城崎の温泉街
川端康成が越後湯沢の温泉宿で『雪国』を書き、太宰が好んで湯村温泉に逗留するなど、作家と温泉にはただならぬ関係があります。
兵庫県が誇る城崎温泉(豊岡市)もそんな温泉街の一つ。志賀直哉が『城崎にて』を書き上げたことで、全国的に知られるまでになりました。
そんな城崎ですが、近年「文学と演劇」の町としてよその湯治場とは一線を画した活動が行われています。
文学の方は「本と温泉」というプロジェクトで、作家と湯治場の関係性を現代に蘇らせています。
演劇の方は国際的な知名度を誇る劇作家・演出家の平田オリザ氏率いる青年団が、来年から東京を離れ本拠地を城崎に移すことを発表。平田氏自身も来春には城崎に転居する、と明かしました。
そんな文化の香り高い城崎温泉に行ってみましょう。
外湯巡り
外湯のひとつ「一の湯」
城崎温泉の最大の特徴。それは外湯巡りです。
通常の温泉街とは異なり、宿には大きな共同浴場はありません。宿の別なく、地元民と観光客の違いさえもないままに七つの外湯めぐりをするのが城崎流の湯治です。
「御所の湯」
これが独特な風情を生み出しています。浴衣を着流し、下駄音を響かせてそぞろ歩く人々。よそにはないエキゾチックな風光を求め、外国人観光客が急増しています。昨年までの4年間でインバウンドの観光客数は40倍増を記録しました。
(C)城崎温泉無料写真集
「柳湯」
昭和の頃、社員旅行を当て込んで全国の温泉街に大型ホテルが建ち並んでいきましたが、城崎は昔ながらの姿をとどめました。それがいまや周回遅れのトップランナーとなったようです。
元湯。約80℃で塩分を含んでいます。
城崎文芸館
「豊岡市立城崎文芸館」では、城崎温泉ゆかりの作家に関する展示を行っています。島崎藤村、与謝野晶子、有島武郎、徳富蘇峰、斎藤茂吉、泉 鏡花、柳田国男など、きら星のごとく有名作家が逗留していたことが伺えます。富岡鉄斎の『中孝之図』や桂小五郎の書など、歴史的な偉人にまつわる所蔵品もあるそうです。
志賀直哉の定宿「三木屋」
「三木屋」は、志賀直哉が短編『城崎にて』(1917年発刊)を書いた宿として、城崎の一面を象徴する旅館です。志賀が初めて訪れたのが1913年。以来、彼は何度もこの宿にやってきました。
志賀直哉が好んで泊まった26号室
志賀直哉の著作が並びます
ロビーの傍らには、温泉と文人墨客をイメージして選書された本が並びます。
「三木屋」の10代目当主を継いだ片岡大介さん。伝統の上にあぐらをかくようなことをせず、有志とともに出版NPO「本と温泉」を立ち上げました。城崎に小説家を招いて新作を書き下ろしてもらい、出版するところまで自前で行っています。
写真は人気作家の万城目学さんに依頼したという小説『城崎裁判』。城崎に来ないと買えない作品です。温泉らしく、カバーがタオル地になっているのが洒落ています。
『城崎裁判』はお土産屋さんや城崎町内の書店で売られています。
芝居の秘密基地「城崎国際アートセンター」
「演劇の町」という城崎の新たな顔を象徴するのが、「城崎国際アートセンター(KIAC)」。国内では珍しい舞台芸術専門の滞在型製作施設で、温泉街から外れた場所にあります。国内では珍しい24時間利用できるスタジオを完備しているのが特徴です。残念ながら公演などの特別な場合を除き、一般人は入れません。特別に内部を拝見させていただきました。
ロビー
館長兼広報の田口幹也さん
ホール
さまざまなスタジオ
宿泊施設
2017年度は13カ国40団体が、ここで滞在制作したそうです。
2階は野茂英雄さんが設立した社会人野球クラブチーム「NOMOベースボールクラブ」の寮になっています。現役の選手と会えました。
KIACにいる間、舞台人は地元民同様100円で温泉を利用できるとのこと。だからスタジオから出て、積極的に外湯巡りする役者さんは多いようです。もしかしたら役者さんたちといっしょにお風呂に入ることもできるかも知れませんね。
「桂小五郎潜居の宿」という歴史ロマンを感じさせるスポットも!
城崎ロープウェイで山頂から見た温泉街
城崎温泉に行くなら冬がお薦めです。ちょうど松葉ガニのシーズンなので、カニと温泉が1度に楽しめます。
[Photos by DAMBALA Tell-Kaz]