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サッカーの祖先、セパタクローの子孫!?宮本武蔵も加賀の殿様も楽しんだ「蹴鞠」の世界

Posted by: 坂本正敬
掲載日: Apr 28th, 2021.

石川県金沢市にあった金沢城で、加賀藩の藩主前田家の十一代当主・治脩(はるなが)が屋根付きの鞠場(蹴鞠を楽しむ専用の庭)で蹴鞠(けまり)を楽しんでいたという新事実が、昨年末にわかりました。史料は当主自筆の日記「太梁公(たいりょうこう)日記」です。この大きな、でもマイナーなニュースを記憶している人は全国で見ると極めて少数派だと思いますが、日本でもサッカーが全国津々浦々に文化として根付き始めてきた今日このごろ。その祖先ともいえる蹴鞠を、この際日本人として総ざらいしてみてはいかがでしょうか?

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蹴鞠

(C) Stray Toki / Shutterstock.com


蹴鞠のルーツは中国、さらにさかのぼればインドという説まである

セパタクロー

(C) BTWImages / Shutterstock.com

「蹴鞠」というと、どういったイメージがありますか?日本古来の貴族の遊びで、装束と烏帽子(えぼし)を身に付けた競技者の姿が思い浮かぶと思います。

しかし、意外にも蹴鞠のルーツは日本ではありません。池州著『日本の蹴鞠』(光村推古書院)によると、オリジナルは中国、さらにさかのぼればインドという説まであるそう。インド→中国→日本といえば当然、仏教の伝来ルートと重なります。インドで興った仏教が東アジア、東南アジア、チベットなどで独自の進化を遂げ、朝鮮半島を経て文物とともに日本に入ってくる際に、蹴鞠も日本に伝わったのだとか。

もちろん、仏教の伝来とともに、東アジアや東南アジアでも蹴鞠は行われたそう。マレーシアやタイなど東南アジアで盛んなセパタクローは、蹴鞠の子孫という考えもあります。

新年の「蹴鞠はじめ」の行事で有名な京都の下鴨神社によれば、

<蹴鞠は、およそ1400年前に中国から仏教などと共に伝わった。その後、中国や東南アジアでは衰えてしまった>(下鴨神社の公式ホームページより引用)

といいます。しかし、日本では生き残り、冒頭で紹介したように江戸時代の大名が、さらには庶民も楽しむくらいに浸透していたわけです。

もちろん、明治維新とともに蹴鞠はすたれていきます。しかし、明治天皇ご自身が蹴鞠をされる方だったそうで、明治40年(1907年)に勅命と御下賜金を出され、蹴鞠(しゅうきょく)保存会をに立ち上げられました。保存会は現在も存在しています。仏教伝来からのともしびは、確実に守られているのですね。

まりを蹴る際の独自の作法

蹴鞠

(C) Stray Toki / Shutterstock.com

上述した下鴨神社では以前、サッカーW杯の必勝を祈念して蹴鞠が奉納されました。

そもそも下鴨神社の御祭神は、賀茂建角身命(かもたけつぬみのみこと)です。その化身が、ヤタガラスともいわれています。ヤタガラスは、日本サッカー協会のエンブレムにも採用されている伝説の生き物。

その由緒ある場所で行われた、サッカーW杯の必勝を祈念した蹴鞠で、ユニークな出来事がありました。海外のメディアクルーが大胆なお願いをして、蹴鞠の名人(名足)たちに、サッカーボールを渡し、リフティング(サッカーボールを地面に落とさないで手を使わず蹴り上げ続ける動作)させるという企画の撮影がありました。

何回くらいボールを落とさずに蹴り続けられたと思いますか?当時の映像を見ると、蹴鞠では上手に蹴り上げていた蹴足たちも、サッカーボールではうまく蹴れていませんでした。続いて数回という感じでしょうか。やはりサッカーと蹴鞠では、勝手が違うみたいですね。

そもそも蹴鞠では、鹿革と馬革でつくった直径20cm前後、重さ90~120gのまりを蹴ります。サッカーの公式試合で使われる5号球は直径が22cmほど、重量が410~450gとされています。サイズはサッカーボールの方が大きいためにけりやすいですが、重さが違います。蹴鞠の感覚で蹴ったため、ボールの重みに負けてしまい、蹴足の人たちは上手にサッカーボールを扱えなかったのかもしれません。

