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京都最古の祭り「葵祭(あおいまつり)」の由来

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2022年5月15日、規模を縮小しながらも「葵祭」が京都で行われました。京都最古の祭りにして、京都三大祭りの1つの開催ニュースを、インターネットやテレビで見た人も少なくないかもしれません。
<古来、祭と言えば葵祭を意味した>(岩波書店『広辞苑』より引用)
というように、一時期まで祭りの代名詞でもあった京都の代表的な祭りです。
素敵な響きのあるこの祭りは昔、「賀茂祭」と呼ばれていました。朝日新聞出版が発行する『知恵蔵』によると、正式名称は今でも「賀茂祭(かもさい)」だと書かれています。
京都にまだ都が移る前の567年、今から1500年ほど前に風水害が続いて世が乱れました。その原因を突き止めようと調べると、賀茂の神々のたたりだと判明したそう。
そこで当時の天皇が勅令を出し、旧暦の4月の吉日に祭礼を行って、イノシシの面をつけた馬上の人に馬を走らせた(競馬をさせた)みたいです。すると悪天が一変し、豊作に転じました。
現代の感覚をベースに「偶然でしょ」と言えばそれまでかもしれません。しかし、天候のメカニズムが今ほど分かっていない1500年ほど前の人たちが、馬を競わせた直後に天候が回復したのを目の当たりにすれば、神々しい何かの力を感じないわけにはいかなかったのではないでしょうか。
以来、競馬は続きます。平安時代の819年には国家的行事になりました。応仁の乱(1467-1477)で一時期中止になるものの、江戸時代の1694年に復活し、呼び名を「葵祭」に変えます。
復活と中断を繰り返しながら、明治時代に入り太陽暦に切り替わると、新暦の5月15日に祭りが移されます。1884年(明治17年)とは、洋画家の黒田清輝がフランス留学し、小説家の森鴎外がドイツへ留学したような時代ですね。
その後、第二次世界大戦での中断もありましたが、5月15日の祭りは現在も引き継がれています。
京都御所から下鴨神社、上賀茂神社へ行列が

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葵祭と言えば、京都御所から下鴨神社、上賀茂神社へと続く、500名近くの行列や牛車を思い浮かべる人も少なくないと思います。
新型コロナウイルス感染症の影響で2022年(令和4年)に至るまでの3年間は中止となっていますが、行列では、天皇から神へささげる供え物が、勅使の手によって下鴨神社(正式には賀茂御祖神社)へ持ち込まれます。
下鴨神社の宮司からは勅使に対して葵が手渡されます。勅使は下鴨神社を出発すると、今度は上賀茂神社(正式には賀茂別雷神社)を目指します。
5月15日の当日に至るまでにも、さまざまな行事が行われます。例えば5月3日に、葵祭(あおいまつり)の幕開けを告げる「流鏑馬(やぶいさめ)神事」も決まって行われます。
2022年(令和4年)の葵祭では、行列こそ中止になったものの、この「流鏑馬(やぶさめ)神事」については2年ぶりに復活しました。流鏑馬(やぶさめ)とは、
<馬を走らせながら、雁股(かりまた)をつけた鏑矢(かぶらや)で三つの的を順次射る射技>(小学館『日本大百科全書』より引用)
とあります。要するに、馬上から矢を放ち、3つの的を射る競技ですね。多くの観覧者が流鏑馬(やぶさめ)を見守り、公家風・武家風の装束を来た馬上の人から矢が放たれるたびに歓声を上げていました。
賀茂社のゆかりの植物が「葵(あおい)」

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ところで、なぜ葵(あおい)が祭りの呼び名になっているのでしょうか。葵祭を見れば分かるように、祭りの関係者や社殿に葵が飾られています。
その理由は、下鴨神社と上賀茂神社の総称である賀茂社の神紋が賀茂葵(フタバアオイ)で、ゆかりの植物であるためにモチーフとなっているのだとか。当日の警備にあたる警察官の帽子にも葵が飾られるようです。なんだかいいですよね。
祭りのクライマックスは「走馬(そうま)の儀」で、1500年以上前の祭りの起源と同じく馬を走らせ、天下太平と五穀豊穣を願い、締めくくります。
来年の2023年(令和5年)こそは行列を含めたフルバージョンの葵祭が見られるのではないでしょうか。
京都最古の祭りにして京都三大祭りの1つ、一時期は祭りの代名詞にもなっていた葵祭を、ぜひ直接見学してみてくださいね。

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[参考]
※ 葵祭 – NHK
※ 葵祭の行列、3年連続中止 京都三大祭り – 日本経済新聞
※ 初夏の古都で葵祭 – 時事通信
※ 葵祭の幕開けを告げる「流鏑馬神事」…京都 – 読売新聞
※ 葵祭に行くっ – 京都市情報館
※ デザイナーズインスピレーション

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
1979年東京生まれ、埼玉育ち、富山県在住。成城大学文芸学部芸術学科卒。国内外の媒体に日本語と英語で執筆を行う。北陸3県を舞台にしたウェブメディア『HOKUROKU』の創刊編集長も務める。
https://hokuroku.media/
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