熊本の天草の様子。※本州ではありません。
和歌山の南部
和歌山県の串本にある橋杭岩
本州で最もイルカが見られる場所として、真っ先に挙げられる土地は、和歌山県の南部です。串本、古座、太地、勝浦など、吉野熊野国立公園に入る湾岸の景勝地は、本州の中でも黒潮の流れる太平洋に深く突き出した、紀伊半島の南端の海岸線に連なっています。
一帯ではマリンスポーツやダイビングが盛んで、同じ黒潮が海岸線を洗う高知や宮崎などと共通して、南国ムードが感じられます。当然、イルカも暖流の黒潮に乗って、このエリアには日常的に出没します。
例えば現地では、ドルフィンウォッチやドルフィンスイムが、旅行のプログラムの目玉になっています。さらに、この土地の人たちとイルカの近さを物語るエピソードとしては、現地でイルカの刺身も食べられているほど。
食べたいかどうかは別として、イルカと人間の暮らしの距離感が伝わってくるエピソードですよね。
石川の能登島
能登島大橋
日本地図を広げてみてください。
太平洋に突き出す紀伊半島とは反対に、日本海には能登半島が突き出しています。その半島の東岸には、富山湾が湾入している七尾湾があり、その七尾湾には巨大な能登島が浮かんでいます。
能登島が目玉焼きの黄身だとすれば、七尾湾は白身のような形。その「白身」の七尾湾にも、このところイルカの生息が確認されています。
もちろん、単流の対馬海流はしっかり能登まで流れ込んでいますし、緯度もそれほど高いとはいえないのですが、北陸にイルカが定住するとは、従来はなかなか考えられていませんでした。
しかし、2020年(令和2年)8月の時点で、12頭のミナミバンドウイルカの家族が暮らしています。そのイルカを使って、現地ではイルカウォッチング、ドルフィンスイムの観光サービスが提供されています。
能登にある縄文時代の遺跡には、現地でイルカ漁が盛んに行われていた痕跡がある様子。意外に思えて、古くから能登ではイルカが生息していたのですね。
青森の陸奥湾
陸奥湾
緯度の高さでいえば、実は青森県の陸奥湾でも、イルカが見られます。青森まで行くと、完全にイメージは北の海ですよね。
こちらはさすがに1年中、定住しているわけではないそうですが、春から夏にかけて、カマイルカという北太平洋の比較的冷たい海でも暮らせる小型のイルカが数百頭レベルで、集まると知られています。
確かに冷静に考えてみると、陸奥湾はかなり北にありますが、湾の入り口は日本海側に向いており、太平洋側は下北半島に守られています。
日本海側の沿岸には南の方から北上する暖流の対馬海流が流れていて、その暖流がちょうど陸奥湾に流れ込みやすい環境があります。
比較的冷たい海にも暮らせるカマイルカですから、陸奥湾は問題なく回遊できる場所なのかもしれませんね。
ちなみに青森のイルカといえば、本州最北端の浅虫水族館 で見られるイルカショーも、思い出したいところ。野生のイルカではないですが、確実に楽しめるプログラムとして、陸奥湾も水族館も両方訪れてみるといいかもしれませんね。
静岡の下田
伊豆の白浜
一転して、温かい海へ目を向けます。和歌山県の南端がイルカの名所であれば、その黒潮に沿って突き出している静岡県の伊豆半島も、当然イルカが見られるはずです。
例えば伊豆半島の東岸、富戸港からクルーズに乗れば、黒潮に乗って回遊する野生のイルカを楽しめます。
本州ではないですが、伊豆諸島は春から夏にイルカが見られる鉄板のスポット。やはりあの海域は、黒潮に乗ってイルカが自由に行き来する「海の東海道」といった感じなのかもしれませんね。
ちなみに伊豆といえば、南端の下田に、半野生のイルカと濃密に触れ合える下田海中水族館 があります。関東からも近いですから、首都圏に暮らす人が気軽にイルカに触れ合いたいと思ったら、伊豆半島も有力な旅先になってくれそうですね。
千葉の銚子
千葉の銚子の海
黒潮に沿ったイルカの「海の東海道」は、日本橋のある江戸の前の東京湾を越え、千葉県の房総半島にも続いています。南房総はもちろん、同じ千葉でも北部の東端、銚子でも1年を通じてイルカを楽しめるのですから驚きです。
暖流の黒潮は、銚子の沖から東北の沖合で寒流の親潮とぶつかると言われています。その意味で、銚子にもイルカがほぼ1年を通じて当たり前に回遊しているのですね。
特に4月~5月になると、沖合、沿岸でイルカウォッチングの遊覧船が運行されています。4月から5月といえば、気温も上がり、船で沖合に気持ち良く出られる時期。
一都三県でも千葉や埼玉の東部、東京の東部に暮らしている人たちは、イルカとの触れ合いを求めて、銚子を目指してもいいかもしれませんね。
以上、日本の本州でイルカを見られる代表的な場所を紹介しました。もちろん、冒頭の富山のように、これ以外の土地でもイルカは目撃されています。
ただ、高い確率で野生のイルカに遭遇したいと思えば、場所を選ぶ必要があるはず。新型コロナウイルス感染症の影響が収まり、再び自由に旅に出られる時期が戻ってきたら、上述した旅先への旅行を検討してみてもいいかもしれませんね。
[参考]
※ 島あそび島時間島のまま島のひみつ – 能登島観光協会 ※ 陸奥湾の流れについて ※ 青森のイルカについて ※ 日帰りで行ける伊豆の海で野生のイルカと泳ぐ!富戸ドルフィンスイム&ネイチャークルーズ ※ 銚子市/イルカウォッチング
[All photos by Shutterstock.com]
Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(
https://hokuroku.media/ )創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。
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