カラフルで多様性あふれる、意外なアートの街
「ヒューストン」と聞いて想像するのは、工業地帯、石油、宇宙開発……そんな少し無骨なイメージかもしれません。でも実際のダウンタウンやアート地区を歩いてみると、その印象はがらりと変わります。建物の壁には大きくて鮮やかなペイントが施され、街そのものがギャラリーのよう。
こうしたウォールアートは、単なる“映え”のためではありません。多くの作品には、社会問題や人種の多様性、環境保護などのテーマが込められています。実はこれらの壁画は、ジェンダー平等、質の高い教育、気候変動対策、安全な水と衛生など、国連総会で採択された17の持続可能な開発目標(SDGs)を反映しています。
他にも市民の声や願いが込められたメッセージ性の強い作品も多く、まるで街と対話しているような感覚に。危ない地区を避けて、実際に歩いてまわれるウォールアートを位置情報付きでご紹介します! なかには「HOUSTON IS INSPIRED」というメッセージが描かれた作品もあり、まさにその言葉通り、歩くだけでインスピレーションが湧くような街なのです。
【位置情報付き】観光マップに載らないけれども、見逃せない名所たち
「HOUSTON IS INSPIRED」by Gonzo247
カラフルな“Houston”の文字とともに、星や建物、抽象模様が組み合わさった象徴的な壁画です。この作品は、ヒューストン市観光局のキャンペーンの一環として制作され、街のポジティブなエネルギーと多様性を象徴するアートとして知られています。まさに“街の顔”ともいえる存在。
これを手がけたGonzo247は、ヒューストンで最も有名なグラフィティ/ストリートアーティスト。メキシコ系アメリカ人として、ヒューストンの多文化社会の中で育った彼の作品は、カラフルでエネルギッシュ、かつ地域愛にあふれたスタイルが特徴です。実際に行ってみると、そこは駐車場! 筆者は朝早く訪れたため車も少なく、安全に撮影できました。ダウンタウンの中心地にあり、現地の人にも「日中は問題ないよ」と言われたので明るい時間に行くのがおすすめ
所在地 420 Travis St, Houston, TX 77002 アメリカ合衆国
「Sharing the World」 by Ana Marietta
この作品は、ヒューストンを拠点とするアーティスト、アナ・マリエッタ (Ana Marietta) によるものです。プエルトリコ出身のアナ・マリエッタは、動物科学を学んだ経験を持ち、人間のような特徴を持つ動物を描くことで知られています。
ヒューストンの多様性と、多文化的な背景を持つ人々が協力してより強いコミュニティを築くことへの賛歌として制作されました。彼女の作品は、ロンドン、マイアミ、ラスベガスなど世界中の都市でも見ることができます。
真横にも大きな壁画が!Keep Your Eye On The Road Art Mural by @mrd1987
女性の顔を中心に、色彩豊かな花や鳥、そして道が描かれたこの大規模な壁画は見る者を惹きつけます。
「Keep your eye on the road」は、国連の持続可能な開発目標3と11、および国連の道路安全のための行動の10年に触発され、道路をより安全にするための壁画です。毎年、世界中の道路で135万人が死亡しており、これは米国で55歳未満の人々の主要な死因です。道路安全のための行動の10年は、2030年までに道路交通の死傷者の少なくとも50%を防ぐことを目指しています。
とのこと。Sharing the Worldの真横にあるので、一緒に鑑賞可能です。こちらも駐車場に面しているので、制作意図に従い車に気をつけて撮影しましょう。
所在地 208 Milam St, Houston, TX 77002 アメリカ合衆国
「Education for All Mural」 by @belin.es
複数の目が描かれた抽象的な人物の顔が特徴的なこの壁画は、キュービズムを思わせるスタイルで描かれています。右側には「Education for all」という文字が読み取れます。
「すべての人のための質の高い教育」は、ヒューストンと世界中の誰もが質の高い教育を受けられるようにするための誓約です。
という制作意図があるそう。この壁画から教育の重要性を訴えるメッセージを感じてみては?
