段ボールアーティスト直伝!旅の長距離移動が楽になる段ボールの切れ端活用術

Posted by: 坂本正敬

掲載日: Dec 4th, 2018

2018年12月7日にYEBISU GARDEN CINEMA(東京)や新宿ピカデリー(東京)他で公開される、段ボールアーティスト・島津さんを追ったドキュメンタリー映画『旅するダンボール』。今回は、島津さんに段ボールを使った旅グッズのアイデアなどを聞いてきました!

国内外の旅先に段ボールが落ちていたり、段ボールの上で寝ている人が居たりしたとしましょう。その様子を目に留めて、何か心が動く瞬間はありますか。特に何も感じませんよね。段ボールは単なる段ボールで、特に拾い上げてほおを寄せ「耳元」で何事かの甘いせりふをささやきたくなる愛おしい存在でもありません。

しかしうち捨てられた段ボールに破顔して手を伸ばし、リュックサックにしまい込んで、スキップしながら持ち帰る人が居たら、どうでしょうか? きっとその人を「変な人」と断定し、国が国なら秘密警察に密告するかもしれません。

とはいえ、逆の考え方もあります。記憶の限りで言えば、「この世には美しくない女性など居ない。全ての女性を美しいと思えない男性が居るだけだ」といった名言をロシアの文豪が残していたと思います。同じように、もしかすると「この世に美しくない段ボールなどは存在せず、全ての段ボールを美しいと感じられない大勢の人が居るだけ」なのかもしれません。

そんな悩ましい問いを投げかけてくれるアーティストが、島津冬樹さんです。島津さんは世界の30カ国以上を周りながら段ボールを拾い上げ、コレクションとして宝箱にしまっておくだけでなく、拾った段ボールから財布や名刺入れなどを製作し、国立新美術館(東京)のミュージアムショップで企画展まで開催し、販売するほどの段ボールアーティスト。

そこで今回は、2018年12月7日にYEBISU GARDEN CINEMA(東京)や新宿ピカデリー(東京)他で公開される、島津さんを追ったドキュメンタリー映画『旅するダンボール』(監督・岡島龍介)のプレミア試写会に参加し、上映後には段ボールを使った旅グッズのアイデア、世界が驚く日本の段ボールデザイン、逆に日本では見られない世界のユニークな段ボールの使い方などを島津さんに聞いてきました。2回に分けて連載しますので、ぜひともチェックしてみてください。

 

段ボールに恋した「変人」のドキュメンタリー映画で観客が笑い、涙する

プレミア試写会場と段ボールミュージアム

映画『旅するダンボール』のプレミア試写会は2018年11月17日、富山県で開催されました。なぜ富山県かと言えば、映画の特別協賛をする段ボールメーカー、サクラパックスの工場が富山にあり、その工場内で段ボールミュージアムを併設した上映会が行われたからです。

試写会前の様子

聞けば段ボールアーティストの島津さんは多摩美術大学に通っていたころ、余った段ボールを授業の課題で活用できないかと思案していたそうで、時を同じくして愛用の財布が激しく損耗し、買い替える予算もなかったため、段ボールで財布を作ったといいます。その経験が段ボール愛に目覚める契機となり、卒業後は社会人を経て、現在の段ボールアーティストの立ち位置を確立したのだとか。

「結末の見えないまま撮影を開始した」

とは、同映画の撮影と編集、監督を担当した岡島さん。島津さんが歩く姿など、幾つか演出がされたシーンも映画には含まれていましたが、筋書きは持たず、完全に行き当たりばったりのドキュメンタリー撮影の手法で、島津さんの活動を記録していったと言います。上映時のトークショーで岡島さんは、

「何か結末を考えないと、単に段ボール好きの変人の記録で終わってしまう」

と言葉にして、会場を大いに笑わせていましたが、まさにその通り島津さんの段ボールに対する異常なほどの熱の入れ方が、国内外を舞台にスクリーン上に次々と映し出されていきます。

上映会に招待された観客たちの反応を見ていると、最初は「変な人」とどこか異星人やピエロを見守るような表情で笑っています。ごみ箱を喜々としてあさる姿は「変人」そのもの。しかし、映画の展開とともに、段ボールに恋した「変人」島津さんの物語に、観客たちが笑顔を忘れていきます。むしろ涙を流し、ハンカチで目頭を押さえる観客も後を絶ちませんでした。