蹴鞠のフォームもサッカーとは一見して似ていながら、実際にはかなり違います。蹴鞠にはまりを蹴る作法が細かく決められていて、

  • 右足で蹴る
  • 低い位置(地面に近い位置)で蹴る
  • ひざを曲げずに蹴る
  • 体の近くでける(ひざも腰も曲げずに、胸も反らず、体を直立させ、体に近い位置で蹴る)

といったルールがあります。すり足でスススッと落下地点まで近づき、まりが地面に落ちるすれすれのタイミングで、鳥のように真っすぐ伸ばした脚(足)を上げ、足の親指の付け根で蹴り上げるわけです。

その姿が「うるわしく」も見えなければいけません。単に回数を続けるのではなく、所作として美しく見えなければ駄目なのですね。そのうるわしい所作で、蹴鞠の重みを想定してサッカーボールの5号球を蹴れば、当然ですがボールの勢いに足が負けてしまいます。

その意味では普段重たいボールを蹴っている元日本代表の小野伸二選手や元ブラジル代表のロナウジーニョ選手のように、リフティングの特にうまいサッカー選手が、蹴鞠の所作に従ってまりを蹴り上げた方が、対応は早いかもしれませんね。

宮本武蔵も蹴鞠の名人

京都御所鞠場

蹴鞠を見る上で、ほかにもいくつか覚えておくと楽しみが深まる知識があります。

まず、蹴鞠には(冒頭でも軽く触れたように)専用の庭があり、桜、柳、カエデ、松の木(式木)が四方に植えられました。その名残は、現代でも蹴鞠をやっている京都御所、談山神社(奈良)、白峰神社(京都)、平野神社(滋賀)などでも見られます。

それらの蹴鞠の会では、式木(しきぼく)の代わりに、切りたての竹を立てて代用しているはず。「あの竹は何なのだろう?」と思ったら、蹴鞠専用の庭にかつて植えられていた四季を象徴する4本の木(式木)の代用だと思えばいいのですね。

巌流島の戦い

ほかにも、日本人にとって歴史上の有名人が蹴鞠の名足だったと知ると、蹴鞠を見る目が違ってくるはずです。例えば剣豪の宮本武蔵も、蹴鞠の名人として知られていました。あの有名な『五輪書』にも、蹴鞠の記述が見られます。

また、日本史の教科書に必ず出てくる超有名人、中大兄皇子も蹴鞠をしている最中に、中臣鎌足と出会ったのだとか。歴史が苦手な人でも、教科書の最初の方に出てくる2人の名前は、なんとなく記憶しているのではないでしょうか。

644年に法興寺(奈良)で行われた蹴鞠の会では、中大兄皇子の靴がぬげて飛んで行ってしまいます。その靴を拾った人が中臣鎌足で、翌年の645年に大化の改新を2人で成し遂げているわけです。

実は歴史上の人物にも蹴鞠の名足がいたと思うと、蹴鞠が、あるいは歴史がぐっと身近に感じられるのではないでしょうか。

奈良公園の鹿

ちなみに、蹴鞠が「まりを蹴り上げる遊び」として正式に登場する書物は、源高明著の『西宮記』らしいです。905年に開催された蹴鞠の会で、206回けり上げて落ちなかったと記録されているそう。

先ほどの中大兄皇子の蹴鞠の会は、必ずしも現代の私たちが想像する蹴鞠ではなかったかもしれない可能性があるので、まりを落とさずにけり上げ続けたという記録が公式に掲載されている史料は、『西宮記』が最古とされているのですね。それにしても落とさずに206回もまりをけり続けるとは、サッカーをしている人であればその難易度がわかると思います。

日本のサッカーはテクニックに優れているといわれますが、その「DNA」はこのあたりに通じるのかもしれませんね。

[参考]

※ 池州著『日本の蹴鞠』(光村推古書院)
蹴鞠(けまり)について – 談山神社
蹴鞠はじめ – 下鴨神社
【石川】前田のお殿様 蹴鞠を猛練習 金沢城二の丸御殿に「練習場」■ リフティング3000回達成 – 中日新聞

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。


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