所在地 845 Franklin St, Houston, TX 77002 アメリカ合衆国
「The Meeting」 by @aec_interesnikazki
「The Meeting」は、ウクライナ戦争と平和の促進(国連持続可能な開発目標16)をテーマにした壁画です。戦争はウクライナにとって大惨事であり、地球にとって危機です。2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以来、世界はより不安定で不安に満ちています。ヒューストンはウクライナへの支持を明確に表明し、自由で開かれた対話が再開されるまで、チュメニとの姉妹都市関係およびモスクワとの長年にわたるパートナーシップを停止することを決定しました。
こちらは電気自動車を充電する駐車場から見ることができます。ヒューストンのダウンタウンを走る路面電車が走る大通りに面しています。
所在地 #208, Houston, TX 77002 アメリカ合衆国
3つのメッセージを一気に見られる!
「King of the Road」 by CASE Maclaim
まずは自転車に乗っている少年の絵から説明します。
「King of the Road」は、社会の公平性、限界を打ち破ること、そしてすべての人々が新たな機会にアクセスできることを力強く讃える作品です。この壮大な壁画は、テキサス州ヒューストン出身のアフリカ系アメリカ人の少年、ヒューストンが、真新しい自転車を楽しんでいる様子を描いています。自転車は彼にとって自由を楽しむ新しい方法であり、いつもの境界線を越えて新しい場所へ旅する力を与えてくれます。ハンドルバーには、ヒューストンのハンドサイン「H」が描かれています。これは、ハンドサインの壁画で有名なアーティスト、ヒューストンからのウインクです。
とのこと。この壁画は、ドイツのアーティストであるCASE Maclaim (Andreas von Chrzanowski) が手がけています。彼はフォトリアリスティックなスタイルで人物を描くことで知られています。
「Empowered」by @adrydelrocio
続いては、黄色に羽をつけた女性が羽ばたくような絵です。
「Empowered」は、経済的エンパワーメント(国連の持続可能な開発目標5)を通じて女性の権利を推進することをテーマにした壁画です。ヒューストン市における女性の平等と公平性の推進を目指すヒューストン女性委員会の活動を強調し、特に経済的平等に焦点を当てています。女性の収入は男性の1ドルに対し80セントしかなく、ハリス郡の貧困率は女性の方が男性よりも50%高く、失業率に占める割合は女性に不釣り合いなほど高くなっています。
とてもメッセージ性の高い壁画でした。
「La Shamana」 by @lulagoce
女性の顔が大きく描かれた絵画です。説明によると
「La Shamana」は、イノベーションの拠点としてのヒューストンを称える壁画です。宇宙での功績はもちろんのこと、ヒューストンはヘルスケア分野におけるイノベーションでも知られており、最近ではマリア・エレナ・ボッタッツィ博士の素晴らしい功績でも知られています。彼女は特許取得済みの「世界のCOVID-19ワクチン」を開発したダイナミックな二人組の一員であり、2022年のノーベル平和賞にノミネートされました。この壁画は、ボッタッツィ博士の素晴らしい功績と、科学界のあらゆる女性に捧げられています!
と3つのメッセージが込められたウォールアートを一気に見ることができるのも駐車場! ここからだと1枚の写真に収めることができます。
所在地 412 Fannin St, Houston, TX 77002 アメリカ合衆国
「Books & Freedom」by D*Face
ヒューストンのウォールアートの中でも珍しいポップアート調の作品を前にすると自然と足が止まります。この作品は、イギリスの有名なストリートアーティストであるD*Face (Dean Stockton) によるものです。彼の作品は、消費主義やポップカルチャーを風刺するテーマが特徴で、世界中で人気を集めています。この壁画も、彼の特徴的なスタイルと、現代社会への問いかけが込められています。
「Books & Freedom」は、意見の多様性、寛容、そして言論の自由(持続可能な開発目標4と16)を支える上で本が果たす重要な役割について描いた作品です。本は文化や時代を超えて、常に必要不可欠な存在でした。知識を保存し共有する手段であり、私たちを取り巻く世界の多様性とつながるための扉となるのです。ますます二極化が進む世界において、本は開かれた対話と会話を維持するために不可欠な存在です。
所在地 〒77002 Texas, Houston アメリカ合衆国
「Houston Love」 & 「Hey Y’all」 by PANDR Design Co.
