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完走に費やした時間がギネス世界記録に
初参加の日本選手団。プラカードを持っているのは金栗四三、日本の国旗を持っているのは三島弥彦。ストックホルムオリンピックの開会式にて(Wikipedia より)
マラソンがブームといわれて久しいです。フルマラソンの大会は全国各地で開かれていますので、好記録や自己ベストが出ずに悔しい思いをしたり、制限時間以内に42.195kmを走り切れずに落胆したりといった経験が、読者の皆さんにもひょっとするとあるのではないでしょうか。
しかし、必要以上に落ち込まなくてもいいかもしれません。国を代表するマラソン選手であっても、完走にかなりの時間を費やすケースがあるからです。
しかも、世界で最も完走に時間がかかった選手は実は日本人で、ギネス世界記録にその完走タイムが掲載されています 。何も、速さだけが記録や記憶に残るわけでもないのですね。
その日本人選手は、どのくらい時間がかかったと思いますか? 10時間でしょうか。20時間でしょうか。
なんと、完走に費やした時間は54年です。正確には、54年と249日5時間32分20秒3 です。1912年(明治45年)に走り始めて1967年(昭和42年)にゴールし、ギネス世界記録に認定された のですね。
途中棄権したレースの完走が実現
Opening ceremony at the 5th Olympic Games held in Stockholm(Wikipedia より)
日本人選手の名前は金栗四三(かなくり しそう)さん です。日本人として初めて、オリンピックに参加した陸上界の偉人です。
初参加のストックホルム・オリンピックに先駆けた1911年(明治44年)の国内選考会では、2時間32分30秒と当時の世界記録をマークして1位になった実力者であり、後の「箱根駅伝」の生みの親として記憶される「日本マラソンの父」 でもあります。
しかし、それだけの選手でも常に好記録が出るとは限らないようです。オリンピック本番では26.7kmの地点で(32kmとの情報も)日射病で意識を失い、レースを棄権せざるを得ませんでした。
目覚めたころにはレースが終わっていたので、ギネス世界記録の公式サイトによれば、
<Kanakuri returned home without telling anyone.>(ギネス世界記録の公式サイトより引用)
とあるように「誰にも告げずに帰国した」ようです。現地では、参加選手が途中で消えたとして話題にもなったのだとか。
金栗選手は帰国後も、ほかの五輪に参加したり(ストックホルムを含めて合計3回)、上述した「箱根駅伝」を仲間と立ち上げたりと、日本陸上界の発展に対して前人未到の実績を次々と重ねていきます。
Shiso Kanaguri arriving at Kobe port after 1924 Olympics(Wikipedia より)
その金栗さんが75歳になった1967年の話です。スウェーデン五輪委員会が金栗さんの健在を知ると、記念行事への招待を持ち掛け、途中棄権したレースの完走を実現させようとします。
家族とストックホルムを訪れた金栗さんが、スタジアムでゴールのテープを切ると、
<日本の金栗、ただいまゴールイン。タイム、54年と8月6日5時間32分20秒3、これをもって第5回ストックホルムオリンピック大会の全日程を終了する> (時事通信の記事より引用)
とのアナウンスが会場に流れたのだとか。すてきなエピソードですよね。
日本人の力を世界に示そうと生きた一流のアスリートと、その功績を粋な演出で讃えたスウェーデンの関係者たち。世界一の記録の裏側にある歴史や偉業、国境を越えた交流、スポーツの力にあらためて注目してみたいですね。
[参考]
※ Longest time to complete a marathon – Guinness World Records ※ 近代オリンピックとその時代 – 時事通信 ※ マラソンの今 ビジュアル解説 – 日本経済新聞 ※ 夢と感動と愛を与えた日本陸上界の偉人5人 – SPAIA ※ 金栗四三 マラソンにすべてをそそいだ「不動の大岩」【オリンピック・パラリンピック アスリート物語】 – 笹川スポーツ財団
Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(
https://hokuroku.media/ )創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。
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