海外で働く夫を影で支える女、駐在妻。
「駐在妻」と呼ぶとかっこいい響きかもしれませんが、実情は専業主婦、更に有り体に言うと無職です。夫を仕事に送り出したら、駐在妻は一日を一体どのように過ごすのか?
実際に駐在妻として発展途上国に暮らす筆者が解説してみようと思います。
まずは自然を制する(屋内)
筆者が駐在妻をしている国はソロモン諸島という、赤道の若干南にある熱帯の国。
熱帯の地域に旅行をされた方であればご存知かもしれませんが、気温も湿度も高い地域では、生き物が大変元気です。それは何も黒光りするおなじみのアイツだけではなく、大変危険な病気「マラリア」や「デング熱」を媒介する蚊も、冬が訪れないことをいいことに年中繁殖。
そして蚊やその他の虫たちを目当てにヤモリが家へ上がり込み、そのヤモリをはじめ黒光りするアイツさえもタンパク源として食してしまうネズミも頻出。家の中で食物連鎖を目の当たりにします。
生きとし生けるもの、摂取をしたら排泄をしなければなりません。そして屋内ではそれが土に還ることはないので、人間が掃除しなければなりません。
発展途上国に住む駐在妻は、朝夫を送り出すと、まずマスク、手袋、掃除用エプロンを装着し、彼らの排泄物の掃除をします。少しでもおろそかにするとあっという間に彼らのテリトリーが広がってゆくので、常に清潔を保たなければなりません。
さらに自然を制する(屋外)
家の中が終わると次は外。落ち葉ならぬ落ちマンゴーや、落ちプルメリアの花、物凄いスピードで成長する熱帯の雑草を一心不乱に拾い集め、庭の片隅で焼却。野焼きは日本では禁止されている所が殆どではないかと思うのですが、ソロモン諸島のゴミ収集は不定期なので、自分たちでどうにかするのが一般的。
また、野良犬が大変多く、軒先にたむろさせているとノミ被害が出るので、時折追い払わなければなりません。犬好きの筆者にとっては心が痛むことですが、ノミに刺された時の痒さは蚊の比ではないので、ここは心を鬼にします。
ようやく普通の家事が始められる
この時点で半日は過ぎており、服は限界まで汗を吸収しグズグズビショビショ、全身は煙の匂いを漂わせるようになっています。女として、いや人としての尊厳を失わないよう、ここで一旦シャワーを浴びて心も体もリセットする時もありますが、あまりにもヤケクソだとこの行程は飛ばされます。
さて残りの時間で、洗濯物を取り込んだりアイロンがけをしたり買い出しに行ったりという一般的な主婦の仕事をこなします。それが一段落ついたら、もう夕飯の支度の時間です。
大変なのはお互い様だけど・・・
これが、とある途上国駐在妻の日常です。日中相手をしているのは駐妻友達やネイルサロンの店員などではなく、主に草木や虫、動物。
それらと水際の攻防を繰り広げているからこそ家の平穏が保たれているのですが、生き物のフンや死骸が家に転がっていないことが当たり前の環境で生きてきた夫にとっては(筆者とて全く同じですが)、途上国の駐在妻特有の家事を想像することは難しく、ゆったりとした南の島ライフをエンジョイしていると思われている模様。
現地人との文化の相違などで気苦労の絶えない夫のぼやきを聞く傍ら、「現地人も大変だと思うけど、『草がすぐ伸びてくる、野良犬追い払ってもすぐ戻ってくる』とか愚痴っても分かってもらえないからこっちは黙ってるんだい」と思う途上国の駐在妻なのでした。
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