「禅語」とは禅のことば、禅宗の文献に記述された辞のこと。禅とは何かを知り、その教えを理解し、行うことは到底たやすいことではありません。ですが、禅は私たちが生きていくうえで大切なヒントを与えてくれます。
禅の教えや悟りの境地が短い語句に凝縮された「禅語」。シンプルで幸せな毎日を送るために心の片隅に留めておきたい禅のことばを集めてみました。
且緩々(しゃかんかん)
昔々、少しでも早く悟りたくて、お師匠様に矢継ぎ早に質問をするお坊さんがいたそうです。お師匠様はまずは一言、「且緩々」と弟子をたしなめたのだとか。
「落ち着きなさい。慌てず、焦らず、ゆっくりと」こんな意味が込められています。
私たちも日々、少しでも早く良い結果をだそう、物事を早く片付けてしまおうと、焦る必要もないのについ気持ちが先走って空回りしてしまうことがありますよね。慌てふためく自分に気がついたら「且緩々」と心の中で呟いてみてください。
閑坐聴松風(かんざして しょうふうをきく)
心静かに坐っていると、聴こえてくるのは松が風に揺れる音ばかり。ですが、日々何かと心が忙しい私たちはそんな音に気がつくことも滅多にありませんよね。
また茶の湯では、釜の湯が煮えたつ時の音を「松風」と呼び、今、この一瞬を大切にするという、禅の教えが込められています。「忙しい」とは「心を亡くす」と書きますが、日々急ぎすぎ、忙しすぎて、たくさんの大切なことを見落としてはいないでしょうか?
時時勤払拭(じじにつとめてふっしきせよ)
心を曇らせる塵や埃、悩みや欲望。塵も積もれば山となります。心の中も身の回りも、小さな汚れは一瞬で簡単に落とすことができますが、後回しにしておくとどんどん溜まって汚れてゆく一方。毎日こまめに払ったり、拭いたりして、常に美しくありたいですね。
脚下照顧(きゃっかしょうこ)
お寺の玄関などで時折目にする「脚下照顧」という言葉。ただ単に「足元をよく見なさい(気をつけなさい)」という意味だけではなく、「自分自身(脚下)をよく振り返って反省(照顧)しなさい」という意味もあります。自分の履物をそろえてから、他人の履物の乱れも直す。まずは自分自身を見つめ直すことを心がけたいですね。
柔軟心(にゅうなんしん)
「柔軟心」とは文字通り、柔らかい心のこと。
固定観念にとらわれない自由な心を持つことができれば、広い視点で物事を見ることができ、今まで見落としていたことに気づくこともできます。自分の考えが正しいと思い込んだり、他人に自分の価値観を押し付けたり、そして他人の意見に流されることもなく・・・。ただ「こんな考え方もあるんだ」と思えるしなやかな心、素直で広い心は、自分も他人も心地よく生きるための秘訣なのかもしれません。
日日是好日(にちにちこれこうにち)
「毎日がすばらしい1日」という意味の禅語。雨が降ったり、「嫌なこと」や「悲しいこと」があっても、それをどう受け止めるのかは私たちの心次第。毎日を「好日」と感じるのは私たちの自身なのです。
明珠在掌(みょうじゅたなごころにあり)
「大切な宝物(明珠)は自分の手の中にある」という意味のことば。本当に大切なもの、私たちが探している幸せはすべて身近に、私たちの手の中にあるのです。宝物を握り締めていながら、それに気がつかずに、あちらこちらを探し回ってはいませんか?
随所作主 立処皆真(ずいしょにしゅとなれば りっしょみなしんなり)
どんな場所でもどんな状況でも流されることなく、一生懸命になすべきことをなす。そうすれば自ずと真実、あるとあらゆるもののあるべき姿がそこに見えてきます。人生が順調である時も逆境にある時も、周りの人や環境のせいにせず、自分自身の務めをきちんと果たすことが大切だと教えてくれる言葉です。
也太奇(やたいき)
「またはなはだ奇なり」とも読む「也太奇」。
洞山良价という僧侶が、悟りの境地を表した詩の冒頭に「也太奇、也太奇」と記したことに由来すします。「大変奇妙だ、不思議だ」という意味で、何かに驚いたり感動したりする時に思わず口をついてでてくる「わあっ!」や「おお!」という感嘆の声のことです。
感動は人生を豊かで喜びに溢れたものにしてくれます。私たちの平凡な日常にも、感動できることはたくさんあるはず。何かを見て感動する・しないはその人の心次第なのです。小さなことにも感動できる心を持ちたいですね。
知足(ちそく)
「足るを知る」
幸せへの近道はまさにこの一言に尽きるのだと思います。きりがない人間の欲望。せっかくひとつ幸せを手に入れても「あの人はもっといい暮らしをしている」「これがあればもっと幸せになれるのに」と足りないものばかりを探していませんか? 足りないと感じているものは本当に足りないものでしょうか? 「もうじゅうぶん足りている」そう感じられた瞬間、私たちは幸せになれるのです。
「行亦禅 坐亦禅 語黙動静 体安然(ゆくもまたぜん すわるもまたぜん ごもくどうじょうに たいはあんねんたり)」という言葉があるように、毎日の暮らしの中で禅の教えを思い出し、心豊かな日々を送りたいですね。
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