日本と海外の文化ギャップは、TABIZINEでも長く人気を誇るテーマ。そのギャップを楽しめるのは、日本という国の独特の文化や風土あってこそです。そこで今回は、日本発祥の世界で愛されるもの、実は日本が世界一という意外なトピック、日本独特の興味深い文化などなど、知られざる日本の面白い部分を「日本の不思議」と題し特集したいと思います!
世界で普通に浸透している物事が、実は日本発祥だったという話、意外に少なくないですよね。例えばカプセルホテル。
先日筆者が訪れたオランダにも人気のカプセルホテルがありましたが、この機能的な宿泊施設は日本発なのだとか。
(写真はイメージです)
そこで今回はカプセルホテルという独特の空間が生まれた背景や、設計者に関する意外な事実などについて紹介したいと思います。
カプセルホテルは黒川紀章さんのデザイン
(写真はイメージです)
カプセルホテル、今では日本中にある定番の宿泊施設ですよね。上述したように世界にも浸透していて、TABIZINEの過去記事「日本発祥のカプセルホテルが欧州で進化!スタイリッシュなカプセルホテル3選」では、イギリス、オランダ、イタリアの最先端カプセルホテルを紹介しました。
この斬新なアイデアのカプセルホテル、もともとはなんとあの黒川紀章さんが設計したというから驚きです。
2007年に東京都知事選挙に出馬した姿しか記憶していない世代も少なくないと思いますが、先ほど触れたオランダつながりで言えば、アムステルダムにあるゴッホ美術館の新館も黒川紀章さんのデザインになります。やはり偉大な建築家だったのですね。
ではその世界初のカプセルホテルはどこにあるのでしょうか?
大阪万博に展示された『住宅カプセル』がカプセルホテルとして進化する
カプセルホテルが大阪に最初に開業した時期は1979年。戦後の復興を終え、高度成長期に移り、間もなくバブル経済に入っていくタイミングですね。
大阪市の資料によれば、大阪のような大都市は平面のみならず立体的にも急速な拡大を遂げている真っ最中で、土地利用と土地防災、土地交通の課題が山積みする時代だったと言います。
この時期、黒川紀章さんを代表とする若手の建築家は「メタボリズム」というキーワードを掲げ、社会の変化や人口の増減に対応しながら有機的に成長する都市や建物を構想したと言います。
メタボリズムとは「代謝」を意味し、有機的とは辞書を調べると、
<多くの部分が集まって一個の物を作り、その各部分の間に緊密な統一があって、部分と全体が必然的関係を有しているさま>(広辞苑より引用)
とあります。有機的に成長する建物作りのために、黒川紀章さんは1970年に大阪万博で、斬新な「住宅カプセル」を発表します。カプセルの中に各種の機能を盛り込んだ生活空間で、カプセルを持ち運べば、そのままカプセルの設置場所が居住スペースになるという優れものですね。
1972年には実際に、その画期的なカプセルを有機的に積み上げたような中銀カプセルタワービルという建物が、東京の銀座に誕生しました。
こうした流れにヒントを得たニュージャパン観光という企業の社長が、黒川紀章に話を持ち掛け、世界で初めて『カプセル・イン大阪』というカプセルホテルを1979年に誕生させたのだとか。世界初のカプセルホテルが誕生した瞬間ですね。
サウナで夜を明かして出社する会社員のために作られた
関西版の産経新聞の記事によれば、『カプセル・イン大阪』をオープンさせたニュージャパン観光の社長・中野幸雄さんは当時、サウナを大阪で展開していたそう。
サウナの仮眠室やロビーで夜を明かして出社するサラリーマンをたくさん目にする中で、もっと快適で、安い宿泊施設を用意できないかと思ったみたいですね。
試行錯誤をしている末に、大阪万博に出品された黒川紀章さんの『住宅カプセル』を思い浮かべたそう。
大阪市の資料によれば、
<1979年に開業した「カプセルイン大阪」を皮切りに、カプセルホテルという新たな業態は瞬く間に全国に拡がり、今では海外でも知られるようになった>(大阪市の資料より引用)
とあります。その元祖『カプセル・イン大阪』は現在も営業しており、黒川紀章さんが設計した元祖の『スリープカプセル』も現役で活躍していると言います。
黒川紀章モデルのカプセルは1泊2,600円~
では、実際に黒川紀章さんがデザインした世界初の『スリープカプセル』に泊るとすると、いくらなのでしょうか?
同店の方に聞いてみると、サウナやスパなどのサービスを一切付けない素泊まりで1泊2,600円から利用できると教えてくれました。大阪という大都市に1泊2,600円で泊まれるとなると、お得ですよね。
どのような人が宿泊しているのか聞いてみると、外国人旅行者も多く利用しているみたいです。なるほど旅費がかさむ日本旅行で安く泊まる手段としても、カプセルホテルはよさそうですね。
(写真はイメージです)
以上、カプセルホテルは日本発だという話をしましたが、いかがでしたか?
その背景には高度経済成長とともに発展する日本の都市の未来を真剣に考え抜いた一人の偉大な建築家の着想と、そのアイデアをビジネスに取り込んだ企業家の先見の明と行動力があったと分かります。
今度大阪に一人で旅したときは、宿泊先として候補に入れてみたいですね。
[NEW JAPAN UMEDA ] [VII戦後大阪の都市改造:立体都市の実現 – 大阪市 ] [All Photos by shutterstock.com ]
Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(
https://hokuroku.media/ )創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。
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