
ギネス世界記録に盆踊りの記録もある

cowardlion / Shutterstock.com
盆踊りは、なんとなく想像が付くように、もともと宗教色の強い民俗芸能・年中行事でした。現在ではその意味も薄れ、娯楽やイベントの意味合いが大きくなっています。
例えば、2017年(平成29年)9月9日に大阪の八尾市で開かれた八尾河内音頭まつりで、2,872人の踊り手が盆踊りを楽しみ、「Largest bon dance(世界最大の盆踊り)」としてギネス世界記録に登録されています。
この八尾河内音頭まつりは、全市民が参加できる「市民型まつり」として1978年(昭和53年)に誕生した行事です。
この記録を抜こうと、2022年(令和4年)の夏には、東京の中野駅前大盆踊り大会も計画されているようです。こちらの盆踊り大会も「史上最強の盆踊り大会」を目指しているように、娯楽の意味合いが強い催しだと言えそうです。
しかし、文化交流を目的として異国の地で開かれる盆踊り大会に、宗教上の理由から不参加を表明する人も世界には存在するように、盆踊り=仏教的な行事であると一方では今も解釈されています。
この盆踊りとは、一体なんなのでしょうか?
日本の原始的な踊りと仏教の儀式が習合

マレーシアの盆踊り Fiqah Anugerah Dah Besa / Shutterstock.com
幾つかの百科事典を読み比べると、その歴史や由来が詳しく書かれています。
『日本大百科全書』(小学館)にも『世界大百科事典』(平凡社)にも『ブリタニカ国際大百科事典』(ブリタニカ・ジャパン)にも共通して書かれているポイントは、
老若男女が大勢参加する踊り
盂蘭(うら)盆の時期に屋外で踊る
近年は、共同体の娯楽行事になっている
といった点です。盂蘭(うら)盆とは仏事です。つまり、仏教の儀式。7月13日~15日を中心に行われ、死んだ祖先の供養(死後の世界の苦しみから救済する)を目的とします。
ただ、盂蘭(うら)盆=盆踊りの起源といったシンプルな歴史でもないみたいです。
仏教儀式の盂蘭(うら)盆が広まる前に、固有の習俗が日本にはいくつもありました。
例えば、稲作の敵である害虫を村の外へ追い出す虫送りの「呪術的儀礼」や、稲の開花時期に豊作を祈る「豊年踊り」、旧暦7月の満月の下で男女が集まり踊りながら配偶者を求める「歌垣(うたがき)」の習俗などなど。
さらに、旧暦の正月と7月には先祖の霊がこの世を訪れるため、歓待した後に子孫たちで踊ってあの世に先祖を送り返すような精霊観もあったと言います。
これら日本独特の考え方と原始舞踊が、後に渡来した仏教の盂蘭(うら)盆と折衷・調和し、日本中で親しまれる年中行事=盆踊りに発展していったと考えられるのだとか。
この盂蘭(うら)盆の影響を仏教的だとして、異なる宗教の人が盆踊りの参加を見合わせるケースもあるのですね。
阿波踊りも盆踊りの一種

Kobby Dagan / Shutterstock.com
固有の精霊観や原始舞踊と盂蘭(うら)が結び付いてスタートした盆踊りも、室町時代(1392~1573年)以降になると、小歌踊りの流行が取り入れられ、よりメジャー化していきます。
全国各地の寺社の境内やまちの広場にやぐらが設けられ、輪になって踊る形式も生まれました。一方で、一列になって行進する盆踊りもあって、徳島の阿波踊りがその代表例なのだとか。そもそも阿波踊りは盆踊りの一種なのですね。
<室町末期から民衆娯楽として発達、その形式は円舞式と行進式との2種がある>(岩波書店『広辞苑』より引用)
その盆踊りが、江戸時代に入るといよいよ発展します。バリエーションを増やし、郷土色が強くなっていきました。近代以降は、踊る目的も多様化します。
例えば、筆者の育った埼玉県の入間市には「いるま音頭」があります。小学生のころに学校の授業でも習った気がします。あらためて歴史を調べてみると、1986年(昭和61年)に、市制施行20周年の記念事業の1つとして制作された歴史があると知りました。
日本固有の精霊観や盂蘭(うら)盆などの歴史とは直接的に結び付いていないようにも見えますが、市民の「共通言語」として、あるいは一体感を育むツールとして、盆踊りが活用されるケースもあるのですね。
この夏、皆さんが親しむ盆踊りには、どのような由来があるのかあらためて調べてみてはいかがでしょうか。新しい発見や気付きがあったり、郷土への思いが深まったりするかもしれませんよ。

