
湯たんぽ

最初は湯たんぽから。今でこそ使う人は少なくなってしまったかもしれませんが、お湯を入れ布団の中に入れておけば、一晩中、幸せな温もりを感じられる道具です。この湯たんぽという言葉、よくよく考えれば不思議な響きがありますよね。
湯たんぽを『広辞苑』(岩波書店)で調べると、「湯湯婆」と漢字が当てられていると分かります。
<(タンポは唐音)中に湯を入れ、寝床などに入れて、足や体を温めるのに用いる道具>(『広辞苑』より引用)
意味は、以上のように書かれています。「タンポは唐音」とありますが、唐音とは漢字の読み方のひとつで、宋、元、明、清時代の中国語の発音に由来していると、広辞苑に書かれています。
要するに、湯たんぽの「タンポ」とは中国語なのですね。愛知芸術文化センター愛知県図書館によれば、鎌倉時代、あるいは室町時代に、もともとは「湯」を抜いた「湯婆」として日本に伝わったらしいです。
漢字辞典『漢字源』(学研)で「婆」を調べると、年老いた女性、(俗語で)妻、夫の母(しゅうと)などの意味が見られます。その「婆」を使った「湯婆」については、
<中に湯を入れてからだなどを温める容器。妻の代わりに抱いて寝る>(『漢字源』より引用)
と載っています。「妻の代わりに抱いて寝る」とは、かつての中国の皇帝に対して、そうしたジョークを飛ばした僧侶がいたみたいです。
その湯婆が日本に輸入され、
<「ゆ湯婆」>(『漢字源』より引用)
という具合に、呼び方が変わります。話し言葉として使う際に、唐音の「タンポ」では意味が通じにくいため、お湯を連想させる「ゆタンポ」と呼ばれるようになったとされています。
カイロ

次も、冬の季語に使われるカイロの語源を考えます。
一般的には「ホッカイロ」で親しまれていますが、「ホッカイロ」は1923年(大正12年)創業の総合日用品メーカー「白元」の商品名です。現在は医薬品を製造販売する「興和」が、国内販売事業を譲り受けています。
エフエム・クマモト(FMK)の取材に応じた白元の担当者によれば、1979年(昭和54年)に「ホット」+「カイロ」で「ホッカイロ」として命名し、商品化したとの話。
「ホット」を抜いた「カイロ」の語源を『広辞苑』で調べると、漢字で「懐炉」と書くことがわかります。意味は文字からも察する通り、
<懐中して胸・腹などを暖める具>(『広辞苑』より引用)
とあります。こちらは中国から伝わった用具というわけではありません。たき火やいろりなどで焼いた軽石を、布にくるんで懐に入れた温石(おんじゃく)が、江戸時代の日本で生まれます。
さらに時がたち明治に入ると、今度は麻の殻を炭の粉末にしたカイロ灰が生まれます。このカイロ灰を容器に入れ火を点け、容器を閉じて懐に入れて暖を取るため、「懐中に入れる炉」=「懐炉」という言葉が生まれたのですね。
ちなみに炉とは、原子炉などにも使われます。『漢字源』によれば、「つぼ型の丸い形をしたこんろ」という意味だそうですね。
布団

最後も同じく冬の季語、布団の語源を調べます。布団を『広辞苑』で調べると、「蒲団」という漢字が載っています。「蒲団」とは、
<「蒲」「団」はともに唐音>(『広辞苑』より引用)
とあります。唐音とは、一時期の中国語の発音を由来とした漢字の読み方でした。「蒲」の意味は、ガマ科の多年草であるガマで、淡水の湿地に目立つ植物です。
昔は、この植物を編み込み、座禅の際に用いる円座にしました。この円座を「蒲団」と呼びます。「団」は『漢字源』を読むと、
<円形に囲んだ物の意>(『漢字源』より引用)
とあります。ガマの葉で編み込み、円形にした敷物を、本来は「蒲団」と呼んだのですね。
その後の流れは、ニッポン放送のホームページ上に詳しいです。ガマの代わりに「蒲団」に綿が使われるようになると、綿を包む道具として布が使われるようになります。すると、用済みになった「蒲」の代わりに「布」が当て字として使われ、読みは同じで「布団」になったのですね。
ただ、この綿の詰まった布団は、意外にも高級品のため、全国の津々浦々まで浸透するまでには、昭和の戦後まで待たなければいけなかったといいわれています。戦後間もなく生まれた知人にも確認したところ、第二次世界大戦後であっても、例えば地方では布の中に干したワラを入れる布団が、普通に使われていたみたいです。案外、日本人が今のような豊かな暮らしを手に入れた時期は、最近なのですね。
以上、冬の季語にもなる身近な道具の語源を調べましたが、いかがでしたか?ほかにも身近な言葉に注目して各種の資料を調べてみると、意外な発見があって、いい遊びになるかもしれませんよ。
[参考]
※ レファレンス協同データベース
※ カイロのすべて – 桐灰
※ ホッカイロの「白元」のヒミツ – FMK
※ ご存知ですか?蒲団と布団の違い【鈴木杏樹のいってらっしゃい】 – ニッポン放送
[All photos by Shutterstock.com]

