京都観光のマストスポットといえば、伏見稲荷大社。「エキゾチックジャパン」の象徴でもあり、外国人に最も人気のある日本の観光スポットでもあります。言わずと知れた伏見稲荷大社ですが、意外と稲荷山の山頂まで歩いたことがある人は少ないのでは?山全体が神域と崇められてきた、稲荷山ハイキングの模様を現地ルポします。
山全体が神域、稲荷山ハイキング
伏見稲荷大社を訪れても、本殿や千本鳥居だけを見て帰ってしまう人は意外と多いもの。しかし、稲荷山にのぼらずして、伏見稲荷の本当のパワーを体感することはできません。
千本鳥居を過ぎた奥社から、稲荷山山頂にある一ノ峰上社までの道のりはおよそ2キロメートル。稲荷山は、古くから山全体が神域とされてきた場所。ハイキングコースにはいくつものパワースポットが点在していて、「神秘の山」の雰囲気を感じることができます。
山頂まで歩いて戻ってくるまでの所要時間は約2時間。朝イチで出かければ、特別な一日のスタートが切れますよ。
朝早めのスタートが吉
本殿→奥社→熊鷹社→三ツ辻→四ツ辻→三ノ峰→二ノ峰→一ノ峰→御膳谷→四ツ辻→三ツ辻→八島ヶ池北側の参道を通って本殿へと戻るルートが一般的です。
外国人に絶大な人気を誇るだけに、伏見稲荷大社の境内はとにかく混雑するので、朝早めにスタートするのがポイント。筆者が伏見稲荷に到着した朝8時半ごろはまださほど混んではいなかったものの、ハイキングを終えて帰るころには大混雑に。観光客が列をなして千本鳥居を歩いているような状況だったので、心底「早めに来てよかった!」と思いました。
まずは本殿に参拝
伏見稲荷に到着した参拝者を出迎えてくれるのが、国の重要文化財に指定されている楼門。祇園の八坂神社を彷彿とさせる鮮やかな朱色の立派な建物で、1589年に、豊臣秀吉が、母・大政所の病気治癒を祈念して寄進したといわれています。
その先に建っているのが、五間社流造の本殿。現在見られるのは1499年に再建されたもので、室町時代と桃山時代、両方の特徴をあわせもつ繊細で華やかな装飾が施されています。
伏見稲荷にやってくるのはこれが初めてではないのですが、楼門や本殿もこれほど美しかったとは・・・千本鳥居のイメージが先行しがちですが、社殿の存在感も格別です。
伏見稲荷の象徴、千本鳥居
本殿の向こうには、伏見稲荷を象徴する千本鳥居が。写真などで何度も繰り返し見ている風景ですが、やはりその場に立つと、その神秘的な雰囲気に魅せられます。
なぜこれほど多くの鳥居が立っているのか、気になりませんか?伏見稲荷大社には、江戸時代から願いごとが「通る」という祈願、あるいは「通った」という感謝をこめて鳥居を奉納する信仰があるのだそうです。鳥居一基の寿命は意外に短く、約20年だとか。
奥社で「おもかる石」に挑戦
千本鳥居を抜けると、「奥の院」とも呼ばれる奥社奉拝所があります。ここは、神域である稲荷山全体を拝むための場所。
奥社名物ともいえるのが、「おもかる石」。最初に願いごとをして、石を持ち上げたときに予想していたよりも石が軽ければ、願いが叶うというもの。もちろん筆者もトライしてみました。その感想は・・・「思ったより軽い」。果たして、願いは本当に叶うのでしょうか。
京都市街を見渡せる四ツ辻
奥社まで達したところで満足して帰ってしまう人も多いのですが、稲荷山のハイキングは、まさにここからがスタート。奥社を過ぎると、階段が険しくなり、未舗装の道も増え、「山道」といった雰囲気が強くなってきます。
四つ辻は、これから頂上を目指す人と、すでに登頂してきた人が行き交う立ち寄りポイント。京都市街が見渡せ、茶屋もあるので、ここで休憩する人もたくさんいます。稲荷山をハイキングする人は外国人率が高いようで、特に欧米人の姿が目立ちました。
三ノ峰下社
四ツ辻を過ぎれば、三ノ峰下社はもうすぐ。3つの峰の連なりであることから、稲荷山の山頂付近には、一から三の峰と名のつく社があります。そのうち最も頂上から離れた三ノ峰下社は、「白菊大神」とも呼ばれる社で、芸事に励む人々の信仰を集めています。
このあたりまで来ると、観光客の姿も減り、あたりの空気が変わってくるのを感じます。この周辺にもたくさんの朱色の鳥居があり、千本鳥居にも似た光景が広がっています。千本鳥居は朝から混雑しているので、写真狙いなら人の少ない頂上周辺がいいかもしれません。
二ノ峰中社
三ノ峰下社の奥にあるのが、「青木大神」と崇められる二ノ峰中社。台座の岩には、富士山の溶岩が使われているといいます。大小の鳥居と100以上あるというお塚・・・とても静かな風景ですが、不思議な凄みがあります。
一ノ峰上社
二ノ峰中社からさらにたくさんの鳥居をくぐったら、そこは標高233メートルの稲荷山山頂。ここに建っているのが、「何事も末に広がる」という意味の「末広大神」と称えられる一ノ峰上社。さすがは頂上に建っているだけあって、鳥居もひときわ立派で貫禄があります。
台座の上に無数の鳥居が積み重なった光景が神秘的で、ゾクッと鳥肌が立つような感覚を覚えました。聖なる山の頂上だけに、特別な空気が流れているのでしょうか。まだ人の少ない朝の時間帯だからこそ、下界とは違う雰囲気を肌で感じられたのだと思います。
おびただしい数のお塚
頂上にたどり着いたら、行きとまったく同ルートではなく、御膳谷を経由して、四ツ辻からぐるりと円を描くようにして戻ります。
今回の稲荷山ハイキングでとても印象的だったのが、山中にたたずむおびただしい数のお塚。遠目には一見お墓のようにも見えますが、これらは個人の家で祀っている「〇〇稲荷大神」を石に刻んで、稲荷山に祀るというお塚信仰からきたもの。現在、稲荷山に祀られているお塚は実に一万にのぼるといいます。
山道にひっそりと存在するお塚は、その周囲に結界が張られているかのような侵しがたい雰囲気。京都の超メジャー観光スポットである伏見稲荷に、これほどまでに俗界から切り離されたようなアンタッチャブルな場所があるということに本当に驚きました。
筆者が伏見稲荷大社を訪れたのは、これで3度目。3度目にして稲荷山ハイキングにトライして初めて「伏見稲荷とはなんたるか」の片鱗が見えたように感じます。
日本人だからこそ、日本国内のメジャーな観光スポットは、一部を見ただけで知ったような気になってしまいやすいのかもしれません。
ハイキングをする、しないでは、伏見稲荷の印象は大きく変わってくるもの。「稲荷山にのぼらずに、伏見稲荷を語ることなかれ」ですね。
[All photos by Haruna]
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