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1本の木に会いに行く【2】牛島の藤<埼玉県>

Posted by: 阿部 真人
掲載日: Apr 26th, 2019.

何気なく通り過ぎる街なかの、あるいはお寺や神社、山道での1本の木。誰も注意を向けることはありません。ですが、ほとんどの人が関心を持たないからこそ1本の木は現代の秘境だと思えるのです。その秘境に分け入り、子細に観察し、ふと周囲を見渡すといろんなものが見えてきます。今回はその2回目です。会いたかったのは優雅に咲き乱れるフジの花と、その根っこなのです。

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樹齢1200年のフジ


3週間限定 奇跡のフジの花

TABIZINE還暦特派員の阿部真人です。

樹齢1200年という奇跡のフジの木があるという話を聞きました。場所は埼玉県春日部の郊外。毎年春に美しい花を咲かせますが、見ることができるのはわずか3週間という期限付きなのだそうです。この「牛島の藤」、それほどの花木なのに、意外と知られていない気がします。調べてみると、東武野田線に「藤の牛島」という小さな駅がありました。

藤の牛島駅

駅を出ると、住宅と少しの商店が立ち並ぶ通りがあります。たぶんフジを見に行こうとする人たちが三々五々歩いています。しかし観光地らしい雰囲気は全くありません。郊外で見かけるのどかな道路です。

歩く人

道を左に折れて小さな路地に入りました。すると造園のような高い垣根が見えてきました。たぶんここがフジの木のある施設なのでしょう。

藤花園入り口

藤花園という名の庭園です。2ヘクタールあるという園内には、樹齢1200年のフジだけでなく、樹齢800年、200年、そして100年から150年の藤棚が合計5つあります。そのほかシャクナゲやツツジなど鮮やかな季節の花も咲き乱れていました。

園内の花花

初めて見る樹齢1200年のフジの花は圧巻でした。優雅に咲き誇っています。とはいえまだ4~5分咲きといったところでしょうか。藤棚の広さは700㎡。東西に約34m、南北に14mにも及ぶといいます。開花の範囲は藤棚の中央から外側に広がっていく途中のようです。案内ガイドの説明で初めて知ったのですが、花は房の上から下に順々に咲いてゆくのだそうです。

藤棚ロング
フジアップ

藤棚の下に入ると甘い甘い香りが漂います。このフジは江戸時代から「粕壁(かすかべ)の藤」として知られ、昭和3年には初の国の天然記念物に、そして昭和30年には国の特別天然記念物に指定されました。
ちなみにフジの木の肥料には酒粕や油粕を与えているのだそうです。秘伝の育成方法があるのかもしれません。

藤棚

歴史を感じさせるフジの根元

一方の根元はといえば、藤棚とは対照的な古びて暗い暗い世界が広がっています。とはいえそれはエネルギーの塊のような印象です。根回りは9mを超えるといいます。何本もの根元がそれぞれ勝手にうねるように複雑に絡み合って四方に伸びています。初めて1200年もの時間を感じさせるものに出会えた印象なのです。
隣りで眺めていたお年寄りは「ヘビが這いまわっているみたいねえ」と感心していました。

藤の根っこ
藤の根っこ2

ちなみにどういう経緯でここにフジの木が誕生したのか、それを示す歴史的な記録はないのだそうです。ただ、ひとつ言い伝えが残されています。昔、柳原地区の農家の娘が長い間病気で苦しんでいたそうです。あるとき旅の僧から、生垣のフジを寺に納めよといわれ、寺の境内にフジを移し植えたところ娘の病気が治ったといいます。この寺・蓮花院は今はありませんが、フジだけが残されてそのあとをしのばせているというお話です。

藤の根っこ3

この藤花園、かつては蓮花院という真言宗のお寺の境内でした。しかし明治7年に廃寺となり、所有者も変わったのだそうです。明治の初めといえば、神仏集合令による廃仏毀釈でお寺を閉めることになったのかもしれませんね。

花越し祠

氾濫を繰り返した利根川

この土地で1200年もの長寿は奇跡的なことかもしれません。じつは江戸時代の初めまで、このフジの木の西側にはもともと利根川の本流が流れ、東京湾に注いでいました。利根川は暴れ川で、しかも春日部東側に位置する牛島地区は土地が低く、しばしば利根川は氾濫を繰り返していたようです。そんな土地でこのフジの木は生き延びてきたのです。

大落古利根川

いまは大落古利根川(おおおとしふるとねがわ)と呼ばれる川が藤花園の西側を流れています。「大落」とは農業用水を落とす排水路のことだそうで、かつての利根川は農業用水路に変わり、水田耕作に利用されるようになっていたのです。その大工事が行われたのは400年前のことでした。

川に電車通る

利根川を東に動かした徳川家康

樹齢1200年のフジの木の西側を流れ、東京湾に注がれていた利根川の流れを東に移動させて、千葉県の銚子から太平洋に注がせる大工事を指示したのは徳川家康でした。この周辺や江戸を洪水から守るため、そして不毛の土地を広々とした水田に変えることで大都市・江戸の食料を供給するためでした。400年もの昔の、おおぜいの人の手による何十年もかけた難事業だったそうです。

シャクナゲ超し藤棚

いまは住宅地となっている牛島地区。牛島という名前も大きな利根川に浮かぶ中ノ島を想い起こします。あるいは1000年前は湿原地帯で牛の放牧地だったのかもしれません。いずれにしても、かつてこの周辺は人が住むには大変苦労する土地だったに違いありません。

藤の根っこ

そんな想像をめぐらすと、絡み合った太い根元は利根川の大河のうねりのように見えてきます。フジの根は何百年もの間、利根川の氾濫にも夏の日照りにも耐えて、大蛇のように大地に根を張り、ひそかにエネルギーを蓄えてきたように思えるのです。
そして何百年もの時間を飛び越えて、かつて利根川流域に生きてきた人びとに出会えたような、懐かしい思いがしたのです。

根っことフジの花

ちなみにこの藤花園でフジの花が見られるのは5月6日まで。ちょうどゴールデンウィークの4月下旬から5月上旬が見ごろかもしれません。ぜひ足を運んで鮮やかな藤の花と、それとは対照的な大きく力強く絡みあう根元を比べてみてください。

藤棚見る人々

そしてもうひとつ、春日部では4月28日に藤まつりが行われます。国の特別天然記念物「牛島の藤」があることから、フジは春日部の「市の花」なのだそうです。春日部西口のふじ通りでは4月中旬から5月上旬まで藤棚の花が1㎞以上に渡って咲き誇り、8種類ものフジの花が楽しめます。ゴールデンウィークには足を運んでみてはいかがでしょう。

藤花園 
埼玉県春日部市牛島786 東武野田線 藤の牛島駅下車10分ほど
電話 048-752-2012
ホームページアドレス http://www.ushijimanofuji.co.jp/
開園は5月6日まで 8~18時 大人1000円 子ども500円 

阿部 真人

Masato Abe 還暦特派員
大学を卒業後、およそ30年間テレビ番組を作ってきました。57歳の時に、主夫となり、かつ自由人として旅に生きることを決意して早期定年退職。登山を始め、東京の街歩きガイドや温泉めぐり、豆大福探訪などなど60歳の還暦を迎えて好奇心が高まっています。


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