ホテルの裏庭からスタートする気軽なジャングルトレイル
冒険と聞くと、どのような場所や旅のルートを思い浮かべますか? 絶海の孤島への船旅だとか、地平線まで続く荒野を4輪駆動車で横断するだとか、いろいろなイメージが浮かぶと思います。その中には恐らく、熱帯のジャングルの踏破も含まれると思いますが、いかがでしょうか。
ただ、このジャングル、存在は誰もが知っていても、実際に分け入って散策した経験のある日本人は、ほとんど居ないはず。興味はあっても、南米大陸の本格的なアマゾンとかになると、距離的にも費用的にも時間的に難易度的にもハードルが上がりすぎて、おいそれとチャレンジできませんよね。
そこで今回は、マレーシアのレダン島で気軽に挑戦するジャングル・トレイルを紹介します。マレーシアはほぼ赤道直下(実際は北緯4℃ほど)にある国で、地元ガイドの方によれば国土の半分が原生林。そんなマレーシアだからこそ、半島の東岸にあるリゾート地のレダン島では、ホテルの裏庭から気軽にジャングルに分け入れるようになっているのですね。
ウミガメの聖地レダン島がジャングル・トレイルに向いている理由
ジャングル・トレイルの詳細を語る前に、まずはレダン島の大まかな情報をまとめます。レダン島はマレー半島の中でも、マラッカやクアラルンプールなど主要都市がある西側ではなく東側。ウミガメで有名なトレガンヌ州のクアラ・トレンガヌから、フェリーで向かう南シナ海の離島ですね。
2000年に香港の映画が撮影されるまでは、ダイビングスポットとして知る人ぞ知る離島の楽園でした。しかし、今ではリゾート地化され、中華圏の人を中心に世界各国からリゾート客が集まっています。
島はウミガメの産卵地としても名高く、豊かな自然環境は海洋公園にも指定されています。サンゴ礁に囲まれた島には、熱帯性植物が生い茂っています。そのため、ビーチ沿いの低地に建設されたリゾートホテルからは、レンジャーのガイド付きでジャングル・トレイルが楽しめるのですね。
富士の樹海も踏破したレンジャーと歩く離島のジャングル
筆者が参加したジャングル・トレイルは、レダン島の人気ホテル『Laguna Redang Island Resort』のプログラムの一環で行われたツアーでした。敷地内に設けられたジャングルの入り口から、同ホテルのレンジャーRizanさんのガイドによって密林に分け入っていきます。
聞けばRizanさんは日本が大好きで、今までに何度も日本を訪れている親日派なのだとか。「一番好きな場所は?」と聞くと、東京でも大阪でも京都でもなく、さらには日光や鎌倉や北海道でもなく(すべてRizanさんは旅行済み)、富士の樹海という答えが返ってきました。
樹海に入る前は、周りの日本人から「絶対にやめろ」と制止されたと言いますが、森林の探検は彼にとって専門分野です。装備を一そろい抱えて、樹海に分け入った経験もあるのだとか。
スマートホンに記録された写真を見せてもらうと、公開できない痛ましい写真も含まれていました。富士の樹海が日本人にとってどのような場所なのか事前に理解して入ったため、Rizanさんは冷静でいられたみたいですね。
ジャングルで生き抜くための水の探し方
親日派のRizanさんのジャングルトレッキングは、まずサバイバル術の解説から始まります。余計に不安になるという人も居るかもしれませんが、トレッキング中にはぐれるという最悪の事態を想定した準備は大事ですよね。
道に迷った、遭難したときに何よりも大切で、下線を引き赤丸をつけて蛍光ペンで強調しても足りないくらい大事な知識は、水の確保の方法なのだとか。
食物とは違って、水がなければ人はすぐ死んでしまいます。高温多雨の熱帯地方に発達する森林の中はとても蒸し暑く、放っておいても水分が汗として失われていきます。まさに水をどこに探すかが、生命線となってくるのですね。
水の確保場所として、Rizanさんは例えば、日本人にもなじみ深い竹を挙げてくれました。変色した竹は駄目だと言いますが、青竹の場合、節と節の間に水が入っているため、V字の切込みを入れて穴を開ければ奇麗な水が確保できると言います。
帰国後に調べてみると、確かに『Expert Companions: Outdoor Skills and Tips』(Thunder Bay Press)などサバイバル術を扱った各種の資料にも、竹が有効な水分補給源だと書かれていました。何気なく今までの人生で竹を見て生きてきましたが、竹に対する印象が変わる思いです。
細い若竹の場合は、先端をロープで引っ張って弧の字に曲げ、固定した上で先端をカットしてもいいそう。出てくる水をコンテナで集まれば、乾季であっても水が確保できるみたいですね。
