猫の駅長として一躍有名になった「たま」。2015年に「たま」が永眠してからは、新駅長の「ニタマ」と駅長見習いの「よんたま」がその遺志を引き継いでいます。
猫の駅長に、楽しいラッピング車両、心癒される田舎の風景と、知られざる魅力が満載の和歌山電鐵貴志川線をご紹介しましょう。
伝説の猫の駅長「たま」
(C) Haruna Akamatsu
和歌山市の和歌山駅と、紀の川市の貴志駅を結ぶローカル線、和歌山電鐵貴志川線。利用者の少なさから、一時は廃線寸前の危機に直面していました。実は、筆者の実家の最寄り駅は貴志川線の駅。子どものころから「貴志川線がなくなる」という噂を何度も耳にしていました。
経営難にあえぐ貴志川線を救ったのが猫の駅長「たま」。「たま」をひと目見ようと、国内外から観光客が訪れるようになり、貴志川線の利用者が増加。貴志川線再生に向けて、大きな貢献を果たしたのです。
世界的にも珍しい「猫の駅長」は、日本国内のみならず海外でも注目を集め、フランスのドキュメンタリー映画「ネコを探して」にも出演しました。2015年の死去に際しては、中国や韓国といった隣国のメディアはもちろんのこと、イギリスのBBCやアメリカのCNNなど、欧米の主要メディアにも取り上げられるほどのニュースとなったくらいです。
(C) Haruna Akamatsu
その死後、「名誉永久駅長」の称号を受けた「たま」は、貴志駅の「たま神社」に祀られ、いまも駅と利用者を見守っています。
たまⅡ世の駅長「ニタマ」と駅長見習いの「よんたま」
(C) Haruna Akamatsu
現在、貴志駅で駅長業務に励んでいるのが、たまⅡ世の「ニタマ」。「ニタマ」の名前は、「たま」に似ていること、そして「たま」の後継者、たまⅡ世であることに由来しているのだそうです。
「たま」が平仮名なのに、「ニタマ」がカタカナ表記なのを不思議に思いませんか? それはニタマがペルシャ猫のように毛足が長く、洋風の雰囲気を醸し出しているからなのだそう。いつ見ても、新駅長にふさわしい貫禄たっぷりです。
(C) Haruna Akamatsu
そして、2017年1月に駅長見習いとしてデビューしたのが「よんたま」。伊太祁曾(いだきそ)駅で、新入りらしく、初々しい可愛らしさを見せてくれています。
駅長の「ニタマ」と駅長見習いの「よんたま」は、それぞれ貴志駅と伊太祁曾駅、別々の駅に勤務しています。基本的に休日は両者ともに出勤していますが、日によって出勤状況は異なります。勤務スケジュールが変更になることもあるので、和歌山電鐵のホームページで出勤日と時間を確認してから会いに行ってくださいね。
世界で唯一、猫の顔をした檜皮葺き屋根の貴志駅
(C) Haruna Akamatsu
現在「ニタマ」が勤務する貴志駅の駅舎は、世界で唯一、猫の顔の形をした檜皮葺き屋根をもつ駅舎。「世界一の地方駅舎」を目指し、職人技を生かして造り上げられた、ここにしかない駅舎です。
(C) Haruna Akamatsu
駅には「たまカフェ」も併設されていて、「たま」の功績を紹介する展示とともに、「たま」をモチーフにしたドリンクや軽食を楽しむことができます。
さらに、「たまショップ」では、「たま」が描かれたキュートなパッケージのお菓子や雑貨、貴志川線のオリジナルグッズが手に入りますよ。
ポップで楽しいラッピング車両
(C) Haruna Akamatsu
貴志川線に乗る楽しみは、猫の駅長だけではありません。「たま電車」や「いちご電車」など、ポップなモチーフに彩られたラッピング車両も、貴志川線再生の立役者。
「たま」をテーマにした「たま電車」はなんと猫耳付き。車両の外側には「たま」の活躍ぶりがユーモラスに描かれています。
(C) Haruna Akamatsu
(C) Haruna Akamatsu
車両内部にも、楽しい「たま」の世界がいっぱいに広がっていて、電車に乗っているだけで別世界のワクワク感に包まれるはず。
(C) Haruna Akamatsu
2016年にデビューした「うめ星電車」にも注目。和歌山の名産である梅干し色の華やかなボディーは、遠くからでもひときわ目を引きます。
(C) Haruna Akamatsu
上品な和の雰囲気が漂う内装はもはや芸術の域。どの電車に乗るか迷ったら、「たま電車」と「うめ星電車」がおすすめです。
貴志川線にはラッピング車両ではない普通の車両もあります。お目当ての電車に乗るには、和歌山電鐵のホームページに掲載されている車両別の時刻表で、乗りたい電車のスケジュールを事前に確認しておくのがおすすめです。
貴志川観光いちご狩り園(貴志駅)
画像はイメージです
貴志駅周辺では、毎年2月から5月下旬まで、いちご狩りが楽しめます。入園料は大人1500円で、露地栽培のいちごが時間無制限で食べ放題。地元・和歌山ではいちごの産地として有名な貴志川のいちごをぜひご賞味あれ。
西国三社参り
(C) Haruna Akamatsu
和歌山には、3つの神社に参拝する「三社参り」の習慣が残っています。貴志川線を利用して、西日本最大の三社参り、「西国三社参り」でパワーチャージしてみませんか。
西国三社とは、天照大神を祀る紀伊国一之宮の日前神宮・國懸神宮と、初代天皇・神武天皇の長兄にあたる彦五瀬命を祀る竈山(かまやま)神社、木の神である五十猛命を祀る紀伊國一之宮の伊太祁曾(いだきそ)神社。
三社すべてにお参りする時間がなくても、駅長見習いの「よんたま」が勤務する伊太祁曾駅が最寄りの伊太祁曾神社は必ず訪れたいところ。豊かな緑に囲まれた境内を歩けば、神話的なエネルギーが感じられるはずです。
大池遊園(大池遊園駅)
(C) Haruna Akamatsu
貴志川線沿いで桜の名所として知られているのが、大池遊園駅からすぐの大池遊園。周囲4キロの池を中心とした公園で、池ではボートも楽しめます。
自然に囲まれた鉄橋の上を走る電車が撮影できる絶好のフォトスポットでもあり、写真好きには見逃せません。
カフェ・レストラン「ST.ZEPHYR(セントゼファー)」のテラス席から景色を楽しみながら、のんびりと流れる時間に身を任せてみては。
(C) Haruna Akamatsu
和歌山の郊外をのんびりゴトゴト走る貴志川線。特に、日頃都会の景色を見慣れている人にとって、田舎の素朴な風景はそれだけで新鮮で、心癒されます。
「日本一心豊かなローカル線」を目指して奮闘する貴志川線の姿に、あなたもきっと元気をもらえることでしょう。