17:00(最終入館は16:30まで)
肥料商だった「旧米谷家」の内部

こちらは、町の西側にある「旧米谷家」。入ってみると、土間が広い! 今井町は西側エリアから発展しており、後期にできた東側エリアとでは家屋の造りが大きく違っています。

米谷家は町の創世期(18世紀中期)の頃の町家なので、土間の面積が広く仕事に重きをおいた造りとなっています。後期になると、商いで潤って余裕も出たからか、土間より住居スペースが広くなっているようです。暮らしの変化も見て取れます。

土間の釜戸は、一人でも家事をうまくこなせるようにカタチが湾曲しています。

こちらは中庭になる蔵。蔵の前に座敷があるスタイルです。「蔵前座敷」といい、隠居した人がここで暮らしていたそうです。
●旧米谷家住宅
住所:奈良県橿原市今井町1‐10‐11
電話:0744-29-7815
開館:9:00~17:00(12:00~13:00閉館)
無休
大型町家の造りがよく分かる「今井まちや館」

江戸時代から現存する、大型町家の基本的構造を持つ建物。

どま、しもみせ、みせのま、みせおく、帳台構え、突止溝、あげ戸、煙出しなど、1700年頃の建築手法がよく残されています。

こちらは玄関を入ってすぐ右手に広がる「みせのま」。

「みせおく」は、常連の上客をもてなしていたのでしょうか。

「つし(厨子)」と呼ばれる屋根裏空間には使用人が住んでいたとされています。
●今井まちや館
住所:奈良県橿原市今井町3-1-22
電話:0744-22-1287
開館:9:00~17:00(12:00~13:00閉館)
無休
[All photos by SACHIKO SUZKI]

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sachikosuzuki 旅行記者、エディトリアル・ディレクター
出版社勤務や地球の歩き方編集を経て2001年に独立。世界60か国以上を頻繁に取材し、一期一会のハッピーな記事を書いています。JTBるるぶ「アンコールワットとカンボジア」初版制作。著書『もち歩きイラスト会話集タイ/池田書店』、『みやざきの自然災害』ほか。有限会社らきカンパニー主宰。「らき」はギリシャ・クレタ島の地酒の名前です。
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