水が得られる他の植物とは
竹以外にも、幾つかの植物で水を確保できると言います。代表例が、つる性の植物ですね。ターザンがぶら下がって森の中を移動する、あのつるです。地表から高い位置にV字の切り込みを入れ、その上で地表近くの部分を斜めに切断します。それだけで断面から、水がしたたり落ちてくるのだとか。
しかし、切断面から白い樹液や白い液体が出てきた場合は、決して口にしては駄目。透明な水が出てきても苦みが強かったり、酸味が強かったりする場合は、口に入れても飲み込まず、吐き出すべきみたいですね。
他には緑色のココナッツや熟したココナッツからも水がとれますし、Rizanさんの情報ではありませんが、バナナの木を根元から切り倒して、幹を器のようにえぐっても、根から水が上がってくぼみに水がたまると、一部の情報に書かれていました。
もちろん、レダン島で開催されるLaguna Redang Island Resortのジャングル・トレイルは、トレッキングコースに蛍光色のロープが引かれているため、仮にはぐれても一人で帰れるようになっています。
それでも万が一を想定したレクチャーは、初めて熱帯雨林に入る人は大切な情報です。ジャングルは恵みをもたらす存在である一方で、とても危険な場所なのですね。
木の実に毒があるかを見抜く方法
Rizanさんのレクチャーは、もちろん水の収集方法だけではありません。木の実などを口にする必要が出てきたときのサバイバル術も教えてくれました。
ジャングルで迷い、水が確保できても、救助が来るまで、あるいは自力で脱出するまで、野生の木の実などを口にする必要がでてきます。ただ、野生の木の実に毒がある場合も、もちろん想定できます。中毒症状が出れば、ジャングルの中では致命的。
一般的に毒の有無を確かめる場合、
- 木の実をつぶして、ひじの内側にこすりつけてみる
- 15分待って肌に不快感や異変がなければ、今度は唇に塗ってみる
- 唇に不快感がなければ、舌につけて刺激がないかを確かめてみる
- 刺激や変な味がなければ少量を口にして、飲み込まずに数分、口の中に入れておく
これらの作業を辛抱強く行って、問題がなければ少量を飲み込み、体の変化を数時間見守ってみるといいみたいです。ジャングルの中で、安全に口にできる食べものを確保する作業が、どれだけ困難かが伝わってきますよね。
絶景も楽しめるレダン島のジャングル・トレイル
筆者が入ったジャングルは、ある程度人の歩いた足跡が残っているジャングルでした。さすがにサンダルでは歩けませんが、ある程度ラフな格好でも気軽に入れる密林です。同行した人たちの中には、肌を過度に露出した短パンを履いて、片手にカメラを抱え歩きながらビデオ撮影をしていた人も居たくらいです。
それでも、ジャングルはジャングル。植物が密集して生えているため、海がすぐそばにあっても、風は森の中に届きません。蒸し暑さが段違いで、虫よけのスプレーを丁寧に吹きかけた手に、蚊が次々と寄ってきます。
歩いていると、とげのある植物が洋服や肌にすぐ引っ掛かるため、思わぬけがのリスクも高いです。Rizanさんによると、とげに引っ掛かった状態で無理に抜け出そうとすると、余計にとげが肉に食い込み、大けがの原因になると言います。
何かに引っ掛かったと思ったら立ち止まって、後退しながらとげを外し、改めて進みなおす必要があるみたいですね。
ジャングルには、アリ塚もあちらこちらにありました。不用意に近づくとアリが脚を上ってきて、皮膚に食いついてきます。得体のしれない羽虫が空中を飛行していて、野生生物の鳴き声も遠くから聞こえてきました。
「そんな場所、行きたくないんだけど」
と普通の旅行者なら思うかもしれません。しかし、レダン島のトレッキングに使用されるジャングルには、ご褒美のように絶景ポイントが幾つか用意されていました。標高76m(250ft)の高台からは、奇岩の連続する海岸線と真っ青な海が一望できるようになっています。
軽装で本格的なジャングル体験を満喫できる上に、ご褒美のような展望も待っているレダン島のジャングル・トレイル。日本に詳しいレンジャーも居て、ホテルの敷地内からスタートもできますから、
「人生で一度はジャングル探検を」
と思っている人は、ジャングルデビューの場所として最適と言えます。ちなみに密林を抜け出しビーチで食べた氷菓子の味も、格別でした。併せて、トレッキングの後に体験してみてくださいね。
[All photos by Masayoshi Sakamoto(坂本正敬)]
[参考]
※ Expert Companions Outdoor Skills and Tips – Thunder Bay Press