同書の著者で、国際ボディランゲージ協会代表理事、イメージコンサルタントとして世界標準の装いや仕草に精通する、安積陽子氏へインタビュー。
連載 第1回 テーマ:海外で笑われないための装い、洋服選び
あなたの外見は、あなたの内面を正しく表していますか?世界の舞台において、装いとはその人の立場や経済力などを示す記号。装いには暗号が隠されているのです。その暗号を知らないと、相手の心の扉を開くことはできません。あなたは服を着こなせていますか?服に着られていませんか? インタビュー連載 第1回目のテーマは、『海外で笑われないための装い、洋服選び』です。
以下のリスト、一つでもチェックがつく人は必読ですよー!
- 仕事での海外出張や外国人に対応する機会が多い
- 会社などで役職についている
- 洋服を選ぶ際は“自分の好きな服”を選んでいる
- ついついラクな洋服や簡易的なアイテムを選んでしまう
日本人の服装に物申す!反響の著書『NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草』
「そうですね。多くの方がこの本が手にとって下さって、大変有り難いことだと思っています。
この本は、国際標準におけるスーツの着こなし方や仕草などの内容を中心に、当初は、40代のビジネスパーソンをイメージして執筆したのですが、意外に、学生さんも(この本を)手にとって下さったり。あと、印象的だったのは、若い女性の読者ですね。
夫の出世を願う若い女性たちが、“自ら(服装や振る舞いを)勉強して夫に教えるんだ”と言って、読んで下さる方も結構いらっしゃいまして、逞しいなと感じました。」
「この本が出たときに、ある政治家の方は、カンカンに怒って電話していらっしゃいました。でも、私が思ったように、同じようなことを感じた方は他にもいたと思うんですね。ですが、服装のことって、非常にデリケートな部分ですので、ご本人の周囲にいる方ほど、立場もありますし、口に出して指摘しづらい風潮があるのだと思います。指摘することで、風当たりが強くなることもありますしね。
だから、私のように失うもののない人間は、こういったことを率直に伝えるべきだと思ったのです。そういう意味では、“みんな思っているけど、言えなかったよね”ということを書いたのが、この本だと言えますね。」
安積さんの書著『NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草』 (Cover by Kodansha)
日本人の服装が世界で顰蹙を買っている?
「私は現在、“IRC JAPAN”というスクールと、“国際ボディランゲージ協会”という二つの組織を運営しております。
IRC JAPAN では、主に、装いに関して学ぶ場を提供しています。具体的には、お客様のご職業や立場、目標に相応しい洋服の選び方や装い方をアドバイスできるイメージコンサルタントたちを育成しています。あとは、私自身が個人のお客様に対して、イメージコンサルティングを行うこともございますし、企業での講習会等に講師として登壇することもございます。
もう一つの組織である国際ボディランゲージ協会では、ボディランゲージ(人の表情、姿勢、仕草、身振り手振り)にフォーカスをおいて、お客様の環境に合わせた、プレゼントの仕方や、パーティーでの振る舞いなど、ボディランゲージを通した自己演出についてアドバイスを行っています。
昨今、ビジネスパーソンだけでなく、学校関係者、教育者、医療関係者の方もボディランゲージを学びにいらっしゃることが多くなりました。私たちはボディランゲージから、言葉にならない色んな感情を発信していまして、“言葉には表れないけれども、その方が感じている感情を、いかにボディランゲージから読み解くか”、読み解き方法ということもお伝えしております。」
「一言で言えば、すごく焦ったさを感じたんです。
国際化がますます加速する中、日本には、世界で活躍されるであろう素晴らしい経営者の方や留学生の方が沢山いらっしゃいます。しかし、そのような方々が、“自分がどうあるべきか”よりも、自分が着たいものを着て、ビジネスや社交の場に出ていらっしゃる。じつは、それが、ご本人たちの気付かないところで、諸外国の方々から密やかに笑われていたり、思わぬ顰蹙を買ってしまったりと、ご自身の評価を落とす要因にもなってしまうんですね。これは、とても勿体無いことだと思います。
また、日本人は自分の魅力を演出したり、上手にアピールすることに慣れていませんよね。効果的なボディランゲージができるという方も非常に限られています。いくら素晴らしい内面や実力があっても、それが伝わらないのでチャンスを逃してしまう。そのような例を多々見てきました。
こうした現状を、なんとか知って頂きたい。なおかつ、ビジネスパーソンの方々にも取り入れやすい形で、伝えることができれば・・・という想いで書きためていたものに、出版社の方が目をとめて下さり、同書の出版に至りました。」
「日本人の根底には“謙虚さの美徳”という概念があり、国内においては大変尊ばれるべきことだと思いますが、国際社会ではその概念が機能しないのです。だから、自分のことを効果的にPRする(諸外国の)人たちに囲まれてしまうと、日本人は埋もれてしまう」と安積さんは言う。
好きな服を着ること≠アイデンティティの表現