「HOUSTON Love」と書かれた黄色の壁画、そして「HEY y’all」と書かれたカラフルな壁画は、ヒューストンへの愛情と南部特有の挨拶を表しています。
これらの壁画は、サンディエゴを拠点とするデザインスタジオ、PANDR Design Co. によるものです。彼らは「Love」や「Y’all」といったポジティブなメッセージを大胆なタイポグラフィと鮮やかな色彩で表現し、街に活気を与えています。これらの作品は、地域のアイデンティティとコミュニティの温かさを表現しており、訪れる人々に親しみやすい印象を与えています。
所在地 1301 McKinney St, Houston, TX 77010 アメリカ合衆国
「Loving Houston」by @_emilyding
ここは、フォーシーズンズホテルの壁面に描かれており、インパクト抜群!
「Loving Houston」は、ヒューストンならではのアウトドアライフ、豊かな緑、バッファロー・バイユー、そして何百万人ものヒューストン市民が気軽にアクセスできる数多くの公園への賛辞です。
とあり、近くにはDiscovery Greenという広大な公園もあるので、それを象徴して讃えているのかもしれません!
所在地 1300 Lamar St, Houston, TX 77010 アメリカ合衆国
女性が印象的な作品 Megan Lewisの作品
歩いていると目に入った力強い作品。オレンジ色の壁に描かれた3人の女性の顔が特徴的なこの壁画は、それぞれに「Dream Big」「Greater Progress」「Greater Service」というメッセージが添えられています。力強く、ポジティブなメッセージが伝わってくる作品です。
この作品は、メリーランド州を拠点とするアーティスト、Megan Lewis によるものです。彼女の作品は、アフリカ系アメリカ人女性のエンパワーメントや、社会的なメッセージを伝えることが多いアーティストだそうです。
この壁画も、夢を大きく持ち、より大きな進歩と奉仕を目指すという、ポジティブなメッセージを表現している気がして、見ている筆者にもパワーを感じられる作品でした。こちらも駐車場から見ることができます。
所在地 1250 Austin St, Houston, TX 77002 アメリカ合衆国
「What I Do」by Gonzo247
少し移動してダウンタウンの外へ。今までご紹介したところよりは治安があまりよくないそうなので、まとめて見られる1箇所を紹介します。
まずは、ヒューストンを代表するグラフィティアーティスト Gonzo247が手がけた「What I Do」。この壁画では、両手がハートを象るように形作られ、その中央には「WHAT I DO(私がすること)」という言葉が描かれていました。
ハートの中の言葉は、アーティスト自身の信念であり、彼がストリートアートを通して地域や世界に対して発信するメッセージとも言えます。手の上部には、地元愛と都市文化へのリスペクトを感じさせる、色鮮やかなヒューストンのスカイライン(都市の建築物群)。特に高層ビルやアーチ状の橋のモチーフは、ヒューストンらしさを象徴しています。
さらにここにはGonzo247が手がけた他の「Houston」の壁画も! その横には「sky’s the limit」と翼の形をした壁画もあり、壁画と一緒に写真を撮るといい記念になります。「sky’s the limit」の意味は「可能性は無限大」。不思議と背中を押してもらえる気がしました。
そしてアーティスト・Gonzo247は、「アートは街の呼吸。住民の想いを伝える手段」と語っているからこそ、今までの作品を見ていくとヒューストンが伝えたいメッセージを感じ、元気がもらえる時間でした。
所在地 1503 Chartres St, Houston, TX 77003 アメリカ合衆国
おすすめの撮影時間
写真を撮るなら午前中〜昼前の光がベスト。建物の影が作品にかからず、色彩が一番きれいに映えます。また、日陰になる午後の時間帯は、逆に陰影のある写真が撮れるので、好みによって時間帯を選んでも楽しいです。また何よりも気になるのは安全。明るい時間に訪れるようにしましょう。
トランジットでも、旅の記憶に残るアート体験を
ヒューストンは、ただの乗り継ぎ地点なんかではありません。アートが日常に息づく街で、通りを歩くだけで新しい発見に出会えます。筆者はおよそ6時間のトランジットでこれらを巡ることができました。宇宙センターもいいけれど、せっかく時間があるなら、空港からちょっと足を延ばして、ウォールアート巡りをしてみてはいかがでしょうか?