2018年12月、欧州のルクセンブルクに関するニュースが、世界中を驚かせました。なんと、「2020年に公共交通機関の運賃をすべて無料にする」という計画をルクセンブルク政府が発表したのです! それが実現すれば、公共交通機関をすべて無料で利用できる世界初の国となるのだとか。一体なぜ、そのような計画ができたのでしょうか。
「国民一人当たりのGDP世界一」ルクセンブルク
そもそもルクセンブルクがそういった計画を発表するに至った原因は、ルクセンブルクの特殊な地理事情にあります。ルクセンブルクは、西ヨーロッパのオランダおよびベルギーと歴史的な結びつきが強く、この3国をまとめて「ベネルクス3国」とも表現します。上の地図はその3国を共に掲載していますが、一番下の赤いマークがルクセンブルクの首都ルクセンブルク市です。そして国土は、日本の神奈川県ほどの広さしかありませんが、南部の国境線はフランスやドイツとも接しています。
ルクセンブルクには多種多様な産業が発達していて、主に重工業や金融、通信事業などが「国民一人当たりのGDP世界一」と言われるルクセンブルクの経済活動に貢献しているそう。そんな風に豊かで様々な産業があるルクセンブルクには、周辺国から国境を越えて通勤してくる外国人がたくさんいます。ルクセンブルクはシェンゲン協定参加国なので、同様に参加国である周辺国との国境には検問がありません。そして同じEU加盟国の国籍を持つ人はルクセンブルクで特別な許可なく働くことができるので、そのように気軽に「国境をまたぐ通勤」が可能なのです。
けれどこれこそが、ルクセンブルク政府のアタマを悩ませる原因でもありました。
外部からの通勤者で渋滞する首都
首都ルクセンブルク市の住人は約11万人ですが、実は、外部からルクセンブルク市に通勤している人々は40万人もいると言われています。住人の約4倍もの人が通勤に来るのですね! そのため、2017年に発表されたとある調査では、ルクセンブルク市で運転する人々が渋滞に巻き込まれて無駄にした時間は平均33時間になるのだとか。
「年間で33時間」と聞くとあまり大したことがないように思われるかもしれませんが、そもそもルクセンブルクは国土そのものが南北82km、東西57kmという非常にコンパクトな国。2時間も車を走らせればあっという間に国外に出られるのです。そんな国の33時間は、ドライバーをイライラさせるには十分なのではないでしょうか。そして前述のように「国民一人当たりのGDP世界一」なので、効率重視の働き方をしているのであろうと推測できます。そういった人々にとって交通渋滞は、無駄以外の何物でもないのでしょうね。
「公共交通機関をもっと活用してもらおう」作戦
そこでルクセンブルク政府が考えたのが、「公共交通機関をもっと活用してもらおう」という作戦。
既に2018年の夏から、「20歳以下の未成年はすべての公共交通機関無料」という子育て家族に嬉しいルールはスタートしています。そして通勤者は、「2ユーロ(2018年12月現在約257円)で公共交通機関乗り放題」という権利も。この2ユーロ通勤券は2時間以内のみ有効ですが、何しろ小国なので2時間あれば大抵の場所に移動することができます。
それだけでも十分「公共交通機関を使おう!」という気になると思いますが、それに飽き足らず、2020年初からは、すべてのチケット制が廃止されることになったのです。実は今度は、「切符を買うために並ぶ時間の無駄」「検札の手間と時間の無駄」を省くことが目的なのだとか。お金も重要ですが、やはりここでも効率を重視したようです。いずれにしても、ルクセンブルク政府は太っ腹ですね!
けれど、この政策にはまだ考えないといけない問題点も。一般的に欧州の電車は、(新幹線ではない)普通の列車にも「ファーストクラス」「セカンドクラス」といった車両の差があります。快適性が違うため、運賃にも差があるのです。けれどルクセンブルク政府が計画するようにすべて無料になるなら、その車両の差によるサービスの違いも考慮する必要があります。なかなか単純にはいきませんね。
この計画が実現すれば、ルクセンブルクは世界初の「公共交通機関すべて無料国」になるそうです。何とか難題を乗り越えて、やり遂げて欲しいですね。
ルクセンブルクについてもっと詳しく知りたい人は、『世界屈指の富裕国、知られざる小さな大国「ルクセンブルク」ってどんな国?』も合わせてどうぞ!
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