ブラジル出身のフォトグラファー、アンジェリカ・ダス。様々な肌の色を持つ家族の元に生まれた彼女は、自分を「黒人」と決めつけそれで差別をされること、すなわち肌の色で人が分類されることに疑問を持っていました。そして彼女は「人はみんな違って美しいんだ」ということを、写真を使ったあるプロジェクトで形にして伝えていったのです。そのプロジェクトとは・・・?
肌の色で差別されること
「黒人だから」そんな理由でアンジェリカ氏は数知れない差別に遭遇してきました。あるときはヨーロッパの友人とビーチ沿いを歩いているだけで売春婦だと思われ、あるときは知り合いのパーティーでメインのエレベーターを使わないで欲しいと言われることもありました。そして極め付けはスペイン人と夫との間に自分の子を身ごもったときに人から言われた「あなたたちの子どもはどんな肌の色になるの?」などという心無い言葉。たとえ本人に悪気がなかったとしても、現在まで根深く残る「肌の色」での人種差別を強く感じていた彼女は、あることに気付いたのです。
みんな違う肌の色
彼女の家族はさまざまな肌の色を持っていました。それは「白人」「黄色人」「黒人」などの言葉では表せられないもの。「肌の色で人は分類されるものではない、分類するのは人ではなく自分自身だ」というところに着目した彼女は、あるプロジェクトを発足します。その名は”Humanae(人間)”。それはたくさんの人を撮って、その人の肌に一番近いパントン(色見本)を選び背景に設定するという、前代未聞の斬新なプロジェクトでした。
プロジェクトはやがて世界中に
やがて彼女のプロジェクトに賛同する人は世界中に増えていき、その活動は多岐に渡るものとなりました。彼女は世界的権威のもつ人からホームレスの人まで、人種や文化やジェンダー、そして宗教まで関係なくたくさんの人を撮り続けました。その結果、このプロジェクトを通してたくさんの人が自分の肌の持つ意味を考え、その意見を発信するようになったのです。ついにはこの活動が世界的な規模の大手政治雑誌 ”FOREIGN AFFAIR” で表紙を飾り、学校の授業の題材に使われたりするようになったとき、彼女はこの活動を通して人々が自分の新たな存在価値を生み出すようになった、と実感するようになりました。
差別は自然にはなくならない
この活動を始めてからというもの、世界中のたくさんの人たちから意見が届きました。そのなかには11歳の娘をもつ母親からの感謝のメッセージもありました。それは「娘が友達から差別を受けたのだけど、この活動のおかげで娘に自信を持たせることが出来た。だからあなたの作品は私の心の特別な場所にあるの」というもの。
やがてそういった現象はアンジェリカ氏自身にも訪れることになるのです。それは彼女がいままで感じていた恐怖や不安、葛藤、孤独などが次第に「愛」へと変わっていったというもの。これは彼女にとってあることを認識する出来事となりました。それは「差別は自然になくなるわけではない」ということです。誰かが動かなければ、差別は一生撤廃されることはなく闇を抱えて生き続ける。誰かが動かなければ何も変わらない、そんなことを彼女は確信したのです。
筆者も海外を旅しているとき、欧州では「列に並ばせてくれない」「自分だけが無視される」などの差別まがいのことを経験しました。その一方では逆に「そんなことは関係ない」、と優しくしてくれた人がいたことも事実です。優しさや愛は伝染し、憎悪などという感情よりもずっと多くの人の心を突き動かす。そのとき肌で感じた体験は忘れるに容易いものではありません。差別の撤廃をアンジェリカ氏のようにプラスのアプローチで訴えるその姿勢からは、いま世界中の人たちが学ぶものがあるのではないでしょうか。
[Angélica Dass]
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