「装いは、その人のアイデンディティなんですよね。何を着るか、何色を着るか、どういう素材を着るか、どれだけ重ねるか。これは、“ファッション=楽しい!おしゃれ”ということではなくて、それらは全て、ひとつの記号なんです。例えば、その人はどういう価値観をもっているのか、どういう家柄で育っているのか、どのくらい教養があるのか、そういったものを示す記号。
また、国際社会におけるビジネスや外交の場では、そういった認識のもとに、コミュニケーションが行われます。特に、欧米諸国のエグゼクティブたちは、その記号を使いこなすのが上手い。装いによって、それらの記号をさりげなく示してきます。まるで、暗号を送ってくるかのように。」
「“同じ価値観を共有していますよ”とか、“あなたと同じくらいの教養がありますよ”とか、装いを通して伝えられるか否かでは、装いのルールや本質を知っている相手側の対応、心の距離も変わってくると思います」と安積さんは話す。
「“見た目で誤解されてしまう”とおっしゃる方が、私共のお客様の中にも結構いらっしゃいます。“本来、自分はこういう性格じゃないのに、第一印象としてこういう風に受け取られてしまう”とか。それって、すごく勿体無いことだと思います。
国際競争を戦い抜いてきた京セラ創業者の稲盛和夫氏は、“外見はその人の一番外側になる中身だ”とおっしゃっていますが、外見はその人が培ってきた経験や価値観、パーソナリティがそのまま現れるところだと思いますので、そこを認識した上で、内面と外見のバランスが取れるような、ご自身の装いと向き合う習慣が重要になってくると思います。」
海外で笑われないための装い、洋服選び
「“自分が好きな〇〇を着たい” ではなく、“相手から何を期待されるのか”ということにフォーカスした洋服選びが大切だと思います。他者目線で洋服を選ぶということですね。
自分が着たい服は、プライベートで自分が好きなときにお召しになればいいと思います。
ビジネスは相手あってこそ成り立つものです。ご自身の置かれた環境や、お会いする方々の特徴に照らし合わせて、“自分は何を期待されているのか”を考えながら、同時にそれだけではなく、その方から“自分はどのように見られたいのか”。この二つの要素の重なる部分が、その方のスタイルであるべきかな、と思います。」
「他者目線」の洋服選び方を図式化。違った要素を持つ二つの円が重なる部分こそが、あるべき装いの方向性。
「そうですね。そういった他者目線がベースにあり、装いのルールやマナーに忠実でありながらも、その装いのどこかに、その人なりの哲学やこだわりがほんの少し見えるかどうかで、装いから伝わってくるメッセージはまた変わってくると思います。」
「例えば、“自分が好きだから” “自分がラクだから”という選択は自己目線になりますね。
具体例を挙げれば・・・ポケットチーフの選び方。ポケットチーフはもともと、一種のコミュニケーションツールとして誕生しました。装飾としてだけではなく、女性が涙したり、怪我をしたときやワインをこぼしてしまったときなどに、紳士がさっと差し出してあげるために胸元にあるべきです。
ですが最近、カード型の簡易ポケットチーフというものがありますよね。あれって、一見ポケットチーフでも、ポケットチーフとしては機能しない。本来の役目を果たせないんですよね。」
カード部分を胸ポケットに差し込むだけでOKな、簡易ポケットチーフ。
「胸ポケットに挿すだけで、見た目はポケットチーフをつけているように演出できますので、忙しい現代人の方に重宝されるのは理解できます。しかし、“自分が楽だから簡易のものをつける”という選び方は、自己目線や自己満足と捉えることができますよね。」
どうやら私たちは、装いについて“勘違い”や“無知”という衣を纏ってしまっている様子。
次回は、どういった装いが外国人から笑われているのか、具体例も含めて安積さんにお話を伺っていきたいと思います。どうぞお楽しみに!
過去記事「海外で不思議がられる日本人観光客の服装6選〜トラブル防止にチェック!〜」でも、日本人と外国人の服装の感覚のズレについてご紹介しています。気になった人は、ぜひチェックしてくださいね。
●国際ボディランゲージ協会代表理事
●IRC JAPAN代表
アメリカ合衆国シカゴに生まれる。ニューヨーク州立大学イメージコンサルティング学科を卒業後、アメリカの政治・経済・外交の中枢機能が集中するワシントンD.C.で、大統領補佐らを同窓に非言語コミュニケーションを学ぶ。そこで、世界のエリートたちが政治、経済、ビジネスのあらゆる場面で非言語コミュニケーションを駆使している事実に遭遇。2005年からニューヨークのImage Resource Center of New York 社で、エグゼクティブや政治家、女優、モデル、起業家を対象に自己演出術のトレーニングを開始。2009年に帰国し、Image Resource Center of New Yorkの日本校代表に就任。2016年、一般社団法人国際ボディランゲージ協会を設立。理念は「表情や姿勢、仕草から相手の心理を正しく理解し、人種、性別、性格を問わず、誰とでも魅力的なコミュニケーションがとれる人材の育成」。非言語コミュニケーションのセミナー、研修、コンサルティング等を行う。
[Interview photo by MASASHI YONEDA]
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