julianne.hide / Shutterstock.com
[参考]
※ 第10回中野駅前大盆踊り大会 東京音頭を踊り「ギネス世界記録(R) 町おこしニッポン」に挑戦しよう – 時事通信社
※ Largest bon dance – Guinness World Records
※ 盆踊り不参加を呼びかけ マレーシア閣僚、信仰理由 – 産経新聞
※ 今年の花火や盆踊りは? 感染対策徹底し、規模縮小して実施も – 朝日新聞
※ 第20号 第1回八尾まつり – 八尾市
※ いるま音頭 – 入間市
※ 阿波踊りの歴史 – 阿波おどり会館
あなたが知りたかったことが、この記事で参考になりましたか?
Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
1979年東京生まれ、埼玉育ち、富山県在住。成城大学文芸学部芸術学科卒。国内外の媒体に日本語と英語で執筆を行う。北陸3県を舞台にしたウェブメディア『HOKUROKU』の創刊編集長も務める。
https://hokuroku.media/
【実はこれが日本一】1923年から今も現役!最古のコンクリート電柱は函館
May 30th, 2023 | 坂本正敬
日本一高い山は「富士山」、日本一大きな湖は「琵琶湖」、日本一高いタワーは「東京スカイツリー」など、有名な日本一はいろいろありますが、あまり知られていない、ちょっと意外な日本一を紹介するシリーズ「実はこれが日本一」。今回は、電柱に関する日本一を紹介します。
【世界の変な祭り】路上に並べた赤ちゃんを飛び越える!400年以上の歴史あ
May 28th, 2023 | 坂本正敬
世界にはさまざまな祭りがあります。宗教や季節に関係するものなど、その発祥もいろいろ。有名なものから知る人ぞ知るものまで、地域らしさを感じられるイベントであり、旅行の目的ともなりますよね。そんな世界の祭りの中からユニークな祭り、まちおこしのために奇抜な企画を立ち上げられた新興の祭りではなく、100年以上の歴史がある「変な祭り」を紹介します。。今回は、スペインの『エルコラチョ』です。
500年も雨が降らない!世界で最も乾燥したチリの砂漠【旅に関する面白いギ
May 27th, 2023 | 坂本正敬
1955年に書籍から始まった「ギネス世界記録」。人間が達成した記録や、自然界で起きた「世界一」など、さまざまな世界記録を認定・登録しています。その中から、旅行に関するギネス世界記録を紹介していきます。今回は、旅の目的地にもなってくれる砂漠のギネス世界記録を紹介します。
【世界三大夕日】インドネシアのバリ・フィリピンのマニラ湾・もう1つは日本
May 26th, 2023 | 坂本正敬
世界を代表するとされるものを3つ取り上げて、「世界三大〇〇」と呼ばれるさまざまなものがありますよね。そこで、どんな事物がそういわれているのか調べてみました。あなたはどれだけ知っているでしょうか? 今回は、世界で最も美しい夕日を見られる場所はどこか、そんな世界三大夕日スポットを紹介します。
【日本の不思議スポット4】かつて顔の赤いカッパが目撃されていた!?「カッ
May 24th, 2023 | あやみ
化け物、変化(へんげ)と呼ばれている「妖怪」。日本各地には、さまざまな妖怪伝説が残っています。なかでも有名なのが水界に住むとされる「カッパ」ではないでしょうか。柳田国男の著書『遠野物語』にも登場し、いまや岩手県遠野市の公式キャラクターとしても活躍中(!?)です。今回は、かつてカッパがよく目撃されていたといわれる「カッパ淵」をクローズアップします。
【実は日本が世界一】139万円!茨城県のブランド豚の落札額がギネス世界記
May 24th, 2023 | 坂本正敬
日本にいながら、意外と知らない日本の「世界一」。いつも何気なく目にしているものから、知られざる自然の世界、そして努力や技術の賜物まで、日本には世界に誇れる「世界No.1」がたくさんあるんです。そんな「実は日本が世界一」、今回は、日本の畜産業界に関する世界一を紹介します。
【実はこれが日本一】11万KWの電力を供給!大分県が誇る温泉以外の日本一
May 23rd, 2023 | 坂本正敬
日本一高い山は「富士山」、日本一大きな湖は「琵琶湖」、日本一高いタワーは「東京スカイツリー」など、有名な日本一はいろいろありますが、あまり知られていない、ちょっと意外な日本一を紹介するシリーズ「実はこれが日本一」。今回は、「温泉県」大分県の、温泉とは別の日本一を紹介します。
絶景が望める大自然の宝庫「ベネズエラ」ってどんな国?
May 21st, 2023 | あやみ
ベネズエラと聞いて何が最初に思い浮かびますか? ギアナ高地の「エンジェル・フォール」や、世界一治安が悪いといわれる首都「カラカス」が思い浮かぶ人もいるかもしれませんね。今回はそんなベネズエラの基本情報や渡航方法のほか、おすすめの観光スポット、一度は訪れたい世界遺産、人気のスポーツをご紹介します。
三輪なのに二輪で2.2kmを疾走!「リキシャ」のユニークな世界記録【旅に
May 20th, 2023 | 坂本正敬
1955年に書籍から始まった「ギネス世界記録」。人間が達成した記録や、自然界で起きた「世界一」など、さまざまな世界記録を認定・登録しています。その中から、旅行に関するギネス世界記録を紹介していきます。今回は、インドの旅行中にお世話になる機会の多いリキシャの世界一を紹介します。
【日本三大がっかり名所】北海道「札幌市時計台」・高知「はりまや橋」もう一
May 19th, 2023 | あやみ
有名な観光スポットに行ったら、期待以下だったという経験はありますか? 昨今は、SNSなどがキレイな写真であふれていることもあり、現実とのギャップに悪い意味で驚くことも。そこで今回は、日本三大がっかり名所それぞれの特徴を紹介します。なぜがっかりするのかも解説しますので、ぜひチェックしてみてくださいね。