
約200年の歴史を刻む「Manuc’s Inn(ハヌル・ルイ・マヌク)」とは?

スターバックスの話をする前に、まずはその舞台となる「Manuc’s Inn(ハヌル・ルイ・マヌク)」について紹介します。ここは1808年にアルメニア人の商人、エマニュエル・マールザヤン(通称マヌク・ベイ)によって建てられた宿泊兼商業施設です。
当時のブカレストで重要な商業と社交の中心地でした。バルカン半島やその先の地域から訪れる商人や旅人たちが、ここで荷を解き、情報を交換し、束の間の休息を取りました。
建物は、オスマン帝国時代の建築様式を色濃く残しており、木造の回廊が2層にわたって美しい中庭をぐるりと囲んでいます。堅牢な石造りの壁は、数々の歴史的な出来事を見つめてきました。
現在では、その貴重な建築が大切に保存され、内部にはルーマニア料理のレストランやカフェ、ショップが軒を連ね、地元の人々や観光客で賑わう人気スポットとなっています。
歴史的建造物の2階へ。スターバックスから眺める特等席の景色

スターバックスは、Manuc’s Inn(ハヌル・ルイ・マヌク)の中にありますが、入り口は大通りに面しています。歴史的な建物の趣を損なわないよう、店内も落ち着いた色調。半地下、1階、中2階と分かれている店内を見て、「かつてもこんな設計だったのだろうか?」とつい思いを馳せてしまいます。


おすすめは上のフロアに上がってみることです。ここから窓の外に目をやると、まるで一枚の絵画のように「Manuc’s Inn(ハヌル・ルイ・マヌク)」の中庭を一望できます。1階のレストランで食事を楽しむ人々、回廊を行き交う観光客、そして歴史が染み込んだ建物のディテール。これらの光景を、温かいコーヒーの香りと共に静かに眺めることができるのです。
通常、中庭をこの角度から見下ろすにはレストランなどを利用する必要がありますが、スターバックスなら気軽に立ち寄り、この特別な景色を独り占めできます。歴史的な空間に身を置きながら、現代的なカフェでくつろぐという、まさに過去と現代が交差するユニークな体験。これこそが、この店舗を訪れる最大の理由と言えるでしょう。
旅の思い出に。ルーマニア限定「You Are Here Collection」マグカップ

スターバックスを訪れたなら見逃せないのが、その土地ならではの限定グッズです。ルーマニアでも、各地の魅力を詰め込んだ「You Are Here Collection」のマグカップが販売されており、旅の記念やお土産に最適です。今回見かけたコレクションの中から、いくつかご紹介します。
ブカレスト (Bucharest)

首都ブカレストのマグカップは、涼しげな青を基調としたデザイン。描かれているのは、ルーマニア音楽の殿堂である「アテネ音楽堂(Ateneul Român)」や、巨大な「国民の館(Palatul Parlamentului)」、そして凱旋門(Arcul de Triumf)など、街を象徴するランドマークです。ブカレストが持つ知的で壮大な雰囲気が伝わってきます。
99ルーマニア・レウ
クルジュ=ナポカ (Cluj-Napoca)

トランシルヴァニア地方の中心都市であるクルジュ=ナポカ。マグカップは緑とオレンジを基調に、丘の上に広がる街並みが描かれています。これは、聖ミカエル教会を中心とした旧市街の風景をモチーフにしており、街の活気と芸術的な雰囲気を表現しています。
ブラショフ (Brașov)

こちらもトランシルヴァニア地方の美しい古都ブラショフ。オレンジや黄色といった暖色系のカラーリングで、まるでおとぎ話の世界のような旧市街広場や、街のシンボルである「黒の教会(Biserica Neagră)」の尖塔が描かれています。中世の面影が色濃く残る、温かみのある街の魅力が詰まっています。
コンスタンツァ (Constanța)

黒海に面した港町コンスタンツァのマグカップは、海を思わせる深い青が印象的。アールヌーヴォー様式の傑作でありながら、今は廃墟となっている「カジノ(Cazinoul din Constanța)」が優雅に描かれ、古代ローマ時代からの歴史を持つ港町の、どこかノスタルジックな雰囲気を醸し出しています。
ルーマニア (Romania)

国全体のデザインは、ルーマニア国旗のトリコロールカラーが鮮やか。国民の館や、伝統的な木造教会に見られる幾何学模様、そして豊かな自然を象徴する山々や川が描かれています。この国が持つ多様な魅力を一枚の絵に凝縮した、お土産にぴったりのデザインです。
個人的にルーマニアのトリコロールカラーはどこか可愛く、この写真を見ているだけで旅の思い出がより一層深まります。

フードでルーマニア伝統のお菓子を!

ルーマニアではドーナツのような形をした古くから親しまれている「Gogoașă(ゴゴアシャ)」という揚げ菓子があります。これはルーマニアの伝統的なお菓子で、家庭やパン屋さん、カフェなどで広く食べられている、まさに国民的なスイーツなのですが、なんとスターバックスの店舗でも食べることができます。
筆者が訪問した際に販売されていたのは、
- Gogoașă cu cremă cu aromă de vanilie(バニラ風味クリーム入りゴゴアシャ)
- Gogoașă cu cremă cu alune de pădure și cacao(ヘーゼルナッツとカカオのクリーム入りゴゴアシャ)
というラインナップ。Gogoașă(ゴゴアシャ)の特徴は、ふわふわとした食感の生地で、中にジャムやチョコレート、カスタードクリームなどが入っていたり、粉砂糖がまぶしてあったりします。コーヒーブレイクがてらGogoașă(ゴゴアシャ)を試すことのできるチャンスです。

さらにドリンクメニューも、暑い季節に飲みたいエスプレッソトニックなど種類も豊富です。

ブカレストには、ショッピングエリアに面した近代的なスターバックスも数多く存在します。しかし、「Manuc’s Inn(ハヌル・ルイ・マヌク)」の店が提供してくれるのは、単なるコーヒーブレイクではありません。それは、ブカレストが歩んできた200年以上の歴史に触れ、その空気を感じながら過ごす「時間」そのものです。
歴史が息づく空間で、世界中で愛されるコーヒーを味わう。このギャップこそが、最高の贅沢と言えるのではないでしょうか。きっと、ルーマニアの旅がもっと好きになるはずです。
©︎Keiko Morota
※店舗や時期により商品の仕様や品揃え、価格が変わる可能性がありますので、ご注意ください。
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