「よさこい祭り」は高知から日本中に広まった
皆さんのまちに「よさこい」はありますか? 引っ越してくるまでは知らなかったのですが、筆者の暮らす富山にもあって「この祭りは何だろう?」とずっと思っていました。
「よさこい」という響きは土佐の民謡『よさこい節』を思わせます。土佐(高知)の民謡を越中(富山)の人が祭りにしているなんて、なんでだろうと漠然と思っていましたが、今回の連載を書くために調べてみるとその真相がわかりました。
「よさこい祭り」のオリジナルは高知県で生まれているのですが、その祭りが北海道に持ち込まれ、北海道での成功を受け、全国各地に飛び火した歴史があるのですね。
愛媛の阿波おどりに負けない祭りづくり
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「よさこい祭り」が高知で生まれた時期は1950年代です。1945(昭和20)年に空襲があり、翌年に昭和南海地震が起きて、戦後の不況も重なり、高知の人たちは大変苦労していました。
そこで、商店街に顧客を呼び込む・人が集まってくる何かを仕掛けようとの機運が高まり、地元の商工会議所観光部会の人と、戦時中に高知に疎開して定住した作曲家が主導し、各流派の舞踊の先生たちが協力して、愛媛の阿波おどりに負けない地元の祭りづくりが動き出します。
祭りが生まれる過程では、古くからの民謡『よさこい節』を取り入れた『よさこい鳴子踊り』が作曲されます。さらに、400年の歴史を持つお隣愛媛の阿波おどりに対抗するために、派手でにぎやかな祭りづくりの工夫で鳴子(なるこ)を使う踊りが考案されました。
一方で、厳しいルールや縛りは設けずに、みんなが参加できる、音楽も好きに変えられる自由さが誕生当初から尊重されました。アレンジや編曲、踊りの創意工夫はなんでも認められ、時の経過のなかで自然に残ったスタイルを伝統にしていけばいいと初期から考えられてきたようです。
「よさこい祭り」が高知でスタートして間もなく、ペギー葉山さんの歌う『南国土佐を後にして』が全国的に大ヒットして高地に注目が集まります。よさこい祭りにも全国的な関心が自然に向かうようになりました。
1960年代には市民の祭りが県民の祭りとなり、1970年代には県民の祭りが「日本の祭り10選」に入るくらい大きくなります。知名度が年々増すなかで1980年代には参加者が1万人を超えました。
1989年(平成元年)7月には『朝まで討論 どうする?よさこい祭』というテレビ番組が地元局で生放送されています。
「よさこい祭り」の生みの親や舞踊の専門家など各分野の専門家が集まったパネルディスカッションでは、派手な方向へ行き過ぎた「よさこい」への批判的な意見も聞かれました。例えば、騒音問題があったり「よさこい」と称してサンバの踊りでまちを練り歩くスタイルが生まれたりして「よさこいとは何?」という意見がいよいよ無視できない状態に表面化してきたみたいですね。
印象に残ったパネリストの発言の中に「よさこい」を「土佐のカーニバル」と形容した表現がありました。各地に広がった「よさこい」を見ても、まさにカーニバルといった印象を受けます。
鳴子を使い、土地の民謡を取り入れ、あとは自由に
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年々派手になっていく高知の「よさこい祭り」を批判的に見る地元の人が目立つようになってきた一方で、その盛り上がりを目の当たりにして感動を抑えきれなくなった一人の若者がいました。1991年(平成3年)に母親の入院先の高知で「よさこい」を見た北海道在住の大学生です。
同世代の若者が生き生きと踊っている姿を見たその若者は、北海道にも広めたいと、ソーラン節を取り込んだ「よさこいソーラン祭り」を1992年(平成4年)に北海道でスタートさせます。
「YOSAKOIソーラン祭り」と翌年から改名した北海道版の「よさこい」はその後、急成長を遂げます。その盛り上がりを見た全国の人たちが次々とまねをするようになり「よさこい」が各地で開かれるようになったのですね。
<毎年 6月上旬に北海道札幌市の大通公園を中心とした 25ヵ所を会場に行なわれる市民参加の祭り。高知よさこい祭りのよさこい踊りの囃子に使われる鳴子と北海道の民謡『ソーラン節』を組み合わせて踊ることからその名がある>(『ブリタニカ国際大百科事典』より引用)
「よさこい」の「母国」である高知ですら「よさこい祭り」は大きく変化を遂げています。地域が変われば、その変化もさらに激しくなるはずで、全国の「よさこい」の個性はそれぞれ異なる方向へ向かいました。
しかし、もちろん共通点はあるようです。学士論文で「よさこい」を取り上げた人の記述がインターネット上に公開されています。その内容を参考にすると、
- 鳴子を使う
- 土地の民謡を取り入れる
この2点は、各地の「よさこい」で共通するようです。そもそも、高知で最初に取り入れられた鳴子(なるこ)とは何なのでしょう。辞書を調べると、
<田畑を荒らす鳥をおどし追うのに用いる道具>(岩波書店『広辞苑』より引用)
とあります。要するに、農作業で使われた道具だったのですね。愛媛の阿波おどりには素手では勝てない、だからこそ手に鳴子を持って、派手に・騒がしく踊ろうと発想されたようです。
さらに、高知の『よさこい鳴子踊り』が古くからの民謡『よさこい節』を基につくられたように、各地の「よさこい」にも土地の民謡を取り入れた音楽が使われています。併せて、日本で農作業に使われた道具を手に持ち、民謡の一節を取り込んだ歌をベースに踊るので、なんとなく見た目の衣装も「日本的」な雰囲気に統一はされていきます。
とはいえ、先ほども書いたように「よさこい祭り」を高知で生み出した人たちは最初から祭りの自由を重んじていました。
各地に広まった「よさこい祭り」でも型にはまらない自由さが尊重されています。鳴子・土地の民謡に加えて自由奔放な気風も、全国の「よさこい祭り」の共通点なのかもしれませんね。
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新型コロナウイルス感染症の影響でここ数年、全国の「よさこい祭り」は中止に追い込まれています。今年もどのような判断になるか読めませんが、待ち遠しい人も少なくないのではないでしょうか。
400年続く阿波おどりと比べるとまだまだ若いお祭りで歴史の発展途上にあります。そんな若々しい祭りなのですから、踊り手の自由奔放さを小難しく考えずに楽しめばいいのかもしれませんね。
[参考]
※ 『日本人名大辞典+Plus』(講談社)
※ 「よさこい系および YOSAKOIソーラン系の祭りや踊り」の研究動向に関する一考察―CiNii掲載論文を中心に―
※ 現代の祭りにおけるYOSAKOIの流行―富山の事例からの考察―
※ 高知のよさこい祭り – よさこい祭り公式Web Site