歯科医院で患者の口元を照らすあの照明
とくに海外旅行を楽しむ際は、事前に歯の治療を済ませておくのが無難です。日本のように健康保険が適用されないので、現地での歯の治療には大変なお金がかかったり、飛行機移動の際に歯にトラブルがあると、大変な痛みに機内で悩まされるケースもあるからです。
そんな旅と切れない関係のともいえる歯科医院に、筆者は今まさに通院中ですが、その治療現場で使用される機器に治療用ライトがあります。歯科医師が手元と患部を明るくするために、患者の顔の近くまで引き寄せるあの照明機器ですね。
太陽光(自然光)のように鮮明で明るい色を照射しながら、影が少なく、なぜか患者に熱を感じさせないあのライト。実は、歯科用の「デンタルミラー」と呼ばれる特殊な反射鏡が使われていて、その反射鏡の分野で日本企業が世界一のシェアを誇っているのです。
「デンタルミラー」の世界シェア約72%
前述のデンタルミラーをつくっている企業が「岡本硝子」(千葉県柏市)です。
岡本硝子の公式サイトには、
<熱を発さない無影灯用のミラー>(岡本硝子の公式サイトより引用)
とあります。
ミラーの内側に1万分の1ミリ単位の層を約30も重ね、光の屈折率を調整し、光だけを反射しながら熱線は外に逃がしているのだとか。さらに、鏡の表面に特殊な成形を施し、医療従事者の手元に影が極力生まれない設計になっています。
影が出ない上に自然光に近く、熱も少ないので治療時の出血にも悪影響を及ぼさないそう。人種の違いによる歯科医師の瞳の色の変化にも対応できるように、薄膜(はくまく)の厚さにもバリエーションが持たせられるのだとか。
このデンタルミラーづくりで岡本硝子は世界シェア約72%、世界一のシェアを誇るまでに至ったのですね。
もともと切り子を手がける会社だった「岡本硝子」
もともと岡本硝子は、1928年(昭和3年)に都内で創業し、カットガラス(切り子)を手がける会社としてスタートしたそうです(1947年に株式会社化)。
その後は、船舶用の照明ライトや鉄道用の信号灯ガラス、車のヘッドライトカバーなど、時代にあった特殊ガラス製品をつくりながら売り上げを伸ばします。
ガラス表面に薄い膜を付着させる薄膜の製造を1984年(昭和59年)にスタートしてからは、高付加価値のガラス製品でさらなる成長を遂げたそうです。その過程で、デンタルミラーなどいくつかの分野で世界No.1のシェアを獲得し、現在に至っているのですね。
デンタルチェアユニットに腰かけたら、ライトが点灯する前に照明の構造を確かめてみてください。もしかすると岡本硝子のデンタルミラーが使われているかもしれませんよ。
[参考]
※ 岡本硝子株式会社 「グローバル・ニッチトップ」を合言葉に顧客ニーズのトレンドに目を向ける
※ 毎日新聞経済部『日本の技術は世界一』(新潮社)
※ 世界シェア・トップを誇る日本の中小企業にあった「3つの共通点」 – MAG2NEWS