あなたが知りたかったことが、この記事で参考になりましたか?
Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
1979年東京生まれ、埼玉育ち、富山県在住。成城大学文芸学部芸術学科卒。国内外の媒体に日本語と英語で執筆を行う。北陸3県を舞台にしたウェブメディア『HOKUROKU』の創刊編集長も務める。
https://hokuroku.media/
【世界三大奇虫】見た目がグロテスクでも大人気の虫とは?日本にもいた!
Jan 27th, 2023 | 坂本正敬
世界を代表するとされるものを3つ取り上げて、「世界三大〇〇」と呼ばれるさまざまなものがありますよね。そこで、どんな事物がそういわれているのか調べてみました。あなたはどれだけ知っているでしょうか? 今回は、ちょっと気持ち悪い(と少なくとも筆者は感じる)「世界三大奇虫」について紹介します。
「凡例」の正しい読み方と意味、知っていますか?【正しい日本語解説Vol.
Jan 26th, 2023 | 熊本沙織
社会人になると、新しい言葉を使う機会が増えますよね。使い慣れていない言葉を無理に使い、大事な場面で恥をかいてしまった……。なんていう人も少なくないのでは? そこでTABIZINEでは、知っているようで意外と知らない頻出ワードを徹底解説! 今回は、読み方に迷う人が多い「凡例」ということばについて、日本語に関する著書も多数手がけている、国語講師の吉田裕子さんに解説してもらいます。
【実はこれが日本一】日本で最も「駅チカ」のお城は広島県に2つあった
Jan 24th, 2023 | 坂本正敬
日本一高い山は「富士山」、日本一大きな湖は「琵琶湖」、日本一高いタワーは「東京スカイツリー」など、有名な日本一はいろいろありますが、あまり知られていない、ちょっと意外な日本一を紹介するシリーズ「実はこれが日本一」。今回は、人気のテーマである鉄道とお城を組み合わせた日本一を紹介します。
【世界の立入禁止スポットvol.10】水銀の川が流れていた!? 謎のベー
Jan 22nd, 2023 | あやみ
かつて13の王朝が都を置き、都城としての歴史は通算1,100年以上にもおよぶ中国の「西安」。ここはシルクロードの起点でもあり、古代ロマンが息づいています。今回は、そんな西安の世界遺産「秦始皇帝陵」をクローズアップ! 発掘調査がなかなか進まず、立ち入ることができない地下宮殿の秘密にも迫ります。
【世界で最も平和な国ランキング】日本は何位?15年連続で首位を守り続けて
Jan 21st, 2023 | あやみ
オーストラリアのシドニーに本社がある国際シンクタンク「経済平和研究所(IEP)」が毎年、「世界平和度指数(GPI)」を発表しています。16回目となる2022年版では、日本が10位にランクイン! とはいえ、世界情勢が著しく変化した2021〜2022年。ロシアのウクライナ侵攻により、世界各国の平和指数にどのような変化があったのでしょうか?
【日本三大うどん】香川「讃岐」・秋田「稲庭」、もうひとつは?
Jan 20th, 2023 | あやみ
寒いシーズンは、温かいうどんが恋しくなりますね。また、気温が上昇し、暖かくなると冷たいうどんを食べてクールダウンしたくなるものです。そんなうどんは、日本のソウルフードのひとつ。トッピング次第でアレンジ無限大なのも魅力です。さて、「日本三大うどん」といわれているのは、香川県の「讃岐うどん」、秋田県の「稲庭うどん」、あともうひとつは何でしょうか?
「早急」の正しい読み方と意味、知っていますか?【正しい日本語解説Vol.
Jan 19th, 2023 | 熊本沙織
社会人になると、新しい言葉を使う機会が増えますよね。使い慣れていない言葉を無理に使い、大事な場面で恥をかいてしまった……。なんていう人も少なくないのでは? そこでTABIZINEでは、知っているようで意外と知らない頻出ワードを徹底解説! 今回は、読み方に迷う人が多い「早急」という言葉について、日本語に関する著書も多数手がけている、国語講師の吉田裕子さんに解説してもらいます。
【実は日本が世界一】1個1.849kg!最も重いリンゴのギネス記録は青森
Jan 18th, 2023 | 坂本正敬
日本にいながら、意外と知らない日本の「世界一」。いつも何気なく目にしているものから、知られざる自然の世界、そして努力や技術の賜物まで、日本には世界に誇れる「世界No.1」がたくさんあるんです。そんな「実は日本が世界一」、今回は、リンゴに関する世界一を紹介します。以前、世界で最も食べられているリンゴの品種として「ふじ」を紹介しましたが、世界一のポイントはそれだけじゃないようですね。
【台湾入国ルポ2023年1月編】羽田からANAで台北松山空港へ!コロナ前
Jan 17th, 2023 | Yui Imai
台湾は2022年10月13日より隔離なしでの観光目的の渡航が可能になっています。台湾で暮らす筆者は年末年始を日本で過ごし、2023年1月中旬に羽田空港からANAで台北松山空港へ移動したのですが、台湾滞在時は自主防疫が必要だったりと、コロナ前とは少し異なる点もあります。この記事では日本出国から飛行機内での様子、台湾入国までの一連の流れを紹介します。
【あの国はなぜ親日国なのか?】「ドイツ」が親日である政治的・外交的背景
Jan 16th, 2023 | アンダルシア
世界には「親日」といわれる国や地域がたくさんあります。海外旅行をするときも、親日国を訪れると、なんとなく過ごしやすかったり、現地の人とのコミュニケーションがスムーズだったり、なんてことがないでしょうか? そこで、比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者が、なぜその国や地域が親日なのか、政治や歴史の背景から解説します。