外国で生まれた道具だと思って使っているものの、実は日本発だというアイテムがまれにあります。その1つが中華料理店にある回転テーブル。料理を乗せてぐるぐると回すあのアイテムですね。
ちょっと大きな中華料理店にはある定番の机で、横浜や神戸や長崎の中華街はもちろん、香港、台湾、マレーシアの田舎町の中華料理屋でも普通に見かけたテーブルですから、てっきり中国で生まれたのかと思っていました。しかし実はあの回転テーブル、日本発だったのですね。
東京の料亭が回転テーブルを考案した
(C)ホテル雅叙園東京
中華料理を食べる際に見かけるあの回転テーブル、考案した人は東京の芝浦で自宅を改修し、純日本式料亭『芝浦雅叙園』をオープンした細川力蔵という人だと言います。雅叙園はその後1931年に目黒に移り、2017年には目黒雅叙園からホテル雅叙園東京へと名称を変更していますが、その創始者が、
<席に座ったまま料理をとりわけ、次の人に譲ることができないか>(ホテル雅叙園東京のホームページより引用)
との思いから、1932年(昭和7年)に回転テーブルを考案したそう。まさにおもてなしの心が作り出した日本発の発明品だったのですね。
(C)ホテル雅叙園東京
ホテル雅叙園東京から提供を受けた資料には、回転テーブル誕生の背景がより詳しく書かれています。宴会や披露宴などの席で、大きなテーブルの真ん中に大皿の料理が置かれていた場合、同席者に初対面の人が居ると、取り分けなどでお互いが気を遣って腰を上げたり、席を立ったりする必要がありますよね。
こうした顧客の姿を見て、「何か着座したまま自分の好きな料理をとりわけ、次の人にお皿を譲る方法はないか」と、上述した細川力蔵氏が考えたみたいです。
開業時、雅叙園の建築を任せた棟梁(酒井久五郎氏)に細川氏が依頼して制作させた世界初の回転テーブル第1号は、修復され雅叙園の中華料理レストラン『旬遊紀』の個室(王城)で現役で活躍しているとの話。
ホテル雅叙園東京の方に提供してもらった写真を見ると、単に機能性だけではなく、見た目の美しさ、華やかさも追及したテーブルだと分かります。
また、創業者のおもてなしの心は、雅叙園で日本初の総合結婚式場のサービスも生み出したそう。美容室、写真室、神社での挙式、料亭やホテルでの披露宴と、当時の結婚式は全ての会場が異なり、移動が大変だったと言います。
そこで雅叙園は出雲大社より神霊を迎えて神社を作り、一カ所で全てが完結する総合結婚式場サービスを日本で初めて提供したと言います。今に至るまでに22万組の夫婦を送り出したそうですから、その実績もすごいですよね。
さて、回転テーブルが日本発祥だと知った中国人の反応は?
回転テーブルが日本発だと聞いて中国人はどう考える?
ところで日本発祥の回転テーブル、中国ではどう考えらえているのでしょうか? 上海に暮らす友人や、中国と太いパイプを持つ友人経由で、現地の中国人に聞いてもらったところ、
「知らなかった」
「そんなはずがない」
「うそだろう」
と、ほとんどの人が知らない様子。中国に仕事などで行く日本人には有名な話で、中国人に自慢する鉄板のネタではあるみたいですが、現地の人はたいてい信じないみたいですね。中には、
「日本人ならありえる」
「日本人なら確かに考えるかも」
という声やリアクションもある様子ですが、日本人でもびっくりするような話なのですから、中国人からすれば、なおさら信じられない話ですよね。
ただ、専門家からすれば、回転テーブルが中国で生まれるとは考えにくいと言います。ホテル雅叙園東京の広報の方から提供を受けた資料には、回転テーブルについて武蔵大学の文化人類学者・西澤治彦教授が味の素株式会社の会報誌に述べたコメントが紹介されています。
その内容をまとめると、回転テーブルは円卓を前提としています。しかし円卓が中国で普及した歴史は清朝末期から中華民国期と浅く、家庭でもレストランでも四角形のテーブルが一般的なのだとか。
さらに主賓席が南面し、その左右に下位の席が続くなど、座席の席順が厳格に決まっている中国では、ゲストの座順に回転テーブルで料理を配ろうとすると、時計回りのように一方向ではなく、右に左にと交互に何度も座順に従ってテーブルの円盤を動かさなければならなくなると言います。
また、料理をホストが自らのはしで主賓の皿に取り分ける文化がある中国においては、回転式のテーブルでゲスト自身に料理を取らせるというスタイルがなじまないため、中国で回転テーブルが生まれたとは考えにくいのだとか。
そういった文化的背景を踏まえても、やはり回転テーブルは日本で考案されたと考えて間違いないみたいですね。
以上、中華の回転テーブルは日本流のおもてなしの心が生んだという話をしましたが、いかがでしたか?
もちろん日本人の専売特許ではありませんが、おもてなしの心は日本人に脈々と受け継がれる、大きな特長の1つ。今後も日本人のホスピタリティが、どのようなサービスを生むのか大注目ですね。
[ホテル雅叙園東京]
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