フランスには、夕食前に軽くつまみながらお酒を楽しむ「アペリティフ」という習慣があります。食前酒に決まりはないので、りんごの発泡酒「シードル」やビールなど、好きなものを飲んでOK。
夏らしい食前酒といえば、今回ご紹介する「パスティス(Pastis)」は外せません! パスティスはアニス風味の清涼感たっぷりのお酒で、庶民の飲み物として広く親しまれています。
パスティスとは?
プロバンス地方の港町マルセイユ生まれのお酒「パスティス」。アニスやリコリスなどのスパイスやハーブをベースにした、アルコール度数40〜45%のリキュールです。
リキュール自体は褐色がかった色味をしていますが、水で割ると乳白色に変身!
現地では水割りにして飲むことが多いようです。暑い日に飲めば、爽やかな気分に。しかしながら独特の香りのため、好き嫌いが分かれるお酒でもあります。
ギリシャの「ウゾ」、トルコの「ラク」、シリアやレバノンの「アラック」なども、水で割ると白く濁るパスティスに似たお酒です。ちなみにトルコでは「ライオンのミルク」と呼ばれています。飲めばたちまち、ライオンのように強くなったりして!?
次はパスティスの普及に禁断のお酒が関係している!? という逸話を。
禁断のお酒「アブサン」と「パスティス」
パスティスは聞いたことがなくても「アブサン」をご存知の方は、多いのではないでしょうか。アブサンはアルコール度数が70%前後という非常に強いアニス風味のお酒です。その風味は多くの人々を虜にしたそうですが、原料の「ニガヨモギ」の成分が幻覚症状を引き起こすなど、アブサン中毒になる人が続出。
かの有名な画家ゴッホやロートレックらも、アブサンで身を滅ぼしたと言います。このため、フランスでは1915年に販売禁止に(現在は一部解禁されています)。
このとき、プロバンス地方では「アブサン」に近い味わいの、自家製「パスティス」なるものが存在していたそうです。ここに目をつけた青年実業家のポール・リカール氏。1932年にアブサンに代わるものとして、正式に「パスティス」の販売を開始、大成功を収めました。
その後、競合会社「ペルノ(Pernod)」と合併、現在は「ペルノ・リカール」社として、フランスのパスティス市場の42%を占めるまでに成長。アメリカンならぬフレンチドリームと言えるかも!? 現在マルセイユには、配合や味わいが若干異なるパスティスが、60種類ほど存在するそうですよ。
パスティスの美味しい飲み方
「ペルノ・リカール」社によると、水割りで楽しむ際の黄金比があるそうです。パスティス20ccに対し、5〜7倍の水が最適。この比率だと、アルコール度数も甘さも、ロゼワインよりも軽くなるそうですよ。
近頃は南仏に限らず、夏の食前酒はロゼワインに押され気味。そこであえて「パスティス」を選んでこそ、フランス人からも一目置かれる存在になると思うのですが、いかがでしょう? パスティスは国内でも気軽に飲むことができますよ。
[雑誌『Cuisine et Vins DE FRANCE』No.164]
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