旅の目的は「たったひとつ」で良い

旅の目的は「たったひとつ」が潔いと思いませんか。
あれもこれもと盛りだくさんは、大人には野暮というもの。情報が氾濫している現代だからこそ、余計なものは削ぎ落として、自分の「たったひとつ」を選び取るのが粋。旅の荷物はシンプルに、期待だけを詰めて。

私たちがまだ訪れたことのない、未知の場所や絶景。
笑顔で迎えてくれる、あたたかい地元のひと。
生産地ならではの、新鮮で美味しいもの。

珠玉のように散らばる日本各地の魅力を発信する「ONESTORY（ワンストーリー）」。「ONE=1ヵ所」を求めて日本を旅するメディアから、私たちの「たったひとつ」が見つかりそうです。

空から降りてくる白いもの

日本が美しいのは、四季があるから。いずれの季節も甲乙つけがたい魅力があるものの、凛とした冬に惹かれます。春が来るまで色彩を落とし、音も立てず佇んでいる大自然。でも静寂さの下には、次の季節へのエネルギーを蓄えています。

寒さに首をすくめていると、ふと気配を感じます。色のない季節に神様が空から落としてくれる、美しい白いもの。私たちが待っていたのは、「雪」でした。汚れも痛みも受け入れ、雪はすべてを包み込んでくれます。

清めの雪

雪の宮島　広島県

ユネスコ世界文化遺産に登録された厳島神社は、満潮時には海上に浮かぶ稀有な社殿。年間で450万人を超える来島者（2017年度計は過去最高）人気。厳島は「神様に仕える島」という意味で、独特の雰囲気が世界中の旅行客を魅了しています。朱と白のコントラスト。水上に浮かぶ雪を冠した姿は、ひたすら神々しく、畏敬の念を抱きます。
 

雪吊りの美

兼六園　金沢

冬の風物詩「雪吊り」。樹木を雪から守るための先人の知恵。円錐状に縄を張った姿は、クリスマスツリーのよう。冬だからこそ見られる、加賀百万石の美意識の結晶。日本の三大名園の兼六園は、雪化粧が似合います。
 

豪雪地帯の知恵

合掌造り　白川郷　

手のひらを合わせた形に見えることから名付けられた、茅葺屋根の「合掌造り」。手のぬくもりを感じるような素朴な集落は、ユネスコ世界遺産に登録されています。三角の屋根は雪が滑り落ちやすく、家を押しつぶさないための知恵。雪景色の白川郷は、旅行客の憧れ。夜間にはライトアップしますが、2019年からは事前予約制。ウェブサイトで確認してお出かけください。
 

雪に舞う千鳥城

松江城　島根県　

雪景色の中に優雅に羽を広げるような「松江城」は、千鳥城とも呼ばれる国宝。松江城をとり囲む堀川を船で進むと、別世界へ分け入って行くよう。静かに降り積もる雪と、たゆたう水音だけに耳を傾けると、心が静まっていきます。
 

今回のたったひとつは、幻想的な日本の美しい雪の風景。私たちが旅へ向かわずにいられないのは、日常で求められない「たったひとつ」に出逢うためなのです。

青山 沙羅

sara-aoyama ライター

はじめて訪れた瞬間から、NYに一目惚れ。恋い焦がれた末、幾年月を経て、ついには上陸。旅の重要ポイントは、その土地の安くて美味しいものを食すこと。特技は、早寝早起き早メシ。人生のモットーは、『やられたら、やり返せ』。プロ・フォトグラファーの夫とNY在住。