圧巻は映画の終盤でした。上述の岡島監督によれば、映画の撮影中にクライマックスにふさわしいイベントが立て続けに決まってきたと言います。島津さんの活躍が日本を飛び越え、例えば米国のペンシルバニア州ピッツバーグにあるエースホテルでのワークショップや、ユニリーバが協賛する中国・上海での環境イベント、深圳デザインウィークへの参加へと広がりを見せると、次第に「変人」島津さんの活動が、実は深刻な環境問題に直面する現代人への強烈なメッセージになっていると分かるのですね。

映画を見終えた直後は、正直「島津さんの活動に大きなメッセージを持たせ過ぎているのでは?」との印象も若干覚えました。リサイクルではなくアップサイクルというキーワードの下、島津さんの「ごみ」から「宝物」を生む活動にメッセージ性が込められていましたが、本来はもっと素朴に段ボールを集めたいだけなのではないかと感じてしまったのですね。

しかし、上映後のフリータイムで会場に併設された段ボールミュージアムを歩いていると、大いに得心する瞬間がありました。同映画のプロデューサーである汐巻裕子さんが、

「島津は、この映画の撮影中に、アーティストとして大きく成長しました。活動が洗練されてきた感じがします」

と、協賛会社の関係者か誰かと雑談している会話が偶然聞こえてきてきます。繰り返しになりますが、この映画は結末も見えないまま撮影をスタートしたと言います。岡島監督が語るように、海外でのワークショップの話などは、撮影中にリアルタイムで舞い込んできています。

言い換えれば、映画『旅するダンボール』は、段ボールアーティストとして活動する島津さんのドキュメンタリー映画ではなく、単なる段ボール好きの「変人」が、段ボールアーティストへと力強く成長していく過程を記録したドキュメンタリー映画と表現した方が正しいのかもしれません。

上映後、試写会の招待客同士が口々に「私も身の回りの段ボールに注目してみよう」と話す姿を見かけました。手の届かない完成されたアーティストの活動ではなく、突っ込みどころ満載の「変人」がアーティストに成長する姿をドラマティックに記録した映画だからこそ、観客はどこか身近なストーリーとして物語に没入できるのかもしれませんし、映画のメッセージにも大いに共感できるのかもしれませんね。

 

段ボールの切れ端を2~3枚かばんに忍ばせるだけで旅の快適さも変わる

そんな島津さんですが、世界30カ国以上を旅する旅人でもありますから、何か段ボールを使ったトラベルグッズも使っているはず。そこで上映後の単独取材の時間で、ご本人に質問してみました。

島津さん自身は歯ブラシと歯磨き粉入れのケースを段ボールで自作しているとの話ですが、さすがに段ボール愛があふれていないと、わざわざ「まねしよう!」という動機が起きにくいトラベルグッズかもしれません。

そこでもっと手軽に、もっと気軽に、何か段ボールを使った旅のアイデアがないかと聞いてみると、

「段ボールの切れ端を2、3枚かばんに入れておくだけで、役立ちます」

と教えてくれました。

「海外の地下鉄だとか、鉄道だとか、バスだとか、乗り物のシートの座り心地が悪い場面は少なくないと思います。そのようなときに、段ボールの切れ端をお尻に何枚か敷くだけで快適になります」

確かに海外の公共交通、例えば発展途上国の路線バスや長距離バス、鉄道などは座席のクッションが劣悪なケースも少なくないですよね。しかも段ボールの切れ端ならかさばりません。なるほどシンプルですが、斬新なアイデア。段ボールに普段から触れ合っている時間が豊かでないと、なかなか思い浮かばないトラベルグッズですね。

島津さんが段ボールで作った財布

島津さんが段ボールで作った財布

 

映画『旅するダンボール』オフィシャルサイト 2018.12.7(FRI)
3YEBISU GARDEN CINEMA /新宿ピカデリー ほか全国順次公開
http://carton-movie.com

(c)2018 pictures dept. All Rights Reserved

 

[text and photos by Masayoshi Sakamoto(坂本正敬)]
Do not use images without permission.

 

PROFILE

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

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