“妖精の煙突”と呼ばれる不思議な大奇岩群カッパドキア。TABIZINEでも、カッパドキアにある洞窟修道院のひとつを修繕し、利用できるようにしたホテルをご紹介したことがあります。
その壮大な絶景の中で暮らす人々の濃密な人間関係を描き出す、6/27公開の映画『雪の轍(わだち)』。カンヌ国際映画祭の最高賞パルム・ドール賞を受賞し、世界中から傑作と絶賛されている本作の魅力に迫ります。
世界遺産のトルコ・カッパドキアに佇むホテル。親から膨大な資産を受け継ぎ、ホテルのオーナーとして何不自由なく暮らす元舞台俳優のアイドゥン。しかし、若く美しい妻ニハルとの関係はうまくいかず、一緒に住む妹ネジラともぎくしゃくしている。さらに家を貸していた一家からは、思わぬ恨みを買ってしまう。やがて季節は冬になり、閉ざされた彼らの心は凍てつき、ささくれだっていく。窓の外の風景が枯れていく中、鬱屈した気持ちを抑えきれない彼らの、終わりない会話が始まる。善き人であること、人を赦すこと、豊かさとは何か、人生とは?
(『雪の轍』公式サイトより)
人と人とはすれ違うのがあたりまえ
人間は一人一人感じ方も考え方も違う、だからあたりまえのように日々すれ違う。
どこへ旅しようと、どんな絶景をこの目にしようと、人間は結局この問題とともに生きていくしかないー。
このあたりまえの事実を、容赦なく突きつけられる映画です。
そしてそれが、別世界のように美しい世界遺産のカッパドキアで繰り広げられることでより際立っているように感じました。
特に主人公の妻、ニハルの部屋での光景は、まるで印象派の絵画のように美しく、それがまた現実の閉塞感と対比してなんともいえず切ない気持ちにさせられます。
洞窟ホテルで日々繰り返される人々の会話劇は、それぞれの価値観をあぶり出す知的でスリリングなもの。映画は3時間16分という驚きの長さですが、全く飽きさせません。
観客の心さえも問う少年の目
そして物語の中で大事な役目を持っているのが、主人公と対立する一家の少年の視線。少年の無言の態度とその目に込められた想いが、モラルと哲学、生き方までを見る者すべてに問いかけます。
そう、この映画がもたらす最も大きなものは、映画の余韻の中でそれらについて徹底的に考えさせられる時間なのかもしれないと思うのです。
世の中には、時間をかけないとたどり着けない答えがあります。人は本来、物語や人生の中から自分が見つけ出した真実や教訓しか、身につかないのではないかとも思います。
お手軽なものが好まれる昨今ではありますが、ときにはじっくりと時間をかけて物語に浸かり、その世界を漂うのもいいものです。
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